6話 条件と新部隊
おそらくこの国は賢者によるダンジョン消滅で、新しく近代国家に成らざるを得なかった。
元々は冒険者を商売客として盛えていたのだろう。今では貴族がお得意様で、不労者は路上生活を強いられている現状。
国民はどう思っているのだろうか――いつまでもスキルの上がらない魔力保持者、剣術には程遠い基本練習オンリーの毎日、治安維持とは名ばかりの大衆任せ主義の国家。
俺の生きた現代社会の真似でもするつもりか?
仮に、この国が何かしらの問題を抱えているとしてだ、女神が俺をシルヴァ父さんのもとへ転生させた理由は、この国と関わり合わせたかったからではないのか。あのくじ引き、箱の中身がすべて"異端者"と書かれていたらどうだろう、まだ謎は多いが的外れではないと思う。
もしかして、女神は誰かと繋がっている、邪推か、正推か――上手い話には裏があるともいう、特典はそのためか。
おっと、いつまでも沈黙を通す俺に困惑しきってるようだし、意地の悪い放置プレイも趣味ではないので、まずは話を聞こう。
「ハァ、言っておくが、父は関係ないんで巻き込まないで頂きたい。それで、力を借りたいとは?」
「おお! 話を聞いてくれるか! よ、よし、この魔術師はゾイレ・ルークスと言って、私の相談役なんだが、先日、ある夢を見たんだそうだ」
夢? また随分と非現実的な話だ。
老魔術師は興奮したように語り始めた。
「儂は王から不穏な動きがあると相談された翌日、ある女性が夢に出てきてこう告げた、『エルフのシルヴァに養子がいる、その者に託せ』と。エルフでシルヴァといえば同期のシルヴァ・フェルモントしか思い付かなかった。しかし、養子がまだこんな若い青年だとは……」
女性……おそらく、無愛想で俺を片手間扱いした女神だな、どうやら的外れではないらしい。
しかしだ、年齢はともかく、スタントマンとして場数を踏んだパフォーマンスは、お宅らより遥かに上をいってると思うけどね、あしからず。
「随分と馬鹿げた話だが、俺のことを詮索するのはやめてもらいたい、その上で話を聞こう」
あ、いつの間にかタメ口になっちゃってるけど、ツッコまれないからまあいいか。
王は安堵したのか、身を乗り出して話す。
「承知した。ジニアスくんも貴族誘拐事件を知っていると思うが、実はもっと前から起こっているのだ。始まりはこの宮殿内の貴族兵士の失踪からだ」
「貴族の兵士? 魔力保持者か」
「その通り。あれは奇怪な出来事だった、古びた装具を纏った冒険者風の男女が、突然この城に現れ、まるで敵を討つかのように兵士を斬殺しては、魔法を放つ兵士だけを攫って消えたのだ」
「男女? そのふたりだけ?」
「そうだ、男はかなりの強者であった」
俺の予想が正しければ、異空間に巻き込まれた冒険者ではないか。
もし冒険者の仕業だとして、なぜ魔力保持者だけ攫ったのか、意図は? 巻き込まれた仕返しか?
レクスの話だと彼らは賢者と組んだパーティメンバーだったか、顔見知り、それとも即席で組んだパーティか、今となっては調べようがないが……。
あ、いるじゃん、冒険者を知る奴が我家に!
「どうしたジニアスくん、顔がニヤけておるが、何か心当たりでも?」
「いや、別に。ああ、俺に君付けしなくていいよ。それで俺に何をさせたいんだ?」
王と魔術師は顔を見合わせて頷く。老魔術師が机に手を付いて言う――
「ジニアスよ、夢のお告げ通りであれば、君は救世主に違いない。どうか公安機動隊を率いてくれないだろうか、もちろん、ロサード隊長には儂らから話しをする。頼む、この国を助けてほしい」
救世主とか鳥肌もんなんだけど……。
俺はダークサイドをこよなく愛する人間、神でもなければ救世主でもない。
でももし、シルヴァ父さんの不安解消になるのであれば話は別だ。
そうだ、俺も女神の真似をしてこのふたりを操ろう。夢操作ではなく条件を出す――
「ではひとつ暴露しよう。その代わり俺を仲間として認める、どう?」
「仲間か……それは私たちと対等の立場という意味だね? その暴露次第だ、と言ったら?」
「構わないよ。その女性は女神で俺の知り合いだ」
「「……な、なんと!」」
嘘も方便、嘘から出た真、どちらにせよ、君たちの崇拝する神だよ。
ちょっと刺激が強すぎたかな、さて返答は如何に――
「そ、その証拠は?」
そうきたか――
「証拠なんか無いさ、なら夢の証拠は?」
「……それは……」
はい、お互い様ということで。
「わかった、君の言葉を信じよう。ではさっそくロサード隊長にジニアスを上官にすると伝える」
「あ、その件なんだけど、なにも部隊の結束を乱す必要はないと思うんだよね。そうだなあ、ならエルド隊長を側に置いてもらえないだろうか」
だってベタヒーローの上官とか、もう部下から恨みを買う前提じゃないか、余計な揉め事は御免だ。
「警護隊の隊長を? ジニアスがそれで良いのであれば私は構わないが、ゾイレよ、どう思う?」
ゾイレは顎に手を置き考える――
「たったふたりの部隊か……良かろう、ただし、儂の攻撃を防ぐことができたらの話しだ」
なるほど、若僧がってやつか、乗ってやろう。
「いいよ、どっからでもどうぞ、お爺ちゃん」
ゾイレの眉がピクリと動いた。そして手の平を頭上に翳した瞬間、火球がめらめら浮かび上がる――
俺は人差し指を立て、ちっちっちっと振る――
「ダメダメ、そんな小さい火球じゃ」
煽られたゾイレは火球を増やし、あらゆる角度から俺を狙う。そこへ王が口を挟んだ。
「お、おいゾイレ! 大丈夫なんだろうな?!」
「知れたこと、参るぞ!」
ゾイレが俺に向けて一斉射撃した。火球はみごと俺に命中、爆音と煙が部屋を充満する――
「ゴホッ……ジ、ジニアス! 大丈夫か?!」
「手ごたえはあった、さて、無事かな?」
俺は何事もなかったように手で煙を散らす。
「ブフォ、火球ってさ、煙いから嫌なんだよねー、ちょっと窓開けてくれない? ゴホッ……」
「おおジニアス! 無事だったか!」
「なんと! 儂のフレアを受けて無傷とは……」
結界を張って正解だったな、しかも火球――火のない所に煙は立たない、確かにきな臭いとは思ったけどね。火の用心、火球一発火事の元、お粗末。
「フゥ……で、どう? 合格かな?」
と言った矢先に、爆音と煙でロサード隊長とエルド隊長が慌てて部屋へ駆け込んできた。
煤けた机や壁を見て唖然とする――
「こ、これはいったい……」
「「アハハ! 合格!」」
ポカンとするロサード隊長の横でエルド隊長が、
「よくわからんが、やったなジニアス!」
と、親指を立てて喜ぶ。隊長もなんだけどね、あとで怒られるかなぁ……。
俺の合格と共に部隊の名前も決まった。"特別編成SWAT部隊"だ。このSWATとは単語の「一撃で仕留める」という意味で、特殊武装戦術部隊の頭文字を取ったSWATとは違う。
ちなみに頭文字を取ったSWATの正式名称は、
"スペシャル ウェポンズ アンド タクティクス"
である。映画でSWAT役を演じた時に唯一の台詞だったので覚えてしまった、何の役にも立たないが。
エルド隊長はそうとう困惑していたけど、エルド隊長は隊長のままで、俺は攻撃専門の"ハンター"という職を確立させた。
これで"加護付きイリーガルハンター"の使い道は決まった、でいいんだろうか?