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第三章 何もなかった時間
フィーナ・アービトラが生まれた日のことを、
王宮にいる誰もが、今でもよく覚えている。
理由は単純だった。
――何も、起きなかったからだ。
王家に生まれる子には、
たいてい何らかの兆しが現れる。
感応値。
演算適性。
あるいは、ヴェッセル起動系への反応。
だが、
フィーナにはそれがなかった。
検査装置は正常に動作し、
数値も正確だった。
異常がなかった、という異常。
「……問題はありません」
医師のその言葉に、
安堵と失望が、同時に混じった空気が流れた。
期待されなかったわけではない。
だが、
期待が続かなかった。
それだけのことだった。




