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第7話 俺の慢心

風俗に通っていいのは、 独り者の特権なのか。

時々考える。

店の待合室で、 既婚者らしい男を見る。

指輪を外していないやつもいる。

スマホの待受に子供の写真。

それでもここに来る。

自分の娘くらいの年齢の女を選ぶ。

何を考えているんだろう。

罪悪感はないのか。

それとも罪悪感より性欲の方が強いのか。

子供に胸を張れるのか。

将来もし知られたらどうする。

それでも若い身体を欲するのか。

男はそこまで単純なのか。

だが笑えない。

俺は独身だ。

誰も裏切っていない。

倫理的には白だ。

だから許されるのか。

本当に?

金で若さを買っている構図は同じだ。

指輪がないだけで、 何が違う。

結局、 既婚か独身かの問題じゃない。

欲望をどう扱うかの問題だ。

人間は年を取っても衰えない部分がある。

身体より先に、 理性が疲れる。

若い女を欲しがる男を軽蔑する資格が、 俺にあるのか。

俺も同じ列に並んでいる。

ただ家族がいないだけだ。

孤独は免罪符じゃない。

それでも通う。

考えながら通う。

矛盾を抱えたまま。

欲望に理屈をつけながら。

人間は、 正しさで生きていない。

納得で生きている。


るなをもう一度予約した。

理由は単純だった。

会いたかった。

それだけだ。

当てつけでも犯人探しでもない。

欲望が理由として最短距離を選んだ。

それが慢心の始まりだった。

予約は取れていた。

確認もした。

スクリーンショットも残している。

完璧だった。

だから当日、予約が消えているのを見た瞬間、理解が追いつかなかった。

履歴がない。

最初から存在しなかったみたいに。

代わりに同じ時間帯が空いている。

白紙。

俺の時間だけが削除されている。

店に電話した。

事務的な声。

「キャンセル扱いですね」

理由を聞いても、言葉が霧みたいに逃げる。

会話が噛み合わない。

俺は客のはずなのに、何も保証されない。

関係は最初から対等じゃない。

金は払うが、主導権はない。

その現実が腹に落ちる。

怒りより屈辱が先に来た。

眠れなかった。

るなのDMが開いているのを見つけた。

指が勝手に動いた。

苦情を書いた。

冷静な文面のつもりだった。

送信した瞬間、嘘だと分かる。

感情が滲んでいる。

返信は早かった。

出勤変更が重なって、システムがズレた。

意図はない。

謝罪。

説明。

それで終わる話だった。

終わらせればよかった。

俺は続けた。

細部を責める。

言葉で囲う。

勝ちたいわけじゃない。

納得したくなかった。

やり取りは夜を越えた。

時計の意味が消える。

るなの文章が短くなる。

俺の文章は長くなる。

最後に来た一文で、全部止まった。


自分の思い通りにならないからって私に言わないでください。


静かだった。

画面が冷たくなる。

その一文だけが、頭の中で何度も反響する。

俺は何をしているんだ。

FIREした理由を思い出す。

平穏に生きるために、時間を買ったはずだった。

なのに深夜、DMで女と戦っている。

勝っても何も残らない。

むしろ減る。

尊厳とか、品とか、そういう形のないものが。

慢心だった。

金と自由があれば、何でも許されると思っていた。


数日後、手土産を持って店に行った。

謝るためだけに。

るなは怒っていた。

当然だ。

目が笑っていない。

それでも話は聞いてくれた。

最後にため息を吐いて、許した。

完全じゃない。

仮釈放みたいな許し。

それで十分だった。


後日、アヤにその話をした。

笑い話として。

「俺さ、DMで喧嘩してさ」

アヤは腹を抱えて笑った。

「バカじゃん」

軽い言葉。

だが正確だった。

俺も笑った。

自分の愚かさを、外側から眺めるみたいに。

笑い話にできる程度には、傷は乾いていた。

だが痕は残る。

慢心は一度覚えると、癖になる。

俺はそれを知った。

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