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1話 新地


 俺の朝はシルヴァ父さんの第一声から始まる。


「ジニアス起きなさい。食事にするから歯と顔を洗っておいで、今日は買い物に出掛けるよ」

「……ふぁ〜い」


 そこへ世話好きのレクスがさっそく部屋へやってきた。


「坊ちゃま、タオルとお着替えです。今日はボタンの多いシャツですのでお手伝いしますね」


 別に不自由はないんだけど、まあいいか。


「うん。レクスも一緒?」

「一緒とはお買い物のことですか? 我は留守番をしなければならないので、まったく残念です」


 まったくだね。シルヴァ父さんと一緒に買い物は嬉しいんだけど、闇市で薬草や怪しい魔術書を見るのはもう飽きた。他のエリアも探索したいが、年齢的に手繋ぎが必須条件となっている。

 今は我慢のしどころだ。


 そこへクラビス父さんがひょっこりやって来た。レクスが片膝を付いて挨拶をする。


「おはようございます、クラビス様」

「おはよう、クラビス父さん!」


 突然の訪問に俺は満面の笑みで挨拶をすると、クラビス父さんは嬉しそうに俺を抱き上げる。


「おはようジニアス。俺に似て良い顔になってきたなあ、うんうん、男は顔が命よ、ワァッハハ!」


 まあ、確かに顔が良いに越したことはない、いろんな意味で得はある。

 そういえば「クラビスに似てきた」ってシルヴァ父さんが愚痴ってたな、それって魔界で魔力を注がれてるからなんだろうか。

 クラビス父さんもかなりのイケメンだけど、でもやっぱり平凡がいちばんよ。


 そう思っていると、シルヴァ父さんが不愉快そうにリビングに入ってきた。


「ハァ、顔は仕方ないけど性格は似ないでもらいたいね、今のところ私に似て優しい素直な子だから良いけど。さあ、皆んなで食事にしよう」

 


 俺は食事を済ませて外で待っていると、シルヴァ父さんが俺にべったりのレクスを呼んだ。


「今日はレクスも一緒だよ、君にも関係あることだからね。外行きの姿でよろしく」


 そう言われたレクスは蒼白い顔を紅葉させて、執事の姿に変身した。なぜに執事?

 と、初めて見るレクスの変身に俺は驚いた。流石は魔人、礼装執事のイケメン野郎である。

 異世界はイケメンが当たり前なのか?


「ああ、やっと坊ちゃまと一緒にお出かけできます、こんな嬉しいことはありません!」


 言ってレクスは涙ながらに俺を抱きしめる。

 く、苦しい……。

 それを見ていたクラビス父さんが、なぜか偉そうに腕組みをして話し始めた。


「いいかジニアス、お前に地上の領地を与えることにした。今日はその拠点となる屋敷を観に行くんだよ、わかるか?」


「わかるか?」と訊かれて、そうなんですね、と応える5歳児はいないと思う。これはあれだ、俺に親離れしろと言いたいのだろう、無茶振りだな。

 

 ということはだよ、俺からこのパラダイスを取り上げて人間と生活をしろってことだ。

 冗談じゃない、こうなったら実力行使といこうじゃないか。子供の武器、フルスロットルで駄々をこねる――


「うわぁ、ヤダヤダー! ここから離れるのはヤダよー! わああぁぁ!」


「ハァ、泣いてもダメ」

「もう決めちゃったしな」

「坊ちゃま……」


 やはりそうきたか、しかしこの冷たい対応も想定内、では俺から条件を出そうじゃないか。


「グスっ……じゃ、じゃあ、せめて誰もいない場所とかにしてくれたら、我慢する……」


 そう注文を付けると、シルヴァ父さんは特に困った様子もなく、笑って俺の頭に手を置いて応える。

 

「フフ、なんだそんなことか。ジニアスはシャイだからね、人とは距離を置きたいんだろう」


 シャイと言われればそうなのかもしれないが、俺は昔、クラスメイトや先生から無視という冷たい仕打ちを受けた。でも体力と運動神経には自信があったから、学校を退学して個人で活躍できる海外のスタント業に進んだ。

 スタントは一人芝居、台詞もなければ人と接することもあまりない。人間嫌いというか、人間不信というか、まあ、俺が弱いだけなんだけどね。


「あのなジニアス、なにも街中に住めってことじゃないんだよ、この環境とよく似た場所に屋敷を用意したのさ、お前の教育も兼ねてな。とにかく観てみろって、な?」


 クラビス父さんが親指を立てて言う。なら、俺好みの環境に変えても問題ないってことだよね?

 ちょっとやる気でた――


「ふ〜ん……じゃあひとりでも何とかなるよね? よし、頑張るぞー!」


 意気揚々と返す俺に、シルヴァ父さんは溜め息混じりで俺を見下ろす。なにか?

 

「ハァ、この子はまったく、一人暮らしなんかさせるわけないだろ、そのための執事だ。レクス、君がジニアスの面倒をみるんだ、頼んだよ?」

「は、はい! 喜んで! ありがとうございます、シルヴァ様、クラビス様……!」


 そのための執事ねえ――まあ、きっと父さんたちのことだ、ダークに育てられた人間が地上でどう振る舞うのか試したいんだ。教育ねえ……。


 でもさ、多少の小競り合いはあってもいいよね、面白くなってきた――


 

****



 両親から離れて早10年、レクスは相変わらずのイケメン執事で激愛も半端ない。

 ここはヴェルデという大国で、王都フィデスには近代的な建物が並び、裕福な人々で賑わっている。

 

 そうそう、俺の領地なんだけど、王都から少し離れた、絶対に誰も近寄らないであろう樹海の中央にある屋敷だった。

 完璧と言っていい俺のオアシスである。

 

 そしてシルヴァ父さんの真似をして死霊(ネクロ)を召喚し結界を張った。

 死霊(ネクロ)を召喚する意味は、魔素を吐き出させ魔力と結界を温存させるためだとシルヴァ父さんが言っていた。

 空に浮かぶ空母要塞とまではいかないけど、樹海の秘密基地くらいにはなったと思う。

 怪しさ半端なく、実に快適だ。


 朝食を終えてまったりしていると、レクスが制服を片手にやってきた。


「坊ちゃま、そろそろクラブのお時間です」

「ああ、クラブかあ……」


 クラブとは、武術や剣術を身に付けさせるための戦士育成教室だ。この大国では10歳から15歳まで教室に通うのが必須条件となっている。

 特に、微弱ながらでも魔力保有者は特待生として優遇され、王国機動隊の仮隊員として雇われる。

 

 シルヴァ父さんいわく、ダンジョンが消滅したことによる冒険者やギルドの廃止、そして魔力の減少で継承者も減ったからなんだとか。

 つまり、魔力があるなら隊員、無いなら拳闘士や剣士になって治安維持に貢献しろって話だ。

 もちろん俺は普通の生徒を装う。だって俺はダークファミリーの一員だからね。


「ねえレクス〜、行かないとダメ?」

「坊ちゃま、いい加減に諦めてください、この国の決まりなのですから」

「だって弱者を演じるのも疲れるんだよ〜」

「お気持ちはわかります、でも最後まで居た試しがないではありませんか。それに、今は他の案件が御座いますのでご辛抱を」


 ということで、王都にある「青少年ファイターズクラブ」へやって来た。流石にここまでショボい名だと逆に清々しい。

 と、その前に――


「レクス、仲間たちに例の場所へ集まるように指示を出しといてくれる?」

「畏まりました、情報収集も兼ねてと伝えます」

「うん、よろしく」


 このハッピーライフで俺が手を(こまね)いているはずもなく、腹黒い金の猛者を潰す仕事を始めていた。

 日頃シルヴァ父さんが路地裏の不労者が哀れだと言っていたので、悪徳業者がしこたま貯め込んだ裏金を奪い、その金で店を建て不労者に衣食住と労働を与えた。あとは彼ら次第だけどね。


 当然だが仕事には人材が必要、俺は不労者の中から使えそうな者を厳選し、密偵として雇った。

 ボス役はレクス、俺は指示役だ。


 さてと、憂鬱(ゆううつ)なクラブで今日も基礎練習だ――

 

 

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