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かいじゅうたちとの約束

作者: 宮野

むかしむかし、ちいさな女の子がいました。名前は、ハナ。

ハナは、いつもひとりぼっちだと感じていました。

お家の中も、学校も、なんだかいつも、自分だけが、みんなと違う場所にいるような気がしていました。

ある日のこと、ハナは、いつものように、だれにも見つからないように、こっそり裏山に入っていきました。森の奥へ奥へと進むうちに、見たことのない、ふしぎな光がキラキラと輝く場所を見つけました。

「あれ?ここ、どこだろう?」

ハナが光のほうへ歩いていくと、そこには、見たこともない大きな穴がありました。穴の中からは、やさしい光がもれてきます。ハナは、こわい気持ちと、ちょっとだけワクワクする気持ちで、そっと穴の中をのぞいてみました。

すると、そこは、まるで夢の国みたいでした。

空には、虹色の雲が浮かんでいて、地面には、光るお花がたくさん咲いています。そして、そこには、ふしぎな「かいじゅう」たちがいました。

かいじゅうたちは、みんな、体がモコモコしていたり、ツノがキラキラしていたり、しっぽがフワフワしていたり、色も形もバラバラです。ハナは、びっくりして、思わず隠れました。

でも、かいじゅうたちは、ハナが思っていたような、こわい顔はしていませんでした。みんな、ニコニコ笑ったり、大きな声で歌ったり、楽しそうに遊んでいます。

その中で、一番大きなかいじゅうが、ハナの隠れている場所のほうを見て、にっこり笑いました。そのかいじゅうは、体は緑色で、背中には大きな葉っぱがついていました。

「おや、ちいさなお客さんだね。こわがらないで、出ておいで」

ハナは、おそるおそる隠れていた場所から出てきました。

「あの…ここは、どこですか?」

大きなかいじゅうは、やさしい声で答えました。

「ここは、わたしたちかいじゅうたちの、お家だよ。君は、どうしてここへ来たんだい?」

ハナは、ポツリポツリと話し始めました。自分がいつもひとりぼっちだと感じていること。みんなと違う気がすること。なんだか、自分はダメな子だと思ってしまうこと。

かいじゅうたちは、みんな、ハナの話をじっと聞いてくれました。だれも、ハナを笑ったり、怒ったりしませんでした。

大きな緑のかいじゅうが、ハナの頭をそっと撫でました。

「そうか。辛かったね。でも、君は、ひとりぼっちじゃないよ。ここにいるかいじゅうたちは、みんな、君と同じように、現実の世界で、ちょっとだけ『ちがう』って思われた子たちなんだ」

ハナは、びっくりして、かいじゅうたちを見ました。みんな、本当に楽しそうにしています。

「ねぇ、かいじゅうさんたち。生きるって、どういうことなの?」

ハナが聞くと、かいじゅうたちは、顔を見合わせて、にっこり笑いました。

「いい質問だね」と、今度は青い体に水玉模様のかいじゅうが言いました。「生きるっていうのはね、いろんな色を見つけることだよ」

そう言うと、そのかいじゅうは、自分の体から、キラキラと光る水玉を飛ばしました。水玉は、ハナの周りをフワフワと舞い、ハナの心に、たくさんの色を灯してくれました。

次に、茶色い体にモコモコの毛が生えたかいじゅうが、大きな声で言いました。

「生きるっていうのは、転んでも、また立ち上がることさ!ほら、見てごらん!」

そのかいじゅうは、わざとゴロンと転がって、またすぐに立ち上がってみせました。ハナは、思わず笑ってしまいました。転んでも、また起き上がればいいんだ。

赤い体に小さな羽の生えたかいじゅうが、ハナの肩にそっと止まりました。

「生きるっていうのは、ちいさな光を見つけることだよ。どんなに暗い場所でも、必ず、どこかに光は隠れているんだ」

そう言うと、かいじゅうは、小さな羽をパタパタと動かし、ハナの目の前に、一粒の光る砂を落としました。それは、ハナの心の中に、温かい希望の光を灯してくれました。

そのとき、少し離れたところで、静かに座っていたかいじゅうが、ゆっくりと顔を上げました。そのかいじゅうは、体は灰色で、あちこちが少しボロボロとしていて、ツノの先も少し欠けています。でも、その目は、とても穏やかで、深い光を宿していました。

「生きるっていうのはね、何かを失うことでも、美しいって知ることだよ」

ボロボロのかいじゅうは、やさしい声で言いました。

「歳をとると、体は少しずつ弱くなるし、できることも減っていく。大切なものを失うこともある。でもね、そのたびに、新しいものが見えてくるんだ。夕焼けの美しさや、風の音のやさしさ、ちいさな虫の頑張り…失うことで、今まで気づかなかった、たくさんの『美しいもの』に気づけるようになるんだよ」

かいじゅうは、自分の欠けたツノをそっと撫でました。

「だから、ボロボロになっても、大丈夫。それが、生きている証拠だからね」

そして、一番大きな緑のかいじゅうが、ハナの目を見て、やさしく言いました。

「生きるっていうのはね、君が君のままでいることだよ。完璧じゃなくても、不器用でも、みんなと違っていても、君は君なんだ。それで、いいんだよ」

ハナは、かいじゅうたちの言葉を聞いて、胸がいっぱいになりました。

いろんな色を見つけること。

転んでも、また立ち上がること。

ちいさな光を見つけること。

何かを失うことでも、美しいって知ること。

そして、自分が自分のままでいること。

ハナは、かいじゅうたちに、ありがとう、と大きな声で言いました。

「私、がんばって生きてみるね!」

その言葉を聞いて、かいじゅうたちは、みんなでハナの周りに集まってきました。大きな緑のかいじゅうが、ハナの小さな手を、そっと自分の大きな手で包みました。

「ハナ、わたしたちと、ひとつだけ約束してくれないかい?」

緑のかいじゅうが、真剣な目でハナを見つめました。

ハナは、こくりと頷きました。

「君は、君のままで、素晴らしい存在だ。だから、これからも、君らしさをちゃんと見つけること。そして、それを、何よりも大切にすること。どんな時も、君自身の心を信じて、生きていくんだ。わたしたちは、いつでも君のそばにいる。だから、この約束を、どうか忘れないでほしい」

ハナは、かいじゅうたちの大きな手の中で、その言葉を、心に深く刻みました。

「うん!約束する!」

ハナが力強く答えると、かいじゅうたちは、もっともっと、楽しそうに歌い始めました。ハナも、かいじゅうたちと一緒に歌いました。大きな声で、心いっぱいに歌いました。

そして、かいじゅうたちは、ハナの手をとって、踊り始めました。ハナも、かいじゅうたちの大きな手の中で、くるくると踊りました。虹色の雲が、ハナの頭の上で、フワフワと揺れています。光るお花が、ハナの足元で、キラキラと輝いています。

歌って、踊って、ハナは、生まれて初めて、心がこんなにも軽くなるのを感じました。

笑って、笑って、笑いすぎて、ハナは、ポカポカと温かい気持ちになりました。

やがて、ハナは、歌い疲れ、踊り疲れ、かいじゅうたちのモコモコの体に寄りかかって、すやすやと眠ってしまいました。かいじゅうたちは、ハナの周りを囲んで、やさしい子守歌を歌ってくれました。

次にハナが目を覚ますと、そこは、いつもの裏山でした。

顔には、朝のやわらかい光が当たっています。

鳥のさえずりが、耳に心地よく響きます。

ハナは、ゆっくりと体を起こしました。

「あれ…?」

ハナは、自分が、あのふしぎな穴の外にいることに気づきました。

周りを見渡しても、虹色の雲も、光るお花も、かいじゅうたちの姿も、どこにも見当たりません。

「夢…だったのかな?」

ハナは、そう呟きました。

でも、ハナの心の中には、かいじゅうたちからもらった、たくさんの色と、ちいさな光が、キラキラと輝いていました。

そして、かいじゅうたちのやさしい歌声が、まだ耳の奥に残っているような気がしました。

ハナは、もうひとりぼっちではありませんでした。

かいじゅうたちとの約束を胸に、ハナは、少しだけ顔を上げて、明日からの毎日を、自分の足で歩き始めました。

たとえ、また転ぶことがあっても。

たとえ、また、自分はダメだと思ってしまうことがあっても。

ハナは知っています。

どんな時も、自分は自分。

そして、どこかに、必ず、ちいさな光が隠れていることを。

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