4話 ドラゴンと特典の意味
レクスを館に残し、俺はドラゴンの様子を見に行った。どうやらだいぶ回復したようで、死霊たちと呑気に戯れていた。
『よう火龍、だいぶ元気になったな』
『お主は……まだ名前を聞いておらんかったが、何と礼を言ったらよいか……』
『俺はジニアス、礼なんかいらないよ。それより、ちょっと聞きたいことがあるんだが』
『吾輩は神龍のフォボス、して聞きたい事とは?』
上位だとは思ったが神龍かよ、その神龍がなぜ手負いだったのか――
『フォボスか、で、その神龍がどうして傷だらけだったんだ? それと、どこから来た?』
『吾輩は洞窟に住んでおった、そこへ人間たちが訪れるようになり、いつしか邪気によって魔物が棲み付き、ダンジョンと呼ばれるようになった』
なるほど、洞窟がダンジョンになったってことか。大体の原因は人間が関わっている、冒険者という職業が大半の時代だったからだろう。
だとすると、フォボスがラスボスってことになるが、レクスの話に出てきた賢者と戦ったドラゴンなのだろうか――
『ふーん、そうなんだ――あのさ、ちょっとした昔話があってね、ラスボスと戦った賢者が、ダンジョンごと消えたってことらしいんだけど、それってもしかして、フォボスが関係してたりする?』
フォボスは暫し沈黙する――
『昔話か――あれは、冒険者がいきなり戦いを挑んできおってな、この傷はその時に負ったものだ。確かエルフォルクという賢者も居たと思うが……』
レクスの予想は的中した。でも戦ったのは冒険者で賢者ではないらしい。しかし、どうも記憶が曖昧みたいだが、もう少し詳しい情報が欲しい。
『その賢者はその時どうなったか、覚えてる?』
『……あの時、吾輩より先に、賢者は杖をかざし別の異空間を呼び出したように見えたが……』
『異空間?』
『ああ思い出したぞ、吾輩は咄嗟に転移魔法を使ったのだ。だがここまで時間の空白が生じるとは思わなんだ、これは異空間による影響やも知れんな』
神龍が言うんだ、信憑性はある。なら賢者も冒険者も生きている可能性があるってことだ。
俺は異世界事情なんて知らないし、もちろん経験もない、テレビやゲームでの微々たる知識しかない。安易に決めつけるのは危険だ。
そうだ、なら【加護付き】のことを聞いてみよう、神龍なら知っているかもしれない。
『ちょっといいか、フォボスはイリーガルハンターって知ってる?』
『また随分とレアな職種だな。確か"非合法の狩人"だったか、相当な魔力保有者でないと務まらん厄介な代物だったはず』
『ふ〜ん……』
何が特典だ、売れ残りの押し付けじゃないか!
『だがな、加護があれば天下無敵の職業だ。まあよっぽどでない限りなろうと思う奴はおらんよ』
おっ?
『へー、加護ねえ……その加護ってどんな?』
『戦神の加護だ。あらゆる非合法を無効化、負傷無効化、能力強化、つまり無敵ということだ』
ちょっと、何そのおいしい話。ふむふむ、間違いなく特典だな。
ということで、フォボスにこれまでの経緯と俺の正体を暴露した。するとフォボスはカッカと笑い、俺の転生話を興味津々に聞いていた。
どうやら神龍でも"異端者"という転生スキルは知らないようだった。
フォボスは物知りだ、きっと必要な存在になる。
『どうだろう、俺と交友関係を結んでくれない? フォボスの知恵と力を借りたいんだ』
『――良かろう、吾輩もこの世を観てみたい。交友とは友ということで良いか? 吾輩はずっと友を望んでいたのだ』
『うん、友達としてよろしくな!』
それから、俺の正体はフォボスにしか明かしていないと言うと、フォボスは大層よろこんで、俺を友達から親友に昇格させた。それなりに信頼は得られたらしい。
それと、俺の家族構成も話しておいた。当然と魔王の存在は承知していたが、シルヴァ父さんについては、ダンジョンで見かけたくらいにしか覚えていないという。
『そうか、彼奴は賢者の仲間か……』
俺が思うに、賢者がダンジョンを消滅させた、そう考えれはダンジョンが忽然と消えた謎も筋が通る。しかしなぜ冒険者まで……。
とにかく、フォボスには明日の朝また来ると言って樹海を離れた。
イリーガルハンターの内容はわかったが、今すぐどうこうというわけじゃない、暫く様子見だ。
さて、レクスにどうフォボスのことを話そうか、流石にノンフィクションはキツイだろうから、脚色を交えて話すことにしよう。
翌朝――
俺は朝食の時に、レクスにフォボスのことを話すと、少し驚いた様子だったが、そのあとはただ黙って聞いていた。きっとシルヴァ父さんのことを考えていたのだろう。
食事が済むと、俺とレクスは樹海へ向かった。見れば死霊に囲まれた人間の姿があった。
「……ゲッ! マジ?」
おそらくフォボスと思われる、妖艶でピッカピカのイケメン野郎が俺に手を振る。
おいおいおい、どうしてそうなった?!
「もしもしフォボスくん、その姿はいったい……」
「やあ、吾輩の親友ジニアス、おはよう。人間に化けた方が良かろうと思ってな」
レクスはあんぐりと口を開けて放心状態、まあそうなるよね。
「ほ、ほらレクス、神龍のフォボスに挨拶して」
「あ、ああ、は、初めまして、執事のレクスでございます。この度はシルヴァ様にご協力くださるとの事、誠にありがとうございます」
そう、レクスには消えたダンジョンの真相を探りにフォボスはやって来た、という設定にして話た。
フォボスには伝えていないけど察してくれたようで、上手く話を合わせてくれた。
「吾輩はジニアスに協力するのだ、間違えるでないぞ。其方は魔人と聞いたが、もしやマギの世界の魔人か?」
「あ、はい、良くご存知で。マギの世界でも神龍の方々は神秘で有名でございました、そのお方に認知されていたとは、恐悦至極に存じます」
あのさ、マギだかなんだか知らないが、名刺交換的な挨拶はやめろって、業界人かよ。
「ほらふたりとも、レクスはいつも通りで、フォボスはもっとフレンドリーに話すこと」
「了解した。ではレクスよ、暫し面倒になる、よろしく頼むな」
「お任せください」
やれやれ、ようやく一歩前進だ。
「坊ちゃま、そろそろクラブのお時間です」
半歩後退……。