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プロローグ 【転生】


 都内某所――

 

 繁華街やショッピングモールで(にぎ)わう街。ビルに設置された大型ビジョンに速報が流れた。

 

 ――"スタント俳優の伊波雄大(いなみゆうだい)さんが、映画撮影中の事故で亡くなられたと発表がありました"――

 

 人々はテロップに目をやるも、他人事と足早に通り過ぎる。そして未来ある若者がひとり、この世から姿を消した。


 

 ****

 


 俺は重い(まぶた)を開けると、足元には白い床、投げ出された脚はたぶん俺のものだろう、履き慣れたジーンズのヘタれ具合でわかる。


 ここはどこだ――近くで綺麗な女の人が忙しく書類の整理をしている、ヘアメイクさん?

 

「あ、気が付いたのね、あなたは先程お亡くなりになりました。私は女神、さっそくで悪いんだけど、その箱から紙を一枚引いてくれる?」


 そう言って女神という女性はまた机に向かった。

 なるほど、ここは撮影現場ではなくリアル天国ってことか。まあ仕事柄、覚悟はしてたけどね。

 

 俺は無愛想な女神を他所目に、くじ引きかよ、と思いながらも箱から紙を一枚引いた。

 その紙には"インフィデル"と書かれていた。俺は女神に意味を尋ねた、すると――


「あら、随分とレアなスキルを引いたわね。インフィデルとは"異端者"っていう意味で、1回限りの限定スキル、つまりあなたは異端者のもとに転生できる権利を得たの。確かスタントマンだったかしら? ならきっと大物に当たる可能性大ね。説明は以上、ではその光の輪に立って」


 なるほど、要はその場限りの使い捨てスキルか、詐欺だな。しかも異端者って、社会的に逆行している人のことだろ、まるで生け贄だ。

 

 俺は半ばヤケクソで指定された位置に立つ――


「幸運を、いってらっしゃい――あ、特典として加護付きの"イリーガルハンター"が約束されてるわ。じゃあ頑張ってね!」

 

 今度は何の説明もなしに言い放った、女神もヤケクソだな。

 どうやらアニメによくある異世界転生らしい。せめて異世界がまともであることを祈ろう。

 意外と冷静な自分にちょっと引くが、映画の撮影で非現実は慣れっこだ。

 

 そして俺は光のベールに包まれ飛ばされた――

 

 


 *****

 



 赤ん坊で転生した先は、空に浮かぶ空母要塞みたいな孤島だった。広い荒野とオアシスともいえる森の中に、館がひっそりと建つ不思議な空間だ。


 その館の主と思われる銀髪のお姉さん? いや、お兄さんが俺を不思議そうに見下ろす、誰?


「ちょっと、どういうこと? 赤ん坊の召喚?」


 召喚じゃなくて転生です、と思っていると、横から黒髪の男が俺を珍しそうに見る、だから誰?


「人間の赤ん坊か、面白い、俺が連れ帰って面倒見てやるよ」


 黒髪の男がそう言うと、なぜか論争が始まった。


「はあ? 私の所へ来たんだ、私が面倒を見るのが当然だろ!」

「俺が居る時に赤ん坊が来た、なら俺にも権利はある、お前だけとかズルいぞ!」

「「むむむっ!」」


 そんなふたりの間を掻き分けて、蒼白い顔の男が俺を抱き上げて言う。何者?


「まあまあ、これも何かの縁、おふたりが親父ということでよろしいのでは? お世話は我が致しますのでご心配なく。さあ参りましょう坊ちゃま」

「ちょっとレクスったら、もう……」

「男の子か、鍛え甲斐がありそうだ。うん!」


 ということで、呆気なく論争は終わり、俺は彼らの子供として引き取られた。

 俺はジニアスと名付けられ、同時にふたりの父親と世話係を持つレア者になった。


 レクスが俺のオムツを替えながらいろいろと話して聞かせてくれた。

 (あるじ)はシルヴァという元聖剣士のエルフで死霊魔術師(ネクロマンサー)、黒髪の男はクラビスといって魔界の王だとか、まさに異端者である。

 そしてレクスは主に召喚された死霊魔人で、従者として仕えているという。

 流石にこのキャスティングには驚いたけど、人間不信の俺には丁度いいシナリオだ。しかしその前にだ、異端者が3人とかあり得ないし聞いてない。

 重要な説明をすっ飛ばした女神に天罰を――


 


 ***

 


 あれから5年、俺はシルヴァ父さんと一緒に暮らしているんだけど、執着心半端ないレクスが常にべったりと離さなかったり、死霊(ネクロ)がいたずらに俺を荒野に置き去りにしたり、毎日シルヴァ父さんの武術や剣術とかでクタクタだったりと、生活のレベルじゃない暮らしを強いられている。


 一方、クラビス父さんに拉致られて魔界へ行くと、魔族たちがあれ食えこれ食えと何の肉だかわからない物を与えてくるし、クラビス父さんは俺にガンガン魔力を注いで面白がってるしで、もう実験台のモルモットだ。

 お陰で魔力はかなり強固なものになったが、遊んでいるとしか思えない。


 この荒業は3歳から始まり、今では忍耐と冷静沈着と愛想笑いが板についてしまった。

 まあそれはそれで、俺を受け入れてくれた皆んなには感謝だ。


 それと、女神のいう"加護付きイリーガルハンター"の意味がわからないので放置している。

 

 今の自分はこれまでにないハッピーライフで、この世はパラダイスではないかと思う。

 だって死霊魔術師(ネクロマンサー)に魔王が親だよ? そりゃスパルタでホラー的なところはあるけど、愛情深く優しくて、なにより仲間を裏切らない精神は人間以上だ。

 

 せっかくの転生、せっかくのダークサイド、人生楽しんだもの勝ちだ。

 とにかく、俺はこのパラダイスを守っていこうと思う――



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