第二章 オペレーション・クリムゾン・ウォール (Operation Crimson Wall)
衝突は、戦争と呼ぶには小さすぎた。
だが、
「まだ戦争ではない」と言える時間が、
いつまでも続く保証はなかった。
国境宙域に展開された艦隊は、
ヴァルク軍所属と確認されていた。
演習名目。
定型通信。
だが、艦の配置は明確に攻勢寄りだった。
——撃てる距離だ。
——撃たない理由がない。
それが、
ヴァルクという国の価値基準だった。
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評議会が招集されたのは、
その配置が確定した直後だった。
「示威行動を取るべきです」
軍の代表が言う。
「こちらが動かなければ、
ヴァルクは踏み込んできます」
誰も否定しなかった。
即位から一ヶ月。
フィーナに与えられていた猶予は、
すでに形だけのものになりつつあった。
「示威はしません」
フィーナは、静かに言った。
短い沈黙。
「では、
何もしないと?」
「いいえ」
彼女は首を振る。
「前に出します」
宙域図が切り替わる。
表示されたのは、
国境へ進出する小規模艦隊。
補給艦。
通信中継艦。
武装は最低限。
「……撃たれますよ」
「ええ」
フィーナは否定しなかった。
「撃たれます」
ざわめきが広がる。
「殿下、
それは囮です」
「はい」
「沈みます」
「沈みません」
断言だった。
フィーナは、
卓上に視線を落とす。
そこに浮かび上がったのは、
丸い外殻を持つ小さなホログラム。
Arbitra Core Unit――AL。
《囮艦隊全艦に、
吸収型エネルギー障壁を実装しています》
数値が並ぶ。
《攻撃エネルギーは破壊に使用されず、
変換・蓄積されます》
「盾ではありません」
フィーナは言った。
「受け取るための構造です」
沈黙。
それは、
防御とも攻撃とも違う発想だった。
「ヴァルクは、
この艦隊を無視できません」
フィーナは淡々と続ける。
「補給線に見えます。
叩けば、
こちらの行動を止められると思うでしょう」
「撃たなければ?」
「主導権を失います」
それが、
ヴァルクの判断基準だった。




