最高の笑顔
記憶が飛んだ。 思考が止まった。 目の前が歪んで見えた。
何を言ってるんだ俺は… 言語障害でも患ったのか… 何が起きているんだ?
「…な…ななな何聞いてんの!!?」
突如取り乱すあのコの顔は赤くなっていた。
「いるの?」
「…いないよ…」
俺の出任せに被せるような彼女の声に一安心した。 でも次の言葉は俺の思考を更に止める。
「…なんでそんなこと聞いてきたの?」
「…もしいたら…応援したいなって…」
何故俺はこういうところでイメージを悪くしないようにと必死になって繕ってしまうんだろう。
一世一代千載一遇のチャンスを俺は変な見栄で潰してしまったよ。
「…実はさ…」
彼女の口が開く。 白い息が漏れる。 俺の息が止まる。
実はの続きは聞きたくない。 この流れって絶対…
「…来週の日曜…一緒に遊びに行きたいなあって考えてる人がいるんだ…」
ナツの言葉に俺は動きかけていた思考を遮断した。 何でこんなこと言っちまったんだよ…
「でもさ…全然話したこと無くてさ。 どんな歌が好きかとかもわからないからカラオケには行こうとは思わないかな。」
ナツがその男の話をしてるときの笑顔は俺と話しているときには一度も見せないような笑顔だった。
雪の白さも相まって一際輝くその笑顔。 今まで散々見たいと思っていた満面の笑みを超える笑顔を見た俺だったけど、
やっぱり俺には見合わないや…
欲しいと思ったものに手を伸ばすには…そのもののある場所は高すぎるところにあったのか…
今までで一番のあのコの笑顔を見て俺はどんな気持ち抱いたのだろう。
嫉妬? 絶望? はたまた感激? 俺は言える。 いづれでもないだろう。
雪の中、紅くなる顔を見せてあのコは振り返った。 俺の顔は血の気が引くように白くなっていただろう。
「…ありがとうアキちゃん、またね! バイバイ!!」
手を振るあのコの笑顔を呆然と突っ立って見送る。 無表情で…手さえ振らず。
怖い顔になってんじゃねえかよ…
何で俺は…あのコの幸せを受け入れられるくらいに度量が深くないんだろう…
最低だな…
真っ黒の手袋を見つめたまま触れない手を握り締める。
足元には真っ白な雪。 さっきまで火照っていたはずの顔に雪の冷たさが突き刺さる。
俺の熱は…この冬が奪っていった。
完結しました…
初投稿だからでしょうか…閲覧数等なかなか伸びませんね…修行が必要だ。