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好きの本音  作者: 夢宮ことね
理想
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理想

「好きです! 付き合ってください」

 そう言って頭を下げる女の子は、僕がたまに助っ人してる陸上部の後輩。

 悪い子ではないはずだ。

 今は彼女もいないし、断る理由もない。

 それに、俺は見つけないといけない。

 母さんみたいに一途で素敵な人を……。

「いいよ。付き合おう」


 ゆさゆさと体を揺すられている。

 遠くのほうで声がする。


「先輩! 夏川先輩!」


 その声で俺の意識は完全に浮上した。


「起きてください!」

「ふぁーー」


 太陽の光が眩しい。

 しぱしぱしながら目を開けると、眼の前には後輩の女の子。


「ふぁーーじゃないですよ! お昼休み終わっちゃいますよ! 一緒にお昼ごはん食べましょうよ」


 あ、そっか俺、この子と付き合ったんだっけ。

「いいよ。食べよっか。ご飯」

 そう言うと彼女は大きく頷いて準備をしだした。

 俺も持ってきたお弁当を取り出す。


「あっ」


 やっべぇ。妹のと間違ってる。 

「夏川先輩のお弁当箱かわいい」

「いや、これは間違っただけだから」


 はあ、今日の朝寝ぼけてたからかなあ。


「そうですかぁ。まあいっか。いただきます」

 相当、お腹空いていたのか結構なスピードでパクパクと食べている。

 俺も小さくいただきますをして、食べ始めた。

 不意に彼女が話しかけてくる。


「夏川先輩のこと、蓮也って呼んでもいいですか?」

「うん。あとタメでいいよ」

「わかった! 蓮也もあたしのこと萌香(もか)って呼んでよ」

「うん。萌歌ね」



 そうして、僕と萌歌の恋人生活は始まった。


 あれから二週間。



「蓮也ーー! 一緒帰ろ!」


 結構、順調だった。

 毎日のように、お昼ごはん一緒に食べて、一緒に帰る。

 これまでで一番平和な気がする。


 母さん。この人が母さんが言う安心をくれる運命の人なんだろうか。


「蓮也。好き!!」

「俺も好きだよ」

「ほんと?」

「うん」


 嘘だ。正直、わからない。好きなのかどうか。

 いや、それも嘘だ。正確には好きになれるかどうか。

 知ってる。

 正直、俺はモテる方だと思う。

 両親ともにきれいな顔をしていて、しっかりその遺伝子を引き継いでいる。

 勉強は得意ではないが、運動はものすごく得意だ。

 だから、沢山の人が告白してきてくれる。今回の子も例外でなく可愛い子ばかりだ。

 けれど、知っている。

 俺を好きだという人の殆どは俺のことが好きなんじゃない。

 俺の容姿と運動神経。つまり、ステータス。それらが好きなんだと。

 もし、俺が事故にあったとして。病気になったとして。

 ステータスがぐっちゃぐちゃになったとして。

 眼の前の彼女は、それでも愛を囁き続けてくれるのだろうか。

 過去の彼女たちは、どうなのだろうか。

 わからない。

 そんなの当たり前だ。だって、人の心は読めないのだから。

 信じられない。いつも、本心を疑ってしまう。

 だから、結局好きになれない。誰のことも……。

 申し訳ないとは思う。それに、女遊びが激しいと思われていることもわかっている。

 でも、しょうがないんだ。

 自分でもわかっている。俺って、バカなんだ。

 だって、こんなこと考えていても、こんなにうまくいかなくても……それでもまだ、この世界に、誰かに……期待してしまうんだから。


「ねえ、萌香。なんで俺のこと好きになったの?」

「かっこよかったから。誰よりも速く走る蓮也から目が離せなかったの」


 そう語る彼女の笑顔はまるで太陽みたいで俺のことを明るく照らしてくれていた。

 嘘ではないと思う。そう信じたい。

 ただ、信じられるかはまた別の話で。


「別れよう。ごめん」


 気がついたら、そう口にしていた。

 わかってしまったんだ。きっと彼女は俺のことを明るく照らしてくれる。でも、俺の心の太陽には

なることができない。


 太陽が消えた。俺を照らしてくれる太陽はもうどこにもないのかもしれない。


「どうして?」

 答えるべきなんだろうか。いや……。

「知らないほうがいい」

 今更、好きじゃなかったなんて言えない。

「そっかあ」

「うん」

「でもね? あたし、しってるよ?」

「え?」

「好きじゃないでしょ? あたしのこと」

「っ……」


 不意を突かれた。返す言葉が見つからない。

 萌歌はぐいっ俺の方に体を寄せ目を合わせてきた。


「やだなあ。私のことなめてんの? わかるよ。だって私、蓮也のこと大好きなんだから。いっぱい見てきたんだから。蓮也はクズだけどクズじゃないって私は知ってる。だってね、彼女はコロコロ変わっていたけど、その期間が被ったことはないじゃん」


 俺は、何も言うことができなかった。


「きもいでしょ? でもさ、そんだけ好きで蓮也を見てる。だから、わからないわけがないんだよ。蓮也が私のことが好きかどうかくらい」


 そっか、全部バレバレだったわけだ。


「二週間。幸せでした。ありがとうございました」


 では、さようならと言って去っていく背中を見て、このままではいけない気がした。


「待って!」


 彼女がピタッと足を止める。


「あ、あの。好きにはなれなかったけど、萌香といるのは楽しかった」


「先輩。幸せにならなきゃ、許しませんからね?」


 そう言って振り返りはにかんだ彼女の目元には、涙が光っていた。

 そして、まるで悲しみを振り切るように一目散に走っていた。

 


 


 

 

 

 



 

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