オペレーション・クリムゾン・ウォール (Operation Crimson Wall)3
衝突は、起きなかった。
勝利宣言も、なかった。
だが、
均衡は確かに変わっていた。
この時点で、
この一連の出来事に
正式な作戦名は存在しない。
エウラでは、
裁定記録の一項目として整理され、
ヴァルクでは、
「相手の反応を確認した接触事象」として残された。
ラインでは、
配置変更と判断遅延の記録として、
番号だけが付けられた。
だが後に、
世界がこの瞬間を振り返る時、
この出来事は一つの名で語られるようになる。
力を使わず、
だが隠さなかった判断。
撃たず、
だが撃てることを示した配置。
それを、
後世の人間はこう呼んだ。
Operation Crimson Wall
――オペレーション・クリムゾン・ウォール。
第二章で描かれた出来事は、
作戦でも、戦闘でも、
まだそう呼ばれる段階にはありません。
この章で行われたのは、
勝利でも敗北でもなく、
判断の置き方でした。
撃たれ、
受け止め、
返した。
それだけです。
フィーナは、
相手を倒そうとはしていません。
戦争を終わらせようともしていません。
ただ、
「撃てる」という選択肢を
相手から奪いました。
重要なのは、
この時点でフィーナ自身が
この出来事を
“作戦”だと思っていないことです。
彼女にとってこれは、
避けられない状況の中で、
被害を最小限に抑えるための
一つの判断にすぎません。
だから、
名前もつけません。
名前をつけることは、
意味を固定することだからです。
この章の最後で示唆される
Operation Crimson Wall という呼び名は、
後世の人間が
この出来事を理解しようとした結果、生まれたものです。
それは称賛でも、非難でもありません。
ただ、
「世界の判断基準が変わった瞬間」を
指し示すための言葉です。
次章では、
この判断が
他国にどのように読まれ、
どのように誤解されていくのかが描かれます。
フィーナが動いたから
世界が変わるのではありません。
世界が動かざるを得なくなったから、
フィーナの判断が
基準として浮かび上がっただけです。




