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心霊スポットの近くのファミレスでバイトしてる

作者: 塩狸


心霊スポットの近くにあるファミレスでバイトしてる

だからかな

たまにでもなく水を多く出すミス多い

私だけじゃなくてね

2人なのに3つとかはデフォルト

客がきた反応ないのにドアの内側に人がいたりして

「あれ?」

って思うけど

「いらっしゃいませー!ロイーズへようこそー!!」

って案内しちゃうよもう

本当に生きたお客さんだったら困るしね

生きた人間にくっ憑いてきたらもう尚更わからないし

働いてる側からすると

売り上げにならないし手間増えるだけから来んなよとは思うけど

生きていた時の習性なんだろうか


いつだったっけ

そうだ、夏休み直前

いかにもな肝試し後の客もまだ少なかったから

いつもは

夜は女の子は危ないからって店長が早く帰してくれるんだけど

その日は人が居なくて残ってたんだ

場所柄

深夜でもそこそこお客さんくるからさ

それで

少し前に

その有名な心霊スポットの

もーっと奥の廃墟で集団自殺あって

なんかしばらくは店もざわざわしてたのを覚えてる


私が今住んでいるのは中途半端な地方都市

ド田舎からの上京組も多くて私もその1人

ここのファミレスはそもそもが車必至は場所なんだけど

元はね

パチンコ屋とか他にも奥に店があってそのお客さんが来てたらしいんだ

でもパチンコ屋がだいぶ昔に潰れてしまい、他の店も徐々になくなって、ここも駄目かって時に

「心霊スポット」

と呼ばれる場所が地元の若者の間で突如話題になって、帰りに寄ってくれるお客さんが増えたんだって

もうこのファミレスを最後に、先に道はあれど灯りはパッタリ消えてしまう

それでその心霊スポットはね、雑木林の中に小さな掘っ立て小屋と井戸がある場所らしいんだ

そこが今までの割りとメジャーな心霊スポットだったんだけど

もう少し奥へ走ったその先は

ずっと雑木林でそれで行き止まりと思われていたんだけど

ギリギリ車が通れる道らしい道があってその先に元別荘だか何だか

まだ状態のいい建物があった

そこを誰かが見付けて集団自殺の舞台にしたらしいんだよ

でも

幸か不幸か1人が生き残って通報して大騒ぎ

それでしばらく賑わってたけど

今はその「にわかの人たち」も居なくなって

夏休み直前で

夏休みに入る前に

よりタチの悪いマニアがやってきてた感じかな


それでその日は

夜の0時越えたくらい

夜のお客さんは特に長居しやすいのに、たまたまね

みんな帰っちゃって、お店が空っぽになった

店長とキッチンさんと3人で一息吐いてたら

駐車場に8人乗り?くらいのワゴン車が入ってきた

「わー人数多そうだな」

と思ってたらそうでもない5人

わいわい入って来ながら

「ねー大丈夫かなぁ?」

「すぐ迎えに行くし大丈夫っしょ」

「案外2人きりになれて喜んでたり」

「あ、ドリンクバー5人分で」

賑やかだけど

ちらほらと聞こえてくる会話からして

どうやら悪ふざけで

仲間を心霊スポットに置きざりにしてここまで来たらしい

1人じゃなくて2人

くっつきそうな2人を

正確には男の方が彼女を好きで

彼女も満更でもなさそう?

「吊り橋効果で2人をくっつけちゃおう」

って

余計なお節介大作戦を決行したらしい

別に聞き耳立ててないよ

嫌でも聞こえてくるんだよ

だから

5人は30分も居なかった

ドリンクバーだけでも

みんな口々に

「ご馳走さまでした」

って言ってくれて

多分

そう

決して

「悪い人たち」

ではなかった


そのあとはもう

「お客様」

は来なくてね

片付けに入ってたら

もう数分でラストオーダーですよって時間になって

またさっきのワゴン車が凄い勢いで走って来たんだ

今度は店のドアの前に急ブレーキで停まってさ

さっきもまとめてレジで会計した男が自動ドアぶち破る勢いで入ってきた

「客が2人来ませんでしたか!?」

ってさ

「来てません」

って答えたら

それでも店内見回してから出ていくと

車に向かって両腕でバッテン作って見せてた

どうやら心霊スポットに戻ったら2人が消えていたらしいご様子

私はキッチンの片付けを手伝ってた店長に

「先に上がりまーす」

と声を掛けると

あのワゴン車が

街の方ではなくまた心霊スポットへ向かっていくのが見えた


うちの店はさ

そう

ご存じの通り街中からは外れてだいぶ郊外にあるんだ

だからお客様用駐車場とは別に従業員用の駐車場が店の裏にあってね

愛車に向かったら助手席に女の子

大丈夫

普通に生きてる人ね

aちゃんだよ

私の通っている大学の友人の、お友達

幼馴染みって言ってたかな

同じ県内の別の大学通ってて

私が通ってる女子大より偏差値が上の共学の子

友人を介して挨拶したことはある程度の顔見知りだったけど

お互いに顔は覚えてた

さっきのあの5人がドリンクバーの後に駐車場から出ていって

しばらくして

女の子が1人で入ってきたんだよ

車もなかったから

(あれ、これ生きてる人かな)

って思ったけど

やたらめったら不機嫌そうな苛々オーラ出して入ってきたから

こりゃ生きてる人だなって

「いらっしゃいませー!」

って出迎えたら

お互いに

「ん?」

「あれ?」

ってなったんだ

それで

こんな所でどうしたと思ったら

友人のこの幼馴染みが

まさかの

あのさっきの団体の

心霊スポットに置いていかれた女の子の方だった

しかもここまで歩いてきたと言う

ここまでは緩い下り道とはいえ距離はそこそこあり

通りにあるのは確か

大昔に潰れたパチンコ店に整備工場とか

後はわかんないけど

確かトタン屋根の空き家とかだったかな

雑木林が鬱蒼と続いているだけと聞いているし

かなり雰囲気あるし怖い道のりなはず

そう聞いてる

でも

徒歩なら戻って行ったお仲間のワゴン車とすれ違ってるはずだけど……?

おっとそうだった

私はお仕事中

「えっと、とりあえず座る?何か食べる?」

ラストオーダーギリギリだけど

aちゃんは黙ってかぶりを振り

「ごめん、タクシー呼ぶ間だけここに居させて貰える?」

って

チラチラ外を気にしてるのはどうやら雨が降り出してきたらしい

「いいよ、でも、あの人たちを待たないの?」

焦った様子で君を探してたっぽいけれど

私の問いかけには

「絶対待ちたくない!!」

と吐き捨てるように声を上げた

あらら

相当腹を立てているご様子

仲間の悪乗り大失敗

ならさ

「ね、ね、こっち来て」

aちゃんを店の裏に連れて行って

「送るからちょっと待っててよ」

愛車の鍵預けて助手席で待っててもらった

「え、いいの?」

驚かれたけど

「いいよ、もう上がりだから」

友人の友達だしさ

こんなことで安くないタクシー代使わせるのも勿体無いじゃん

幸い客用の道路沿いの駐車場からは

こっちの車は見えにくいしね

さっさと制服から着替えて

私はお疲れさまーって裏口から出た

aちゃんは携帯を手に持ってはいたけど電源は切ってた

私は

あの悪乗り失敗ワゴンと鉢合わせしないように注意しながら車出して

aちゃんはまだ気持ちが収まらないみたいだし

私は下世話な好奇心で話を聞きたいし

「ね、狭いけどうちに来る?」

と誘ってみた


部屋に帰る前にコンビニ寄って

甘いものと辛いものとお酒も買ってさ

「お家の人に連絡しなくていいの?」

って聞いたら

「うちはみんな無干渉だから」

とさらりと返事

まぁあの時間に外をうろいてるくらいだから平気か

aちゃんはコンビニのプリンに酒を合わせられる強者だったため

とりあえず強めに割ったハイボール飲ませてみる

私は両膝抱えて柿の種の梅味をチビチビ食べてたら

その濃い目のハイボールを一気に煽り、それでも深夜だからか

静かにグラスをテーブルに置いた

なんとも配慮と気配りの出来るaちゃんは

「ハーッ!」

とまた大きく息を吐いてから

「あの、ありがとう。……あと何だか色々ごめんなさい」

とわざわざ座り直して

深々と頭を下げてくれた

「い、いえいえ」

ただの好奇心と野次馬根性ですとは到底言い出せず

私はチビチビと缶の檸檬サワーを飲む

そして

再び膝を崩して

コンビニケーキを指で摘み頬張ったaちゃんの話だと

あの人たちは大学のサークルの人たちで

夏の合宿の買い出しメンバーだった

それで

メンバーの1人である男子bがaちゃんを好きらしく

それを知ったサークル仲間がbを応援しようと決めた

それが買い出し後の

「心霊スポットへGO」

に繋がったらしい

心霊スポットに2人を置いていく企画

される方はたまったもんじゃないサプライズ

それで

周りが1つ勘違いしていたのは

aはその男子を何とも思っていなかったこと

「話しかけられたら普通に話してたよ、でもそれだけ」

そこは少し複雑で

更にこれは少し後に知ったことなのだけれど

aを気にしている男子がもう1人いて

仮にc君と呼ぼう

その男子c君を好きな女子が

「aちゃんとbが付き合えば

cもaちゃんのことを諦めるだろう」

そんな淡い希望と期待で

「aちゃんもbを満更でもない」

と適当極まりない噂を広めたらしい

そしてその中心にいるのに何も知らされていないaちゃんは

元々怖いのは嫌いなのに無理やり心霊スポットへ連れて行かれ

た挙げ句

何とも思ってない男子と2人きりにされたと

(うーん、そりゃ腹立つわ)

aちゃんに同情しつつも

ずっと気になっていた

「えっと、それで、b君は?」

どこへ行ったのだ

「え……?……さぁ、わかんない」

何を思い出したのか眉を寄せて目を閉じてしまう

どうやらろくなことにはなってなさそうだけれど

私はまた黙って柿の種を摘まんでいると

aちゃんがゆっくり目を開き

「あいつら、他の子にまでに私が行方不明だとか連絡してないかな」

多分だけど先輩たちをあいつら呼ばわり

aはバッグから取り出した携帯の電源を入れると

留守電の表示が何件も表示されており

aはわざわざ私にも見せてくれた

「電話、いい?」

「どうぞどうぞ」

留守電を聞いていたaちゃんは

また大きな溜め息を吐いてから

多分

あのワゴン車の中の1人に電話した

電話の向こうのざわめきや複数の声も漏れ聞こえたけど

aちゃんはそのやかましさに、またも不快そうに形のいい片眉を寄せると

「あの、私は1人で家に帰りましたし

もう家に着きました

bさんの行方は知りません」

って一方的に告げてから

また電源を切ってしまった

「いいの?」

「平気」

aちゃんはそのままラグに両手を広げて後ろに倒れ込み仰向けの状態で

「はーぁ、最悪」

と呟いた

「ねぇ」

私はそんなaちゃんにローテーブルを経由して四つん這いでにじり寄り

aちゃんの額に新しい缶チューハイを当ててみる

「……」

aちゃんは目線だけで何?と聞いていたため

「向こうで、そのb君と何があったの?」

じっと見つめると

aちゃんは缶チューハイを受け取ってごろりと横向きになり

「なんかね、多分、bは初めは怖がってる私を大丈夫だよとか言うつもりだったらしいんだよ

でもさ

私はもう怖さとかよりこっちの気持ちは全く考えてないあいつらにも

目の前のbにもね

イライラしてきてたんだ

そしたらいきなり

『好きです』

って言われて

反射的に

『え、無理です』

って答えたらさ

何をどう勘違いしたのか目の前に立って

私のこと抱き締めてきたんだよ」

うわ怖い

「でしょ?

好きでもない相手からの抱擁なんて痴漢と同じだよ

びっくりしたよりも、もう気持ち悪いし

鳥肌立って目一杯押し返してさ」

「うん」

aちゃんの次の言葉までは少し間があったけど

「……そのまま走って逃げた」

怖さより腹立たしさでひたすらファミレスまでの道を競歩していたと

なるほど

そんな事があったのか

でも

「迎えにきた車とすれ違ったでしょ?」

「もう結構こっちまで歩いてきてたんだ、だから向こうが気づくより私が先に車の音とライトに気づいて

ボロい空き家の外壁の影に隠れてやり過ごした」

なるほどね

さて

ではb君はどこへ

ワゴン車の男は「2人」と私に聞いた

心霊スポットにはb君もいなかったらしい

b君も歩いて帰ったのだろうか

店内から道は結構見えるけど

ずっと見ていたわけでもないから通り過ぎた可能性もあるけど

ファミレスって結構大きいでしょ

窓もね

道にも外灯あるから

歩いていれば姿を見掛けそうなんだけどな

aちゃんは

まだ少し躊躇うように視線を遊ばせていたけど

「なんか疲れちゃった」

とゴロリとまた仰向けに戻る

「このまま泊まる?」

私もうっかり飲んじゃって運転できないし

「いいのっ?」

aちゃんはパッと身体を起こして初めて少し笑みを浮かべたため

「いいよいいよ、飲も」

すでに2時も回る時間だけど

私たちの夜はこれからだ



「ハロー」

土曜日の午後にバイト先のファミレスに友人が店に来た

大学の友人で元々のaの友人ね

「早上がりって聞いたからさ」

「うん、待ってて」

私は

バイトしてる店で食事したりするのは

全然嫌じゃない方なんだ

多少の社割りもあるし

休日だけど雨のせいか客足も少ないし

売り上げにも貢献しようと

友人を窓際の席に案内してから

着替えて店内に戻ったんだ

さっきまで一緒に働いてたバイト君に

「チョコパフェをお願いいたしますっ!」

と暗に無料での生クリームとアイス増量を頼み

「あの後どうなった?」

友人に聞いてみたけど

「事故で終わるみたい」

「そっか…… まぁそうだよね」

結果から言うと

あのね

b君は死んでた

あのアホたちがaちゃんとbを連れて行ったのは

元からある心霊スポットではなくて

更に奥の出来立てほやほやの集団自殺の現場だった

そこは元別荘だったみたいなんだよ

本当に昔のね

庭は景観が売りみたいで

要は割りと先がすぐ崖

当時でもよく申請通ったなって場所に建ってたけど

地震とか大雨で崖が更に崩れていたんだって

それでね

その別荘の元リビング辺りに置き去りにされた2人

いきなりbに告白&抱き締められたaちゃんは

恐怖でbを突き飛ばしてそこから逃げるように走って

bにもサークル仲間にも非常に腹が立ってたから

戻ってきた皆の乗ってる車をスルーして

とりあえず来る時にあったファミレスに寄ったと

うん

aちゃんから聞いていた通りだね

だからその時間は当然

aちゃんは勿論bもなぜか別荘にはいなくて

サークルの車がまたファミレスにまで戻ってきた時は

aちゃんは裏手に停めてある私の車の助手席

そしてもう一度サークルの車があの廃墟へ向かっている間に

aちゃんは私の車で私の部屋へ向かっていた


あの日の夜はね

飲み過ぎて昼まで寝てた

勿論aちゃんも一緒にね

でも二日酔いの私と違って

酒に強いらしくaちゃんはケロッとしてた

一方

サークルの愉快な仲間たちは

もう店は閉まっているファミレスの駐車場まで戻って

aちゃんとbにしつこく電話を掛けてた

そしたら

aちゃんは

「もう家に帰ってる」

と聞いたこともない低い声で報告され

bは着信音は鳴るものの留守電に切り替わるの繰り返し

aちゃんは多分タクシーを拾って帰ったのだろう

bは

ろくな結果にならずこちらの電話も出にくいのだろうと

能天気な結論付けをして

街まで戻ってその日は解散したのだとか

そして翌日

と言うかその日の朝だね

aちゃんはともかくbはやはり電話にも出ず何の応答もない

女子が同行を嫌がったため

男子3人で再びあの別荘まで向かい

別荘を隈無く探し

まだ昼の明るい時間

庭に出ると割りとすぐに崖下なことにビビりつつ

恐る恐る崖下を覗いて見たら

bが仰向けで転がっている姿を発見した

高さはそこまでじゃないけれど

bが落ちた先に運悪く大きな岩が剥き出しになっており

そこに後頭部が当たり

即死だったそう

まぁ目の前の友人の言う通り事故なんだろうね

仰向けで落ちていたとしても

元はと言えば死んだのだって半分かそれ以上は愉快な仲間たち

お前らのせいだろと

私は思う

「お待たせしました、チョコレートパフェでごさいます」

私の前に置かれたチョコパフェは

生クリームもアイスも規定の量だった


「それで、aちゃんは?」

「うん、警察とかに話を聞かれたみたいで余計に腹立ててたけど元気」

「そっか」

aちゃんとは連絡先を交換してたけど

あの日起きて携帯の電源を点けたaちゃんはまた苦い顔をしていた

送ろうかと言ったけど

タクシーで帰るから大丈夫だと言い

バタバタしてそうだからこちらからは連絡しなかったんだ

案の定忙しそう

早く落ち着けばいい


「ね、結局合宿には行くのかな?」

確かあの人たちは合宿のための買い出しメンバーだったはず

私は長いスプーンで下のチョコソースを掬いながら

ふと気になり疑問を口にする

「えー、まさか行かないでしょ」

友人は苦笑いしながら背凭れに身体を預けると

「……行くのかな?」

ファミレスの高い天井を見上げる

「さぁね」

aちゃんはサークルを辞めたと目の前の友人伝に聞いたし

そもそものきっかけも

大学に入ってから出来た友人に

「1人だと心細いから一緒に入って?」

の誘いで入っただけのサークル

aちゃんには特になんの思い入れもなかったサークルらしい

「あ、そうだ」

大事なの忘れてた

と、背凭れからぐっと身体を起こしてこちらに顔を寄せた友人が

「例の、aを好きだったもう1人の男子c君いるでしょ」

「うん」

「その男子c君を好きで、aとbの両思いの噂を流したのがね

aに

『一緒にサークルに入って』

って誘った女子なんだって」

「それはまた」

なんとも難儀な話だね

友人は私よりも更に下世話な好奇心が強いのか

いつもより妙にテンションが高い

私は呼び出しボタンを押して

「チーズケーキ追加、クーポン利用で」

社員限定の紙のクーポンを見せる

「売上に貢献しろよ」

バイト仲間に渋い顔をされるけれど

「やだよケチ」

それに今は私は客なんだから敬語使え浪人生め

「生クリームもアイスも増量してくれなかったことを私はしばらく根に持つからね」

私のそんな言葉に浪人バイト君は笑いながら戻っていく

ふんっ

次は頼まれてもシフト替わってやらんからな


おっと話が逸れた

それで

話を聞く限りさ

本当にただの事故だよ

aは被害者だと言ってもいいくらい

好きでもない男と心霊スポットに置き去りにされた被害者

友人も

「だろうね」

って不機嫌そうな顔をしていたし

でも

周りはそうは取らなかった

面白おかしく噂して話を大きくして揶揄して

aがbを突き落とした

aがbに乱暴されそうになった

された

そんな嫌悪感しか沸かない噂話まで広がり始めたらしくて

aは結局

夏休み明けて1ヶ月も経たずに大学を辞めてしまった


「ヤホ」

「お、a、おはよ」

まぁ次の年度からうちの大学に来たんだけどね

おっとりした浮世離れしたお嬢様も少なくない女子大だから

向こうの大学の嫌な話までは流れて来ない

「君は今日もバイト?」

「うん」

あぁそうそう

bがあそこで死んだお陰でね、その後のファミレスの売上が若干伸びてるよ

みんな大好き心霊スポット

集団自殺の後に事故死だもんね

忙しいのは嫌じゃないかって?

暇だと時間経つのが遅いんだよ

だから私は多少忙しい方が好き

多少ね

多少の混み具合がいい

「aは今日は?」

「cが大学まで迎えに来てくれるって言うから、午後にモール行ってくる、最近出来たでしょ、あそこ」

aは

cと付き合っている

aがサークルも辞め

嫌な噂やひそひそと周りから遠巻きにされている間

サークルを辞めて

気にせず話をして一緒にいてくれたのは

時を同じくしてサークルを辞めたcだったのだそう

aが大学を辞めると伝えたら

「まだ告白は待とうと思っていたけど、このまま離れるのはイヤなので俺と付き合ってください」

って告白されたんだって

青春だ

あのサークルに限ったことじゃないけど

結局

周りの誰も彼も

渦中にいる人間の意思はまるで考慮せず

ただの噂をあてにしてこぞって見当違いなお節介は張り切って焼くんだ

面白がってね

それで結局起きたのがあれ

『活動的な馬鹿ほど恐ろしいものはない』

ゲーテの名言

まさにこれだよ

愉快な仲間たちの不幸な結末

一つも笑えないね



午後に大学サボってモールデートしてたaがバイト先に来たんだ

「泊まらせてー」

ってね

うん

aはうちによく泊まりに来る

私は上京組で一人暮らしだからね

ファミレスまでは彼氏に送ってもらったらしい

そのまま彼氏の部屋にでも泊まればいいのに

あぁ彼氏も地元の実家組か

「お待たせ」

「お疲れ様」

aと車に乗り込むと

「ね、あの別荘寄ってくれない?」

シートベルトをしながら唐突にaに頼まれた

「……えぇ?」

意図が分からずaをまじまじ見てしまうと

「私、あれからまだ一度もbに手を合わせてなくてさ

昼間も人が多いでしょ

平日のこの時間ならまだ人も少なそうだから」

確かに

でも普通はお墓じゃないの?

そう思ったけど

私はaの気持ちを汲んで少し怖かったけど行ってみた


無理無理無理無理カタツムリ

まだまだ人がいる

しかも沢山

更にヒャッハー系

女2人なんて到底無理ゲー過ぎて

空き地でUターンして逃げるように戻ってきた

バイト先がほどほどに繁盛してるんだから気づくべきだったよ

バイト先のファミレスも通り過ぎ

しばらく先の交差点の赤信号で初めてお互いに顔を見合わせ

肩を竦めて苦笑いした


けれど

私は思う

aはまだ

「何か」

を気にしているのだろうか

その

「何か」

私には

見当も付かないけれど


それからしばらくもしないうちにね

あの別荘の持ち主の代理人?みたいな人が見つかり

あの別荘は取り壊されることになった

手前の旧スポットも市が問題視して、やっと何かしらするらしい

私は

(売上減りそうだなぁ……)

と思った


大学では

私は友人とaと相変わらず仲良くしてる

それで3人で

スキースノボのオフシーズンに

ゲレンデを花畑にしているところあるでしょ

リフトで上まで行って苦労せず花を鑑賞できるの

あれに行こうと計画立ててたんだ

日帰り旅行ね

なのに

前日に友人が熱出して

「せっかくだし2人で行って来て……」

って友人もガラガラ声で電話してくるし

aとは

友人がいなければ間が持たなくて辛いという関係でもないしね

お土産買ってくるよと2人で行くことにした

aは免許はあるけど運転のセンスはない

私も別にセンスはないけどaよりはマシ

aに運転を任せてあのbと同じ世界線に立つのは嫌なので

運転は始終私

ドライブ途中で

「ラベンダーソフトはトイレの芳香剤の匂いする」

「チョコミントなんか元祖歯みがき粉味だろ!!」

「チョコソフトの見た目うんちクリーム」

「お前!!全人類のチョコ好きに謝れ!!」

まさにクソみたいな不毛な喧嘩をしつつね

うん、ごめん、馬鹿だね

それでもね

スキー場のリフトから見下ろす花畑は綺麗だったし

その土地の名物らしいお蕎麦も美味しかった

名前忘れたけど滝も見た

春雨だか白滝だかの

ところでさ

マイナスイオンって、何?


それで

そんなんで散々はしゃいだ帰り道

すっかり陽が落ちた帰りの高速の渋滞中

あまりにおとなしいため助手席で寝てると思ったaが

「ね……」

と小さな声で話しかけてきた

「ん?」

「……あのね、あの時さ」

どの時

「しらばっくれないでよ、ファミレスで会った日」

「……」

あの日か

「私がbを突き飛ばしたのは本当」

「うん」

「……でも、初めはbは尻餅付いただけだったんだ、女の力なんて大したことないから」

「そうだね」

先の道で合流があり、ますます車が進まなくなる

「でもね

そこで言われたの

『本当はcが好きなんだろ』

って

私はさ

本気で、はぁっ?って思ったよ

好きな人なんていなかったし

cの事もその時は何とも思ってなかったから」

うん

「……でもね

『それでこの人が諦めてくれるなら』

って思ってね、頷いちゃったの」

山の影からゆっくりと月が顔を出してきた

「そしたら

bがね

『じゃあ今からcに電話してそれを教えてやるよ!』

って携帯弄り始めてさ」

「……」

子供かって突っ込みたいけど

bの中身は本当の本当に子供だったんだろうね

周りのお節介に安易に乗って

玉砕したら冗談でもそんな幼稚な嫌がらせをしてくるくらいには

「私は

慌てて

『やめてよ』

って尻餅ついてるbに駆け寄ったら

bは笑いながら庭に逃げていったの

室内はキャンプ用の明るいランタンを置いていたけど

庭は真っ暗でしょ

bも私も先が柵もない崖になってるなんて知らなくて

私は

暗がりの先で振り返ったbの携帯を取ろうとして

でも足場悪くて

その場につんのめってbの胸当たりを思いっきり押しちゃったの」

遠くで甲高いクラクションの音が聞こえてきた

「そしたら、ふっとbがいなくなって

すぐにね、ゴッてなんか鈍い音がした」

「もういいよ」

車の中は逃げ場がない

「ダメ、共犯者になって」

無茶言うな

「でも

もう大した話はないから大丈夫

私はその場に屈んでね

bがいた場所に手を伸ばしたらもう地面がないこと知って

何度かbの名前を呼んだけど返事ないし

bの携帯の灯りも遠いし

bがどうなってるのかなんてもう知りたくもなくて

部屋の中のランタン持って道路まで出て道端に置いて

そこからはもう話した通りに

道を戻ってきただけ」

aはふっと息を吐く

「あの時はもう怖さよりも

もうbを含め

周りに好き勝手されて振り回された怒りしかなくて」


(あぁ……)

あの時の

ファミレスに現れた時の

あの不機嫌さを隠さないぶっきらぼうな口調のaの顔を思い出す

そして

この渋滞はどうやら小さな事故渋滞だったらしい

事故処理が終わったのか段々スムーズになっていく

「それで?」

「……聞いてほしかっただけ」

嘘吐け

「aは悪くないよ」

せいぜい優しい声で言ってやる

「……うん」

一人で抱えていたものを、やっと吐き出せたのだから

「何も悪くない」

本当に

「……ありがとう」

小さな声は微かに震えている

なにより

「あれはただの事故だよ」

何より「警察」がそう判断した

そう

だからあれはただの事故だ


それより

「aはcとはまだつき合うの?」

「え?何、急に……?」

私の肩に頭を寄せていたaは

頭を戻すと怪訝な視線を送ってきた

いや、だってさ

その

「aとbが両想いって嘘の噂を振り撒いた

cが好きな女子への

その、多少は当て付けでc付き合ったのかと……」

チラッと思ったりしたのだ

頭の隅でね

ほんの少しだよ

aはさぞ怒るかと思ったが

「違う違う、待って、そもそもそんな話も初めて聞いたんだけど?

え?

なにそれ?

2人きりにされてbの気持ちを何となく知りはしたけど

bが死んだ後は

私はもうみんなから遠巻きにされてて

サークルの人間はこっちから無視したし

全然知らなかったし耳にも入って来なかった」

ん?そうなのか

「うん、多分cもそんなの知らないんじゃない?……あいつ色々鈍いから」

そこは惚気と取っておこう

では

友人が言っていた

「aをサークルに誘った同じ大学の女子が嘘の噂を流した」

は誰からの情報なのだろう

てっきりaからだと思っていたけれど

それもよく考えれば変だしね

友人には

a以外にも

向こうの大学に知り合いでもいたのかも知れない



季節はどんどん過ぎて行き

私達3人は進級

バイト先の浪人生ことバイト君は無事

浪人生から大学生へと昇格し、以前aがいた地元では名の知れた大学へ入学した


バイト君曰く

aのいたサークルは普通に存続してるって

ははぁあれだな

『大事な仲間を失った可哀想な俺達』

に酔ってるタイプと見た

死んだ仲間を異様に美化するタイプの人間

一生解り合えないし解りたくもない

そんな下らない事を考えていたせいか

無意識に皺が寄る私の眉間に何を思ったのか

バイト君

「気になるなら俺がそのサークル入ってみようか?」

だって

どうしてそうなる

私が馬鹿なせいか全く理解できない

しかも

今更入ったって

何か分かるとも思えない

そもそも

私は何を知りたいのか

それすら分かっていないのに

あぁ

えっとね

バイト君はbが死んだ時からやたらそれらの話を聞きたがり

aに許可取ってから、ある程度は話していた

それでも

特に何をするわけでもなく

そう

ただ話を聞いて満足していたみたいなのに、いきなりどうした

「自分の好きなサークルに入ってせいぜい楽しい青春送りなよ」

あんな人殺しサークルなんぞに好んで足を踏み入れなくても

「いや、シフト何度も変わってくれたお礼」

礼ならもっと別のもので寄越せ

「とりあえずサークル覗いてみるよ」

話を聞け

それに

「待って、何を知りたいわけでもないんだよ」

本当に

aからあの時の話を聞いてから

もうだいぶ経つ

バイト君があの大学に受かり

そんなことを教えてくれたから思い出しただけ

「分かった、じゃあお礼はバイト辞めるまでに何か考える」

「うん、そうして」

そう言ってたのに


「元凶となった、噂を流した先輩いたから話聞いたよ」

5月だったかな

バイト君は

「俺、人の懐に飛び込むの得意だから」

犬だったら尻尾振ってそうな顔をしている

それもあって

頭を撫でない代わりに

「別に聞きたくないんだけど」

とは言わなかった

バイト先のファミレスは

しばらく前から閉店時間が早まってて

(心霊スポットがなくなって深夜に客が来なくなったからね)

仕事終わりのまだ早い時間に

街中のチェーン店のカフェに腰を落ち着けた

「でもよく分かったね、そんな事」

向こうだって話したくない事ではないのか

「それは簡単だったよ

『いつでもどこでも自分が一番でいたい、でも実力的に無理そうな人』

を探しただけ

そんな人

いくらでもいるでしょ?

ひたすら話を聞きながらさ

『僕はあなたの辛さすごく解ってますよ』

みたいな事を仄めかせば、すぐにペラペラ話してくるよ」

……何でファミレスなんかでバイトしてんの君

「あのサークル、当然だけど新入生の確保も大変そうでさ、あの事故の事も、もう過去のイベント感覚で話してくれる人もいたよ」

バイト君が言うには

3人目で『当たり』を引いたと

「その先輩曰く

私はaが誰を好きかは知らなかった

でも

入学当時にしばらくうちの大学の子じゃない子が混じっていて

気が合ったからその子がサークルに来なくなってからも

個人的にやりとりをしていた

正式にサークルの子じゃなかったから

気軽にcのことが好きとかも話せた

でもすぐにcはaのことが好きなんだって気づいて落ち込んでいたら

その子が

『aはbが好きだよ』

って

『aは奥手だし自分の気持ちを伝えるの苦手って言ってたから

外堀から埋めてあげようよ』

的な事を言われたらしい

そのcを好きだった先輩は決して悪意などなくて

『あるのは自分への利益と他者への純粋な慈悲と邪魔者排除の気持ちだけ』

だったそうだよ」

うん

それ十分悪意に匹敵するわ


私は思った

もっとしっかり

このバイト君を止めておくべきだった

余計な事をするなって

大きなお世話だって

言うべきだった


「それで、なんだっけな?

そうそう

『結局あんなことになってaは大学辞めちゃうし

好きだったcまでサークル辞めちゃって

サークルの空気も最悪

今更他サークルへ移るのも理由が理由だけに受け入れてもらいにくいし

今は残った人は惰性でみんなあのサークルにいるだけ

cともうまくいかなかったし

なんでこんなことになったんだろう本当に可哀想な私』

要約するとこんな感じだった」


そっか

「……ありがとう」

私の平坦な礼の言葉を茶化してくるかと思ったのに

バイト君は

何だか少し寂しそうに笑うだけだった

何もかも解ってたんだろうね

このバイト君は

私と違って

頭いいしね


多分

初期にサークルであらぬ噂を広めたcを好きだった自己愛さんと仲良くしていたのは

私の友人でもあり

aの友人で幼馴染みでもある

「友人」

bが死んだ数日後にファミレスに来た「友人」は少しテンションがおかしかった

なにせあの噂を広めさせた張本人だったのだから

その結果があれ

あの時

「友人」

はどんな気分だったのだろう

自分はちょっと面白おかしく噂を広げただけだと、なんとも思っていなかったのか

その噂で幼馴染みを酷く傷付け

大学を自主退学までさせているのに


それまでは別に聞く必要もないし聞いたこともなかったけれど

aに聞いてみたら

「うん、あの大学はあの子と一緒に受けたよ

でもあの子は落ちても全然気にしてなかったな

女子大は受かってたしね

『こっちは記念受験みたいなものだったから』

ってさらっとしてた」

そう

あくまでも「表面的」にはそうだったらしい

でも実際は

そんな事はなかったんだと思う

「サークルに?うん、来てた来てた、こっちのサークルだけ入ろうかなとか言ってた

でもやっぱり通ってる大学の方が合うんだろうね

そのうち来なくなったよ」

そう教えてくれたaは

電話口で

「……ねぇ、なんでそんな事聞くの?」

と不安気に聞き返される

そうだよね

ごめん


aと仲良くなってから分かったことだけれど

aの家はどうやら少しでもなく

かなり裕福そうだった

話の端々からもそれとなく伝わるし

持ち物や小物1つ取っても安物ではなさそう

家には頻繁に県だか市だかの偉い人たちが訪ねてきているとかも聞いたこともある

aは三兄妹の、兄、兄、妹の末っ子

末っ子の娘を溺愛し尚且つ嫌われたくない父親がとにかくaに甘く

無断外泊なども渋々許してしまうらしい

うちにちょくちょく自由に泊まりにくる理由も分かった

「締め付けすぎると反動が怖いから」

ってパパが言ってたよとa

そんなものかね

一方

「友人」

はどうなのだろう

「友人」も地元で実家暮らしだから気を遣うし遊びに行ったことはない

けれど

私立の女子大に娘を入学させるくらいだ

大学でも私やaより友達は遥かに多いし

楽しく過ごしている様に見える

よその大学のサークルにデタラメな噂を広めて引っ掻き回して何をしたかった?

自分の利益のために根拠のない噂を広めるような、そしてaに比べたら到底浅い付き合いの友人の応援をなぜした?

結果

あの最悪な惨事となったことをどう思っているのか

内心でほくそ笑んでいたのか

1人の時には腹を抱えて笑っていたのか

aに人殺しの汚名がかかれば

aだけじゃない

aの父親にも

よからぬ多大な影響が出たはず

ではなく

正確には影響は出ているだろう

例え表向きにはならなくても

そう

ならなかったのはひとえにaの父親の力の強さ故

「え?警察?行かなかったよ、警察の人が家に話を聞きに来てくれたから」

とaは話していた

そう

aの父親がaを守ってくれたのだ

aの友達としてはaの父親に感謝しかない

それでも

きっと友人は

それすらも不満だったんだろう

うまく行けばaの父親ごとaを転落させられたのだから


そして私は思う

友人はまだ

「物足りない」

のだろうかと


それでも

今でも私はその「友人」と仲良くしている

「何も知らないふり」

をして

そうすることが私にとってもaにとっても

それが今の最善策だと思っているから



それからは

私は日々

決してそれとは解らぬ様に

注意深く観察していたけれど

「友人」の中では

aが元いた大学より偏差値の低いこちらに来たことで何かしらの溜飲が下がったのか

それからも

特にaにいわれもない噂などは広がったりもしていない

そして私は幸運にも「友人」から妬まれる対象では全くないようで

実際おかしな噂を流されることもおかしな実害などもなかった

そして最近

「友人」

は最近は別のグループとよく絡んでいる

それでもaは別に気にした様子もなく

「ね、また遊び行こ、どっか旅行でも行こうよ」

と私を誘ってくれるため、私はaと2人でいることが多い


私は「友人」が私たちから離れてからも

ずっと

それこそ卒業まで「友人」の動向をさりげなく気にしていた

見ていると「友人」は定期的に色んなグループに移っていたし

色んなサークルにも顔を出していた

パッと見の華があるしコミュ力が高いから出来ることなのだろう

初めは皆楽しげだ

しかし「友人」がいるグループはいつも少しだけ

段々と

そこはかとなくギスギスしたものが生まれていく

表面上は仲良くしている

けれど

ふとした時にお互いを盗み見るような視線が絡み空気が軋む

それがとうとう隠せなくなってきた頃に

「友人」はまた別のグループにすり寄る

きっとお得意の根も葉もない

しかし

いかにもそれっぽい信憑性のある噂をうまく流しては

グループ内の関係がギクシャクするのを楽しんでいたのだろう

一度拗れた関係はそうそう簡単に元に戻るものでもなく

大概はそのまま崩れていく

いつだったか

「ここ数年、うちにしては休学と退学が少し多いですね」

「時代ですかねぇ」

学生課の職員が話しているのが聞こえた

ううん

別に「友人」のせいなどとは思っていない

それこそこじつけにも程がある

でも1人か2人はもしかしたら

消えていく原因の一つくらいにはなっているかもしれないとは思っている



心霊スポットが綺麗さっぱりなくなり

バイト先のファミレスは私の卒業を待たずに潰れてしまった

本当に長年、心霊スポットのみで持っていた稀有な店だ


大学を卒業後

「友人」とはこちらから一方的に連絡を絶てば、またろくなことにならなさそうだし

卒業後もメッセージが来たら返す程度の交流はあったけれど

ある時から

ふと連絡が途絶えた


今時

「ニートじゃなくて家事手伝いなの」

と言って

日々

のんびりと働きもしないaが私の地元に遊びに来た

私は地元に帰って就職したからね

「ねぇねぇ、あの子から連絡来てる?」

カフェに落ち着き

それぞれプリンパフェと桃のパフェを頼むとaが私を見てきた

「来てない」

2人の間で「あの子」は「友人」のことだ

aは

「そっかぁ」

頷くと

もうどうでもよさげに壁のポスターに視線を移す

花火大会のお知らせ

「……家、近いんじゃなかった?」

aと友人は幼馴染みなのだ

「あーなんかね、お祖父ちゃん亡くなってご両親が九州の方に帰るって、もう家も売って今は空き家だって親から聞いたよ」

そうなんだ

それなら「友人」も両親に着いていったのかもしれない

aも何かしらを察しているのか、何も考えていないのか

まぁ後者だろう

aからは一度も連絡を取っていないと言う

私とaの間ではもう「友人」の話題は終わり

「花火大会だって、これ観たい」

「いいよ、また泊まりに来る?」

うちの両親も、末っ子ならではの、ちゃっかり甘え上手なaがお気に入りなのだ

「来る来る、ね、夏に海行こうよ」

「えー?焼ける」

「1回くらいいいじゃん」

私達の間で、あっという間に、あの「友人」の存在は、ただ過去の人になって消えていく


それっきり

ただの一度も「友人」からの連絡はない

aも「友人」の名を出すことはない

2人の間でたまにでもなく出る

懐かしい大学時代の思い出話の時も

まるで初めから存在すらしていなかったのように

「友人」の名前は出てこない


それから間も無く

大学でa共々にとても世話になった教授が自宅で倒れそのまま帰らぬ人になり

葬式へ出席したけれど

そこでも多くの同級生に会い挨拶などは交わす中

誰も「友人」の名を出さなかった

それはもう存在したかすら疑わしい程に

ただの1人も

不自然な程に

誰も


でも

それでいい

きっと私が思うよりも早く

「友人」

には何かしらのしっぺ返しが来ているんだ

それだけの話


そう

ただ

それだけの話

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