第7話 オオトカゲのテールスープ
ここ数日の間、ロゼは俺に何を求めたと思う?
答えはそう……些細なことだ。
清潔な服、食べるのに困らないご飯、快適な温度の室内。
どれもこれも、俺を悩ませるような問題ではない。
退屈じゃないのかと聞いても暇は素晴らしいと返ってくる。
このままじゃダメだ。
俺のほうが退屈で死んでしまいそうだ。
「なぁ、本当に何かないのか?」
「そうですね。ご主人様がそうおっしゃるなら……」
ロゼはしばらく考え込んだ後に、ある1つの提案をしてきた。
「オオトカゲのテールスープを飲んでみたいです」
「オオトカゲ?」
「はい、以前いたところのご主人様が、愉快そうに笑いながら話していました」
「なるほどな……」
オオトカゲ……聞いたことないな。とりあえず大きなトカゲならなんでもいいのか?
そう悩んでいると、クスクスとロゼは笑った。
「失礼しました。やはりご主人様でも無理ですよね」
「はぁ?俺がいつ不可能って言った」
俺は外套をたなびかせながら大きな声で宣言する。
「いいだろう、お前にオオトカゲのテールスープを振る舞ってやる。覚悟しておけ!」
とにかくトカゲ類の中で大きなやつだ。俺は情報を仕入れるためにギルドへと向かった。
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「……ぷふふ」
ご主人を見送った私は、思わず吹き出して笑ってしまった。ご主人のあの悩ましげな表情は、私にとって最高の料理に等しい。
あの様子じゃしばらく帰っては来ないだろう。
オオトカゲのテールスープ
それは、不可能・存在しないものを意味する慣用句だ。
オオトカゲという名称の生物はこの世界に存在しない。似ている生き物はいるけれど、『オオトカゲ』そのものは存在しないのだ。
敢えてオオトカゲを、トカゲ類の中で最も大きな種と定義するのであれば、その正体は……
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「なるほど、ドラゴンか」
ギルドの資料室であらかた情報を探し終えた俺は、そう結論付けた。
まず、オオトカゲなどという生物はこの世界に存在しないようだ。生物図鑑を探しても、それっぽいものは多数あれどそのものは存在しなかった。
そして、オオトカゲなるものが、『トカゲ類の中でも大きいもの』を示すとしたら、それはドラゴンを示すことになる。
「おもしれえじゃねえか、ロゼのやろう。俺にドラゴンの肉を取ってこいと」
ドラゴンは、この世の中でも格上の存在として認知されている。冒険者の中には、ドラゴンスレイヤーといったドラゴン退治専門の職もあるくらいだ。
「さて、ついでに依頼も受けとくか」
俺は掲示板へ行き、貼られている依頼を眺めた。
ドラゴン生息地での薬草採取、これだな。
「カインさん、お疲れさまです」
「ああ、これ依頼、頼むよ」
「危険地域での薬草採取ですね。……もしかしてドラゴンの討伐を考えていますか?」
「お見通しか」
「カインさんならそうすると考えただけです。ちょっと待ってください」
書類をバサバサとめくってはなにかをメモに書き留めている。
「こちら、今買取強化中のドラゴンの素材リストです。良かったら使ってください」
「あんがとな。って多いな」
「はい。最近また一組ドラゴンスレイヤーチームが解散しまして……」
「最近多いな。大丈夫か?」
「ギルドとしても大変困っています。どうですかカインさん。ドラゴンスレイヤーになりませんか?」
「いやだね」
「ですよね……。まあいいです。ご無事を祈っております。行ってらっしゃいませ〜!」
見送られながら、俺はリストを覗く。空の王者であるドラゴンの素材だ。とてつもない数の部位が、これまたとてつもない値段で取引される。
「これなら運送屋にも寄ってくか」
この街の運送屋は、宅配便以外の仕事がある。
それは、危険地域からの輸送だ。
大型モンスターは1体でとんでもない数の素材が取れる。しかしそんなモンスターがいるのは街から遠く離れた僻地だ。
僻地から街まで素材を運ぶのは、冒険者には文字通り荷が重い。
そこで運送屋の出番だ。依頼地点から街まで素材を運び、運送料として冒険者の儲けの何割か貰う。
「おーい、いるかい?」
「にゃ?カインじゃにゃいか!今店長は出かけてるにゃ」
「クロじゃねえか、配達に出てないとは珍しい」
「今日はここで店番にゃ」
「じゃあそんなとこ申し訳ないんだが、依頼だ」
「にゃ〜?まあいいにゃ、何を狩るにゃ?」
俺はギルドで貰った依頼書をカウンターに叩きつけた。
「薬草採取……って、ど、ドラゴンにゃ!?」
クロは依頼書に押されたドラゴンのスタンプを見て飛び上がった。
「思った以上に大物にゃ、しかしどうして唐突にドラゴンなんて狩るにゃ?」
「なに、最近奴隷を買ってな。そいつに言われたんだ。『オオトカゲのテールスープが飲みたい』って」
「にゃははは!『オオトカゲのテールスープ』をドラゴンで作るにゃ!ケッサクだにゃ!」
「で、依頼は受けてくれるのか?」
「うちの従業員をかき集めてでも受託するにゃ」
「じゃあ頼んだ。尻尾だけは先に持って帰っとくから、あとは好きにしてくれ。報酬も俺の分はいらない」
「相変わらず太っ腹にゃ。了解したにゃ」
「そんじゃ、よろしく」
そう言ってのれんをくぐって店を出る。太陽は……まだ真上まで来てないな。
「今日の昼メシはテールスープだ」
そう呟きながら街の門まで歩く。
魔法で空も飛べるのだが、一度時計塔に突っ込んでからは、街の中では飛ばないようにしている。
「お、カインの旦那。冒険かい?」
街の門をくぐろうとした時、門兵に話しかけられる。
「ちょっと薬草を摘みにな」
「とかいってほんとはドラゴン倒しにいったりな」
「なぜわかった」
「え?ほんとかい?ははは!そいつは驚いた。いや全然冗談のつもりだったよ」
「なんだ、思考でも読まれたのかと思ったぞ」
「そんな魔法使えたら門兵なんかやってないさ」
「まあそれもそうだな」
もしそんな魔法があれば、今頃詐欺師は撲滅されてる。
「それじゃあ行ってらっしゃい」
「ああ、昼には帰ってくる」
街の外に出た俺は、空へと飛び上がる。
空は自由でいい。目的地まで一直線だからな。
俺は目的地方向に狙いを定めて、魔法で身体を加速させた。
登場人物の性別は男でしょうか、それとも女でしょうか
答えはいまのところありません




