表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

3話 厄日


 スラム街から王都を抜け、暗い山道を歩いていると、突然クラビス父さんが現れた。何事?


「ようジニアス、久しぶり。元気にしてたか?」

「クラビス父さんこそ、突然どうしたの?」


 少し間を置く父さん――怪しい。

 

「なあジニアス、俺とシルヴァは夫婦だよな?」

「……はっ?」

「だってふたりの間にお前という息子が居るんだからさ……」


 いきなりどうした、そりゃ建前は夫婦というか夫夫? なんだろうけど、えっ?

 何なに、親権の問題?


「えっと……どういうこと?」

「あのな、そのう……俺は本当の夫婦になろうかなって思ってるんだけどさ……お前はどう思う?」


 おいおいちょっと待ってよ、何この親父、思春期真っ只中の青年に振る話?

 落ち着け俺、とにかく確かめよう――


「それって……クラビス父さんはシルヴァ父さんが好きってこと? ラブ的な?」

「それもあるが――お前が地上に降りてから、シルヴァはまた本に夢中で何か調べているようなんだ。ちょっと心配でな……まあ、そういうことだ」


 そういえば、暇さえあれば魔術書を読んでいたっけ。つまり、自分がいる時は相手にして欲しいから一緒に住じまおうって魂胆か。今更って気もするけど、魔界的にもいろいろ事情があるんだろう。

 俺は既に独り立ちしてるし、別に何の問題もないと思う。もしかして、俺に気を遣ってる?


「んー、両親がラブラブで、常に一緒にいるのは良いことだと思うし、俺は応援するよ」

「ホントに? ああ良かった、ありがとな!」


 意外と小心者のクラビス父さん。シルヴァ父さんはどうなんだろう、俺がとやかく言える立場じゃないし、あとはふたりの問題ということで。

 しかし、ダークサイドが恋愛に関心があるとは知らなかった。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

 俺はルンルンのクラビス父さんに「シルヴァ父さんを泣かせないでよ」と告げたら、ガッツポーズで帰って行った。

 意味わかってるのかねえ――よし、忘れよう。

 


 山道を抜け荒野を歩く、あと少しで我が家なのだが、結界の前にデカい生き物が転がっていた。

 今日はやたらとイベントが多い、厄日か?

 

 とにかく邪魔なので排除しようと思う。普通は警戒するところなんだろうが、両親より怖いものはないので近付いて突いてみた――


「おーい、生きてるかー?」


 こいつは――


「ふむ、この硬い皮膚はおそらく……」


 俺は瞬時に頭のほうへ向かって走った。すると、ギロリと大きな眼が俺を睨む――


『お前、ドラゴンだな? どっから来た?』

『お主、言葉が……同胞……か?』


 いちおう魔界の一員なので、言葉の障害なんぞはございません。

 

『まあ、ちょっとな。なるほど、レッドドラゴン、火龍か。しかしお前、傷だらけじゃないか、いったい何があった?』

『吾輩は……クッ……』


 話の途中で火龍は力尽きてそのまま気を失ってしまった。ここで死なれても困るので、魔力で治療したあと結界内に押し込め、魔素を与えるために樹海へ運んだ。


「おーい死霊(ネクロ)たち、ちょっと魔素を大量に吐き出してくれー、急げよー!」


 そこへレクスが駆け足で帰って来た。この異様な光景に、さすがのレクスも言葉に詰まる。


「坊ちゃま、こ、これはいったい……」

「レクスお疲れー。さあ、俺にもわからん……ただ、何かに導かれてここへ来たんだろう」


 そうは言ったものの、俺にも見当がつかない。あの傷はどこで負ったのだろうか、この国でドラゴンによる騒動も、見かけたという声も聞かない。

 

 考えられるのは召喚、あるいは転移ではないだろうか。(まれ)に、上位クラスのドラゴンには転移魔法を使えるものがいると聞いたことがある。


 結界が張ってあるとはいえ、地中から漏れ出した微量の魔素に誘われて来たってところか。

 でも結界を破るまでの力は残っていなかった。


「坊ちゃま、あのドラゴンをどうするおつもりですか?」

「どうするつもりもないよ、回復したら出ていってもらう、厄介事は御免だからね」

「左様ですか……」

 

 俺たちはドラゴンを樹海に置いて、早々に屋敷へと向かった。レクスと食事をしながら今日の出来事を話していると、父さんたちのことでレクスが苦笑いで応えた。


「フッ、そうでしたか、以前も似たようなことがあったんですが、魔界の連中がうるさくて、シルヴァ様が一歩引かれて逢わないようにされたんです」


 なるほど、お互い満更でもなかったってことか。そこへ俺というクッションが現れて、魔族たちも諦めた。俺なりに親孝行ができたって感じかな。


「まあ、めでたしめでたしってことで。それよりさ、クラブの件なんだよなあ」

「そうですねぇ、でも考え様によってはメリットになる部分もあるかと」

「メリット?」

「はい、国の情報がいち早く入手できます」

「ああ……」


 レクスは俺たちの裏仕事のことを言いたのだろう、事前に対処できればそれに越したことはない。でもさあ、俺だけ貧乏くじを引くのはどうよ。


「なんかクラブの延長みたいで嫌なんだけど」

「支配者たる者、苦労は付きものですので」


 こいつ――クラビス父さんに似てきやがった。


「それと、あのドラゴンなんですが……」


 レクスが不安げな顔をする。そういえば、何か意味ありげに納得してたなあ、訳ありか?


 レクスが難しい顔で昔話を始めた。


「これはシルヴァ様から聞いた話しなのですが、昔、ある賢者がダンジョンのボスと最終決戦の最中、ダンジョンと共に忽然と消滅したとか……」


 レクスの話は続いた。その賢者とシルヴァ父さんはパーティーメンバーで、賢者と冒険者はダンジョンへ、シルヴァ父さんはクラビス父さんと交戦中だったとか。

 ひとりだけ難を逃れたシルヴァ父さんは、メンバーと賢者の行方を探したが見つからず、争いにも嫌気が差して、聖剣士を辞めたという。

 

 シルヴァ父さんが死霊魔術師(ネクロマンサー)になったきっかけは、クラビス父さんの影響もあったが、死霊を呼び出して仲間たちの行方を探すためだった。

 今も尚、諦めていないとレクスは切実に話す。そしてその時のラスボスがレッドドラゴンだという。

 だから父さんは魔術書を調べていたのか――


「そうか、そんなことが……」

「我が魔人とて、その様な出来事は聞いたことがなく、それでも、今ここに居るドラゴンがラスボスではないか、シルヴァ様の願いが届いたのではと……思う次第です」


 レクスが戸惑うのもわかる気はする。もしも、時空間に囚われていたとしたら、ドラゴン、あるいは賢者なら、あらゆる方法で脱出も可能だろう。

 でもなぜ今ここに――


 この国にダンジョンが存在したのはクラビス父さんから聞いて知っている。

 でもまさかシルヴァ父さんが冒険者で、しかもクラビス父さんと敵対していたとは知らなかった。

 

 なるほど、魔族が騒ぐのも無理はない。でもこの出来事があったからこそふたりは強く結ばれた。

 シルヴァ父さんは複雑だろうけど――


「レクス、今はまだ憶測に過ぎない、くれぐれもシルヴァ父さんには内緒にな」

「そう……ですね、畏まりました」


 俺はさっそくドラゴンの眠る樹海へ向かった――

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ