表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時を戻した白鳥は、カラスの愛を望まない  作者: 木山花名美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/74

第65羽 明るい食卓

 

(やはり、青と白だな)


 正面でニタニタ笑う女を見て、ルーファスは改めて思う。


(白い顔に巨大な青い瞳。……そういえば髪は金髪だったか)


 それだけ確認すると、ルーファスはふいと目を逸らす。とりあえず、緑でも粒々でもないことに胸を撫で下ろしながら。



 乾杯のグラスを掲げ、和やか……いや、賑やかに食事が始まった。デュークとの出会いから、毎日やり取りしている手紙のことまで、リンディのお喋りは止まらない。フローラが質問を投げ掛けると、更にリンディがそこから四方八方に話を広げる為、一つの話題がなかなか終わらないのだ。


 ルーファスが驚いたのは、それにデュークが一々反応し、大きな笑い声を上げていることだ。おまけに、信じられないほど饒舌じょうぜつである。

 離れて暮らしている今、ほとんど顔を合わせることはないが、記憶の中の父親は寡黙で、こんな風に笑うところなど見たことがない。


(……女が父に、変な魔術でもかけているのだろうか)



「そうだ、リンディ。君に特別な料理を用意したんだ」


 デュークが合図をすると、給仕が銀のクローシュを被せた皿をリンディの前へ置く。と同時に、目にも止まらぬ速さで、リンディをすっぽり覆う高い衝立てがテーブルに設置された。


 嫌な予感に背筋がぞわりとする息子を余所に、デュークはフローラへ向かい、楽しげに語り出した。


「お嬢さんと初めて会った時、全身緑の服を着ていたから理由を尋ねたのです。特に陛下は、それが流行のファッションなのかと非常に関心をお持ちでしてね。そうしたら、なんと彼女はブロッコリーが好物だから、これは自分の流行だと答えたんです。陛下は感心され、確かにブロッコリーだ、粒々や膨らみまで見事に再現していると、彼女のデザインを絶賛されたのです」


 フローラは堪らず、ぷっと噴き出す。


「リンディ……あなた、いくらブロッコリーが好きだからって、服まで作ってしまったの?」

「はい、お母様。王様が “ 変 ” を理解してくださって嬉しかったわ」


 本当はお義兄様を威嚇する為だけど、ブロッコリーが好きなのも本当だものと、リンディはにっこり笑う。


「さあ、君の好きなブロッコリー料理の盛り合わせだ。お代わりもあるから、沢山召し上がれ」

「ありがとうございます! わあ~美味しそう! 頂きます!」


 いくら見えないとは言っても、すぐそこにブロッコリーがあると思うだけで、ルーファスは恐ろしくなる。耳をすませば、もしゃもしゃと醜い咀嚼音まで聞こえるようだ。神経を麻痺させようと、震える手でグラスを呷る。


「そう! 変と言えば、おに……ルーファス・セドラーさんの眼鏡が、すごく変で素敵なんです!」


 ルーファスは、グラスを持つ手をピタリと止める。


(こいつ……なんてことを!)


「ほう……もしかしてその胸ポケットから覗いている緑のやつか? 実はさっきから気になっていたんだ」


 皆の視線がルーファスへ注目する。彼は慌てて胸ポケットを手で隠すも、時既に遅し。


「レンズもフレームも緑なんです!」

「それはすごい。ルーファス、私に掛けさせてみてくれないか?」


 家長の命に逆らうことなど出来ず、ルーファスは渋々父に眼鏡を渡す。無邪気な顔でそれを掛けたデュークは、辺りを見回し、興奮しながら叫んだ。


「おお! 全て緑に見える」


 天井、壁、食卓と視線を移し、緑の息子の前でピタリと止まる。その瞬間……デュークはふるふると肩を震わせた。


「ルーファス……緑に見えるだけじゃ、ブロッコリーは克服出来ないぞ。粒々にも慣れないと」


 眼鏡を作った意図を即座に見抜かれたルーファスは、カアと顔を赤らめる。そんな息子に、デュークは豪快に笑い出した。

 ほろ酔いのヨハネスも、今まで制御していた分タガが外れ、デュークに負けず劣らずの声で笑い出す。ルーファスにギロリと睨まれても、もはや止まれない。


「デュークお父様、私にも掛けさせてください!」

「ああ、いいよ」


(女め! 餌をあっさり手に入れやがって。やはり策士だ!)

 本当に緑だわ! と騒がしい衝立てを、ルーファスは睨み続ける。


「私も掛けてみて宜しいでしょうか?」

「私にも……」


 賑やかで、騒がしく……そして明るい食卓に、給仕達は驚き視線を交わす。こんな光景は、此処へ勤めて以来初めてのことであった。

 楽しそうに笑う家長を見るのも、表情のある令息を見ることも……




 食後のお茶が出された頃、デュークは席を立ち、隣の部屋からある物を持って来た。


「誕生日おめでとう、リンディ。ささやかだが、私からのプレゼントだ」


 大きな花束と、小箱が渡される。


「わあっ! ありがとうございます!」


 促され開けた小箱からは、一本の絵の具のチューブが現れた。普通の “ 赤 ” とは違う、珍しい色の紙が巻かれているそれは……

 そう、一度目の人生で、リンディを冤罪へ追いやったあのルビー色の絵の具だった。


「……大丈夫か?」


 はっと顔を上げたリンディは、心配そうに自分を覗き込むデュークに気付く。


(きっと酷い顔をしていたに違いないわ……)


 震える手を握り締め礼を述べれば、デュークは安堵し話し出す。


「ヘイル国原産の氷結草で作られた絵の具らしい。前に肖像画を描いてもらった時、この色が上手く出せないと言っていたから。あ、甘いが毒があるから、決して口に含んではいけないよ」


 その恐ろしさを充分すぎるほど知っているリンディは、真剣な顔で「はい」と頷いた。


「高価なお品を……何とお礼を申し上げたら良いか」


 馬一頭と交換出来るほどの値段と知っていたフローラは、慌てて頭を下げる。


「いえ、お嬢さんには素晴らしい絵を描いてもらいましたので、そのお礼です」


 リンディはチューブを取り出し、まだ震える掌に乗せた。


(優しいお義父様の瞳と同じ、ルビー色の絵の具。王女様からもらった物よりも、ずっとずっと温かい。……大丈夫。この絵の具は人を殺める毒なんかじゃない。お義父様が私を想って下さった、優しくて温かい絵の具だ)


 パッと顔を上げると、リンディはとびきりの笑顔で、もう一度礼を述べた。


「ありがとうございます! この絵の具で、素敵な絵を沢山描きますね」


 丁寧に箱に戻すと、今度はリンディがデュークへあるものを渡した。


「これは、私からデュークお父様へのプレゼントです」

「私に? 誕生日でもないのにもらっていいのかい?」

「はい! どうぞ開けてみてください! とっておきの魔道具です」


(……魔道具!)

 ついに来たと、ルーファスは前のめりになる。


 包みから出てきたのは、底に細かい穴の空いた二つのコップ状のもの。デュークは手に取り、何だろうと覗き込む。


「これは、離れた人に声を届ける魔道具です」

「声を?」

「はい! こうやって……」


 耳に当てたコップから、廊下で囁くリンディの声が聞こえてくると、デュークは目を輝かせた。


「なんと楽しい道具だ。これがあれば、一分前の出来事だってすぐに話せるな。手紙を待たなくても」

「はい! 前にデュークお父様が欲しいと仰っていた道具です」

「前に……私はそんなことを言ったのだろうか」

「一度目の……もうずっと前のことなので、デュークお父様は覚えていらっしゃらないかもしれません」


 デュークは不思議そうに、でもどこか納得した顔で頷いた。


「君が言うならそうかもしれない。だが……私はその時、一体誰と話したかったんだろうな」


 哀しい顔で息子を見ると、視線を落とす。そして再びリンディを見つめ、明るく言った。


「では、片方のコップは君が持っていてくれないか? 毎日話が出来たら嬉しい」


 リンディが嬉しそうに返事をしようとした時……


「いけません!!」


 ルーファスは立ち上がり、リンディの手からコップを奪い取った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木山花名美の作品
新着更新順
総合ポイントの高い順
*バナー作成 コロン様
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ