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【実験】絶望的状況の奴隷にすべてを与えてみたら  作者: 畑渚


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第14話 目的

「……ん、ここは」


「目が覚めたかい?」


「ひゃっ、ネメさん!?」


「そんなに驚かないでくれよ。呼んだの君だろう?」


 気がつくとベッドの上だった。

 しばらくして、自分が魔力切れで倒れてしまったことに気がついた。


「まったく、倒れてるなんて手紙には書いてなかったから、びっくりしたよ」


「すみません……そうだ!ご主人様は!?」


「……カインだが」


 ネメさんは言いづらそうに暫く黙り込んだ。


「まさか……」


「ああ」


 ネメさんは覚悟を決めたかのように口を開いた。


「ぴんぴんしてるよ。今は晩ごはんの買い出しに行ってる」


「……へ?」


「聞いてのとおりさ。彼なら元気だよ」


「どういうことですか、確かに目の前で倒れて……」


「私が来たときには、君が倒れてるだけだったよ。君の容態を聞いて命に別状がないと知った途端に買い出しに出かけていったよ」


「そんな……」


 私の決死の魔法は何だったというのだ。


「……本当にカインが倒れていたんだね?」


「はい……確かに心臓が止まっていて……」


「……もしかすると、しかしそんなバカな」


「何かわかるんですか」


「あくまで一つの仮説に過ぎないんだが」


 ネメさんはそう言って推論を語り始めた。


「魔力病の可能性がある」


「魔力病?」


「ああ、これはあくまで魔力異常を持つ病気の総称さ。症状は多岐にわたる」


「なるほど。それで、ご主人様の症状というのは?」


「彼は……魔力回復障害の可能性がある」


「魔力回復障害……」


「外部の魔力回復粒子を受け付けない特異体質だ。魔力適応の進んでない赤子などが稀になる奇病さ」


「治るんですか」


「普通は、歳を重ねるにつれて適応が進んで自然に治癒する」


「普通は?」


「カインの場合、すでに完成された体だ。適応が進まないかもしれない」


「……でも変です。だとしたらご主人様はどうして頻繁に魔法を使えるのでしょうか」


「そこが彼の異常性だね。彼の魔力総量は、人間のソレを軽く超えてるのかもしれない」


「そんなことがあり得るんですか」


「だから、あくまで仮説だよ」


「……だとしたら、魔力枯渇で心臓が止まったのだとしたらどうしてご主人様は今元気に?」


「……」


「何ですか、言い淀んで」


 ネメさんは再び黙り込んでしまった。


「君の魔力がカインに流れ込んだ可能性がある」


「そんなことが可能なんですか」


「不可能だと……思っていた。しかし状況的に、『ただの郵便魔法』で君が魔力切れになるというのは考えにくい。何かしらの要因で魔力が渡ったという方が筋が通る」


「私の魔力が……」


「どういう理屈だかは私も専門外だ。でももしその能力があるなら、カインの延命に君は不可欠なんだ」


「ご主人様の……延命」


 聞き慣れない言葉に、思わず戸惑ってしまう。

 あれほど元気だったご主人が、延命されないと死んでしまう脆さを持っていることに強い違和感を覚えてしまうのだ。


「君はどうしたい?」


「……そんなの決まってます」


 今の私は、自分が望むことをしっかりと理解しているのだ。

 答えは簡単だった。



<=>



「ご主人様、おかえりなさいませ」


「おおロゼ、起きてたか。すぐに飯の準備を」


「いえ、私がやります」


「ん?珍しいな」


「良いでしょうか?」


「まあ望むんだったらやらせないとか。分かった」


 そう言ってご主人は基本的な料理を教えてくれる。

 ご主人の料理は複雑ではない。覚えるのにそう苦労はしなかった。


「あとは魔法で……」


「いえ、私にやらせてください」


「なんだ、何か企んでるのか」


「いいですから。ご主人様は先にシャワーでも済ませてきてください」


「お、おう」


 ご主人は強く言えば、引き下がる。

 私が望んだ通りに行動することを、止めることはない。


「おお、ロゼの料理だ」


「お口に合えば良いのですが」


「うん、美味いぞ」


 初めての料理は、それなりに上手くいったらしい。

 まあご主人のレシピ通りに作ったので、全部が全部私の腕というわけでもないが。


「なあロゼ」


「はい、なんでしょうかご主人様」


「何を企んでいる?」


「企みなんてそんな。ただやってみたいだけですよ」


「……ならいいんだが」


 ご主人はどこか腑に落ちないようだった。

 しかし、それ以上の追求は今はしてこないようだった。



<=>



 夜も更けてきた頃、俺は自分の寝室の前に立つ存在を検知して目を覚ます。

 不審者ではない。不審者ならば、家に入る前の時点で警戒魔法で察知できるはずだからだ。


 ぎぃと小さく音を立てて、扉が開く。


「何用だ」


「っ!ご主人様、まだ起きてらしたんですね」


「寝込みを襲いにでも来たのか」


「ふふふ、そうです、と言ったらどうしますか?」


「冗談を言うな。お前じゃ俺には勝てん」


 ロゼは扉を閉めて、こちらに近づいてくる。窓から差し込む月光が、寝間着姿のロゼを扇情的に映し出した。


「確かに私じゃ、ご主人様に力で敵わないでしょうね」


 ロゼはベッドの端に座り込みながら、俺の手を取った。


「ですが……ベッドの上ならばどうでしょう」


「……ロゼ、俺はそんな事をしてもなびかないし、恩も感じなくていいと言ったはずだが」


「ええ、わかっています」


「じゃあなんで……」


 そういう俺の口を、ロゼは自分の口で塞いだ。


「もし私が望むと言えば、ご主人様はこの先もやってくれますか」


 俺は暫く黙り込んでしまった。


 しかし、ロゼが望むというならば、俺の答えは一つしかありえない。


「お前がそう望むのならな」


 眠れない夜が始まった。


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