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2、 3月9日(2日目)・友人宅警備員

 目が覚めたのは、意外にも翌朝8時前だった。

「うっ‥‥気持ち悪‥‥っ」

 朝起きてまず一番に、体の不調を感じた。なんだか体がふわふわしているし、軽い嘔吐感もある。じんわりとした頭痛も感じており、もしや恐ろしい病気にかかってしまったのかも――

「ただの二日酔いだろバカ」

 容赦ないツッコミは当然きょーこのもの。缶チューハイの並ぶ机の上にどっかりと座り、呆れた視線をくらうに向けていた。

「ああ、おはよー‥‥。まあでも思ったよりはだいぶマシかなー‥‥。ちょっと休めば出発できると思う」

「ざーんねん。外見てみなよ」

 きょーこに促されて窓際まで行くと、空は昨日以上の曇天。道路にはいくつもの水たまりができ、そして今も水たまりの上では絶え間なく波紋が疾走しているようだった。

「あー‥‥マジかー‥‥」

「どーすんの? 一応雨具は持ってきてたみたいだけど」

 くらうはしばらく悩んでからネットで天気予報を調べてみる。どうやら雨は今日だけで明日からは晴れが続くようだ。

「‥‥モゲに聞いて、もう1日泊めてもらおうかな」

「賢明だね。雨の日は滑りやすくて危ないしさ」

 モゲはまだ寝ているようだったので、くらうは持ってきていた文庫本を開き、起きるまでの時間を潰すことに。

 くらうが起きてから1・2時間ほど経った頃、モゲもようやく、若干ふらふらとしながらではあるが、のっそりとベッドから這い出した。

「おはよ。悪いんだけど、今日雨だからもう1日泊めてもらってもいいかな」

「‥‥おはよー‥‥。んー‥‥別にいいよ‥‥。ん‥‥なんか朝メシいる? 確かポタージュがあったはず‥‥」

 かなりふらふらとしながらモゲが台所に向かい、コップの中にこぽこぽとお湯を注いでポタージュを差し出してくれた。

 ありがたく受け取り、2人してしばしぽけっとしながらポタージュをすする。くらうもそれなりにふらふらしているが、どうやらモゲはそれ以上に重症のようだった。

「2人して情けねーな。言うほど飲んでなかったじゃんか」

 きょーこがそんな2人を見て、机の上から2人を見上げて見下したセリフを吐く。

「え、きょーこじゃん。なんでしゃべっとん?」

 くらうはしまった、と思ったがきょーこは平然としたままだ。

「そういう仕様なんだよ、あたしは」

「そっかー‥‥」

 どうやら疑問に思う元気もないらしい。まあ、助かった。

 と、ポタージュをすすっていたモゲが急にがば、と勢いよく立ち上がり、

「‥‥やべえ!」

 謎の笑顔で力強くそう宣言すると、すたすたと確固たる足取りでトイレに向かっていった。

「‥‥確かに、色々とヤバそうだな」

「うん‥‥」

 モゲはしばらくしてトイレから出てくると、もう無理ー、と言いながら再び布団に突っ伏して動かなくなってしまった。仕方ないのでくらうは静かに読書を再開する。

 昼過ぎごろ、さすがにお腹がすいてきたのでスーパーで適当にパンを買ってきて簡単に昼食終了。再び本の世界に没頭する。

 淡々と読みふけっていると、持ってきていた本を半分近く読んでしまっていた。このままでは明日以降の暇つぶしがなくなってしまうと危惧し、モゲの部屋にあった本を読ませてもらうことに。とりあえず一番に目についた【俺の掘った芋がこんなに美味しいわけがない】を読み始める。アニメ版は見たので原作も気になっていたのだ。

 ペラリ、とペーシをめくって静かに文字を追いはじめ――



「‥‥読了してしまった」

 ぱたり、と本を閉じ、くらうは驚愕の表情を浮かべた。

 普段、くらうの読書のスピードは恐ろしく遅い。さらっと読み流すことができず、ついつい読みこみ、ちょっと気になったら前のページに戻って確認して、を何度も行ってしまうため、どうしても時間がかかってしまうのだ。

 今回もいつも通りの読み方をしていたにもかかわらず、1日で1冊読み切ってしまった。

 時間を見るとすでに夕方。やはり他に何もやることがない、やらなくていいと思っているので、集中力もいつもより増していたのだろうか。

 しかしなにより。

 モゲはいまだに、ベッドの上で倒れていた。

 そう、くらうが本を読んでいる間、モゲは時折もぞもぞと寝返りはうっていたようだったが、それだけで起き上がる気配は全くなかった。いやまあ、別にいいっちゃいいんだけど。

 くらうはもう少しだけゆっくりしてから、夕食を食べに行くことに。モゲは寝ているので一言断りを入れてから、駅前のラーメン屋に向かった。徳島に来たのだから、どこかで徳島ラーメンを食べておこうと思っていたのだ。

 やってきたのは【麺王】というラーメン屋。チェーン店なので他県でも見ることはできるが、本場はなにか違うかもしれない。

 どうやら食券を買うようになっているらしく、ラーメンを1つ買って店内へ。店員に券を渡して席に着くと、机の上に辛そうに赤く味付けされたもやしがあるのが目についた。寿司屋でいうところのガリのようなものだろうか。くらうはそれを小皿にとってなんとなしに食べ、衝撃を受けた。

「‥‥これは、美味いぞ!」

「ホントか? あたしにもくれよ」

 ちゃっかりついてきたきょーこにも1本分けてやると、きょーこはそれをかじって眉をひそめた。

「美味い、けど辛ぇよ。せめて白飯は欲しいね」

「まあ確かに欲しいけど、これだけでも全然いけるだろ」

「いけないって。やっぱくらうは変態だな」

 ガツガツともやしのみを食っているうちに、ラーメンが到着した。徳島ラーメンならではのもやしやメンマなどの色々な具材がのっており、スープはかなり濃い目。生卵も欲しかったけれど、別料金で50円もするようなので断念。

「やっぱ貧乏性だな」

「うるせえ」

 丼ごと作り上げたらしいきょーこがラーメンをすすっているのを眺めながら、くらうも同じようにラーメンをすすりつつ、もやしも食いつつ、食べ終わる頃には机に置かれたもやしのビンの中身がほとんどなくなってしまっていた。

「‥‥さすがに食い過ぎかな」

「いいんじゃねーの。タダなんだし」

 貧乏性はきょーこにも伝染しつつあるのかもしれない。

 いや、貧乏性じゃないけど。多分。


 ラーメンを食い終えてモゲ宅に戻ると、その頃になってようやくモゲは起きだした。朝数十分だけ起きて、それから今まで寝ていたのだから、一体何時間寝ていたというのか。

 しばらく昨日と同様シーモネーターで盛り上がっていたが、さすがに本日は飲むこともせず、それなりの時間に就寝することにした。ていうかモゲはまた寝るのか。

 あっという間の1日だったが、明日からはまた頑張らなくてはいけない。ご飯を食べに出かけたとき、すでに雨はあがっていたので、そのまま明日も晴れてくれると嬉しい。

 そう願いながら目を閉じ、旅行中なのに読書しかしていないという奇妙な1日は早くも終わりを告げるのだった。


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