何もしない姫3
フィーナは、自分がどう見られているかを知っている。
才能のない王女。
決断できない新王。
王家の名に守られているだけの存在。
それでいい、と思っていた。
判断を急がなければ、
誰かを前に出さずに済む。
命令を出さなければ、
誰かを失わずに済む。
それは、逃げではない。
少なくとも、彼女自身はそう信じていた。
だが、その夜。
国境宙域で、
小さな衝突が起きたという報告が入る。
大きな被害はない。
だが、確実に、
均衡は揺れ始めていた。
フィーナは、
端末に映る情報を見つめながら、
小さく息を吐く。
――まだ、判断の時ではない。
そう思いながらも、
その「まだ」が、
いつまで許されるのかを、
彼女は初めて考えていた。
世界は、
まだ彼女を試している。
そしてそれは、
いずれ彼女が
世界を試す番が来ることを意味していた。
第一章をここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この章で描かれているフィーナは、
おそらく多くの人にとって
「何もしない姫」に見えたと思います。
判断を避け、
発言を控え、
本を読んでいるだけの存在。
しかも、王位を継いでからまだ一ヶ月。
周囲が不安になるのも、
苛立つのも、無理はありません。
ただ、この物語では
「何もしない」という行為そのものに、
一つの意味を与えています。
決断を下すことは、
常に正しいとは限りません。
判断を急ぐことで、
取り返しのつかないものが失われる場面もあります。
フィーナはまだ、
世界を動かす覚悟を持っていません。
ですが、
世界がどのように壊れていくのかを
見てきた人間ではあります。
この章は、
彼女が動かない理由を説明するための章であり、
同時に、
これから動いてしまうことへの
静かな予兆でもあります。
次章では、
「判断をしない」ことを選んできたフィーナが、
初めて避けられない場に立たされます。
それがどんな結果をもたらすのか。
よければ、その続きを見届けてください。




