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#1【人生最高の出会い】

はじめまして、成澤雪です。

今回初投稿ということで緊張しながら執筆して読み返しての繰り返しでした。

あまり楽しい話ではないのでアオハルとかラブコメとかアクションを期待する方は期待外れですみませんm(_ _)mと先に謝っておきます。

さてさて前置きはこのくらいに、

最後まで読んでくださると嬉しいです。

感想なども是非どうぞ




死にたい死にたい死にたい死にたい

 



 

生きたくない

 生きたくない


 辛い辛い辛い


痛い痛い


泣きたい


 けど泣けない

泣きたくない


誰にも見られたくない


会いたくない


聞きたくない


嫌だ


もう何もかも

いやだ


辛いよ


辛いよ







パラパラ、とページをめくる音が響く。


ベッドの上で読んでいた新しい国語の資料集にはたくさんの文豪について書かれている。


高校一年の夏。

僕は授業中に読み込んだこの本で特に気に入った作家の紹介ページを開いた。


 

「······『ぼんやりとした不安』かぁ」


一見色々あっても幸せそうに見える人生だが、この作家は自分で死を選んだ。

 

何もかも違うような僕の気持ちと、彼の遺書の言葉はぴったり重なる。


天井に顔を向けるが、ライトが眩しくて思わず目を閉じる。


真っ暗な、けど少し眩しいような、

変な世界を見てる気分だった


「死にたいなぁ」


部屋に響くのは珍しく低い声だった


無意味な人生に飽きて


 他人が嫌いで


 自分も嫌いで


でも痛いのも苦しいのも嫌で


 お金もなくて


 逃げ出す場所も勇気もない



  

これは 

 

そんな僕が"希望"を拾った話。





7月終わり。


学校からの帰り道だった


夏期講習という名の強制補習で大嫌いな物理の時間を過ごした。

ゴミよりも無意味で眠気より吐き気が起きる。

最近ではあの先生の顔を見ると胃がムカムカして気分が悪い。


(大体なんなんだよ、1年だけ文理選択制じゃなくて強制とか···。他校に行った友達はみんなやってないってのにさ)


その日も同じで、イライラしながら額の汗を拭ってバス停まで歩いた。


スマホで調べると、家の近所まで行くバスはあと8分で来るらしい。


だが、やはりいつも通りにその8分も待てないほどイライラしていた。


「あっつい····」


喋るだけで生暖かい空気が口の辺りに感じた。気持ち悪い、気分が悪い、とボヤいているとやがてバスが来た。

だがそれはいつも乗るのとは違う、家から徒歩30分は離れた駅へのバスだった。

あの駅はちょうど家と学校の中間地点にある。


(駅なら、確かコーヒーショップあるよな。

冷たいカフェラテでも飲もうかな)


牛乳は嫌いだ。でもコーヒーは大好きだ。

だからカフェラテは飲める


冷たいコーヒーが想像でき、ポケットから定期を出してそのバスに飛び乗った。



しばらくして駅に着いた


コーヒーショップは駅の構内を2分も歩けば着ける場所だ。


改札の辺りには夏期講習かはたまた部活の帰りのような学生が多く行き交っていて、中学時代の知り合いがいないか不安になりながら早足でそこを通り過ぎた。


コーヒーショップの前に着くとまず財布をバックから出し、バスの冷房でほとんど引いた汗を拭い、ネクタイと襟を正して入店した。


僕は人見知りとまでは言わないが、中々人と会うのが好きではない。

こういうオシャレな店も1人で来るのは正直避けたかった。


でも背に腹はかえられない。

今なら冷たいコーヒーを飲むためになんだってやる気になる。



「えっと···アイスカフェラテのM、店内で」


「520円です」


「1000円からお願いします」


「お釣りとレシート、480円のお返しです。

 あちらのカウンターからお受け取りください」


「どうも」


財布をしまってすぐに渡されたアイスカフェラテを手に、パソコンで仕事中のようなサラリーマンとスマホをいじりながら期間限定発売のフルーツティーを飲む女の人の間の席に座った。


満を持して1口飲めば心が安らぐのを感じる。


1人でこの店に来るのは夏期講習初日の帰りと今日のたった2回だが、結構気に入っている。

レジの女の店員さんも良い人そうだし、何より静かでコーヒーも美味しくて、タピオカやゲーセンにハマってるような知り合いに会わなくてすむ。


しかし、どうしても長居したいほどではないので飲み終えて早々に店を出た。


帰りのバスはさっき下りた駅前のではなくその一つ先のバス停で乗ることにしている。

駅前のバス停だと人が多いし知り合いに会うかもしれないからだ。


前と同じようにバス停にたどり着き、程なくして来たバスに乗って家の近所で降りた。


ここまでは普通だった。


ちょっと帰りに贅沢をした普通の日。



 ここまでは

 






近所の大通りを歩いていると、母校のジャージを着た中学生が目の前の交差点を歩いていた。懐かしい、と思いつつ本当はそれほどだ。


中学時代のジャージは5歳離れた姉のお古で今のとはデザインが違う。

だがクラスメイトが着ていたのもあって、数ヶ月前のこととはいえ少なからず懐かしいとは思う。

いい思い出は少ないけれど


中学生が走っていくのを静かに見送ると、マンションや電柱の間に小学校の校庭の柵が見えた。


これも少し懐かしい。

同じく、いい思い出は少ないが



「···たまにはこっちで帰ろうかな」


少しだけ遠回りになるが、大通りから逸れて小学校の方へ道を変えた。



小学校の校庭では野球クラブの子達が炎天下の下で野球をしている。

野球には昔から興味が無いし、クラブは地区のであって、母校の小学校の生徒の人数は多くない。知っている人はどうせいないのですぐに目を離した。



正門の前を通り過ぎると、ボロいアパートが目に止まった。昔はよくこの前を歩いて帰ったものだ


アパートは相変わらずのボロさで、壁や窓には所々ヒビがあるし、階段や2階の柵は赤茶色にさびている。

アパートの裏に続く自転車置き場は雑草だらけで猫じゃらしが沢山伸びていた。


それを見て「そういえばこのアパートには半ノラのトラネコがいたな」と思い出し辺りを見回す。

猫は好きだ。

可愛いしふわふわで暖かいし、人間と違って心をえぐるようなことはしないから


アパートの近くを見て回るが、猫の姿は見えない。


「やっぱ、いないか」


肩を落として立ち去ろうとした時、自転車置き場の雑草の向こうでガサッと音がした。

目を凝らすとあのトラネコがいた。

相変わらずの黄色い瞳でこちらを見ると、1度だけ瞬きをしてすぐに目を離して道路の方へ走って行く


「ま、待って!」


聞かないのは分かってる。

だが周りに人もいない以上は言ってもいいんじゃないかと思いながら後を追う。

トラネコは道路を挟んだ隣りの広い駐車場へ駆け込んだ。

車のどれかの下にいるのかとしゃがんで見ると1番奥の木陰に止められた高級そうな黒い車の下にランランと光る黄色い瞳を見つけた。


「おいで」


木陰まで来てそう言うと、トラネコはまた1度だけ瞬きして、出てきてくれた。

近づいて撫でようか悩んでいればトラネコが「ナァーオ」と鳴いた。


「ん?どうした」


50cmほど距離を取りながらゆっくり近づけばトラネコは車の下へ戻る。

よく見ると傍には真っ黒なボストンバッグが砂埃を被って捨てられたように置いてあった。


「なにこれ?」


聞いても、当たり前だが返事はない。

まあ知ってた。

これはただの独り言ということにした。


いつもなら落し物かな、くらいの気持ちできっと触れもせず見なかったことにするだろう。


けどこの日は少し違った。

久しぶりの好奇心が顔を出し、自然とそのバッグを引っ張り出してチャックを開けていた。



ジーーーーーーッ



開けた瞬間、頭が真っ白になった気がした。



すぐにハッとしてバッグの後ろの猫を見る。


トラネコは何も言わずまた1度だけ瞬きしてこちらを見つめるだけだった。



中には、お札があった。


映画やドラマでしか見ないような、1万円札が束にされたのがいくつもあって底が見えない。その上に高そうな財布と新品みたいなスマホも1つずつ。

財布は重くて、開けると予想通り数万円分のお札と小綺麗な小銭、それに暗証番号のメモが挟まれた通帳が入っていた。


どうしよう


 


どうしよう


どうしよう


どうしよう



頭がまた真っ白になる。


ジャリッと砂を踏む音がした。

人が来たのかと驚いて顔を上げると、トラネコが近くに来ただけだった。


トラネコはしっぽをゆらゆら揺らしながら、黄色い瞳で僕を見つめる。


「これ、どうしよう?」


トラネコはのんびりとあくびをした。


そりゃそうだ。


でもこれは僕一人では答えが出せない。


(警察に届ける?

いや質問攻めに合うし、最悪、何かの犯罪に関わってるのかとも疑われる、絶対に面倒事に巻き込まれる。


そもそも誰のなんだ、これ?


車もよく見ると砂埃を被っていてバッグと同じくらい、数日というより何年か放置されてたみたいだし、持ち主が今日明日なんかに取りに来るとは思えない。


けど放っておくのも無理だ。

絶対に忘れられない。


どうする

どうする?)


頭がいっぱいいっぱいになる。

天使と悪魔がささやき合う余裕もない。


何度も猫とバッグの中身を交互に見て、僕はため息をついた。


「·······················いいかな。

僕、死にたかったんだ。

これがあったら、僕を殺せるかな」


「ニャア」


トラネコは前足で毛繕いを始めた。

僕はその子の頭をそっと撫でる。


そして深呼吸してから自分の両頬を叩いた。


パシッ


「·······よし、決めたぞ!」


頬がジンジンと痛む。でも頭はこの上なくスッキリした。


僕はバッグのジッパーを閉めて車の下に戻す。

そして自分の学校カバンを肩にかけ直して立ち上がった。


「良かったら、待ってて。すぐ戻るから」


トラネコに手を振って駐車場を後にする。



帰り道でここまで必死に走ったのは小学校低学年以来だった。


 

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ····た、ただいま···」


全速力で走ったからか呼吸困難になりながら帰宅する。

玄関を見ると靴は少ない。

家族は皆、仕事や買い物で家にいないんだろう。好都合だ


僕は自分の部屋へ入り、学校カバンを机の方に投げた。

多分水筒の、ガコンッと嫌な音が響いたが、僕は気にせずベッドの下のダンボール箱を引っ張り出した。


両親や姉のお下がりの漫画本、

大事にしてたおもちゃ、壊れたストラップ、

保育園の時にもらった運動会のメダルとその時の写真、そんな宝物の入った箱を迷わずひっくり返した。


「あった」


ダンボールの底にセロハンテープで貼り付けた封筒を、手早く剥がし取り、今度はタンスの引き出しを勢いよく開ける。


中から上着とパーカー、シャツ2枚と靴下にズボンを取ってそれを足元に転がっていたリュックに詰める。

春に高校で行った1年生の交流キャンプ以降ポケットティッシュと新品の歯磨きセットだけ入った状態で放置された物だ。


「あと何か忘れてるもの····」


部屋をキョロキョロと見回す。


宝物や思い出の品は今思えばそれほど大事に思ってなかったし、僕の全財産はポケットの財布に入っている。

忘れるほどの物なら持っていかなくていいかと今度は机に目を向けた。


見た目より軽いリュックを片手に、僕は机の棚からチョコレートをひと袋と使ってなかったイヤホンを取ってリュックに詰めた。


不安になるほどにリュックは軽い。でも他に必要なものもなさそうだったので、僕は校章のついた服を脱いで、着替えた。


満を持してリュックを背負う。鏡を見れば「家出少年」に見えるような···見えないような。

身長は165で止まってしまったし親や姉からは童顔と呼ばれる始末。

年相応な僕の姿は、今更変えられないのだ。



だが、誤魔化すことは出来る。

 

2年間使わなかった帽子を被ってみると、目元が隠れて少し大人びたように見える。

ついでにマスクをつけると「家出少年」というより「ちょっと不審な大学生」みたいな···まあ最初よりはマシな姿だ。


とりあえず満足して家族が見ても不審がらない程度に部屋を片付け、僕は玄関へ駆け戻って家を出た。


幸い家の周りには家族も知り合いも、近所の人もいない。犬の散歩をしている人が大通りの近くに見えるだけだ。



僕は走った。


これを走り切れば全て変わる。

諦めていた願いが叶う。

そう言い聞かせて肺と足が悲鳴をあげそうになるほど全力で、あの駐車場へ走った。



駐車場につくとあのトラネコはいなかった。


またしても、そりゃそうだなと思いつつ木陰の下へ行った。

周りに人がいないのを確認し、しゃがみこんで黒い高級車の下を覗く。


黒のボストンバッグはそこにあった。


胸が飛び跳ねそうになりながらバッグを引っ張り出し、中身を素早くリュックに移す。


札束、

札束、

スマホ、

財布、

また札束、

通帳とボールペン、

中身の入ったポーチ、

未開封の袋に入った黒いシャツ、

そしてまた札束···。


そうやって最後の札束を手に取ると、底に腕時計があった。

シルバーの、どこかのブランド物みたいで、やはり他のと同様、新品みたいだ。


スパイ映画でよくある発信機のついた特注品じゃないかと僕は疑って腕時計をよく見る。

一見なんの細工もないようで、時刻はスマホと同じ15時25分を示している。

僕は少し悩んでから、「まあいいか」と左手首にそれをつけた。


(このバッグの中身はきっと、映画やドラマでしか見ないような裏社会とかの偉い大人の物だ。

持ち主が死んだとか何か約束があって何年も放置していたとか···映画じゃなく現実だから本当はどういうわけかはわからないけど、もしバレたら殺される。

けどそれでいいんだ)


本当を言うと、少し怖い。

でも「少し」だ。

今はこの胸の高鳴りが紛らわしてくれる。


羽のように軽くなった黒のボストンバッグを車の下にしまい、重くなったリュックを背負って「よっ」と言って立ち上がる。


周りを見回すが、猫どころか人もいない。

僕はさっきトラネコがいた木陰を見つめる。

 

「ありがとう」


口に出たかどうか分からないが、そう想って駐車場から去った。




僕は大通りに向かいながら自分のスマホをポケットから出し、母親にメールを送る。

一言目を打つ前に少し考えることがあって、指が動かない。


「誰がいいかなぁ·····うーん、

やっぱり茜だよな。」


『茜と遊ぶ ↲

 6時には帰ります』


「『ぺこっ』スタンプ、と。

 あとは茜に···」


プルルルル···


中学からの親友の茜は違う高校に通っている。だが互いに今の高校が好きじゃないのでたまに会って思い出や高校の愚痴とかを話している。


前に聞いた予定が変わってなければ、茜は今日部活がなく家にいるはずだ。


「頼む、出てくれ····!」


念じること5秒、永遠かと思えた呼出中の音が途絶え、声が聞こえた。


『もしもし?』


「あ、僕だよ。出てくれて良かった〜···。

実は頼みがあるんだけどさ」


『今ぁ?買い物なら付き合えないよ?

明日法事で夜から親戚の家行かなきゃで···』


「違う違う。あのー、今僕、親に秘密で出かけるんだけど、その言い訳に茜の名前使っちゃったんだ。だから僕の親から連絡いったら適当に誤魔化しといて!って話」


『なんだよ、家出?

別にいいけど···俺が人の親と話すの苦手なこと、覚えてる?』


「すっとぼけて『よく知らないですー』とかでいいからさ!迷惑かけてごめん!

 また会おうな」


『はいはい』


電話が切れた。

我ながら良い友達を持ったものだ。


人の多い大通りだったので、控えめにガッツポーズしてそれをかみ締めた。



大通りのバス停には人が並んでいる。

最後尾に並ぶとちょうど駅に行くバスが来た。


定期ではなく小銭を払ってバスに乗り、車内に知り合いがいないことを確認してから安心して手すりに寄りかかった。


窓を見ると遠くの空が赤くなっている。

時刻は4時を過ぎた頃、そろそろ夕方だ。


(僕は願いを叶える。

今日から僕の新しい人生が始まるんだ)


思い返せば、あの時トラネコを追いかけたのも偶然じゃなくて必然というものだったのかもしれない。


僕の願いはきっと叶う。


希望が確信に変わるのを感じた。 



(美味しいもの食べて、高い物を買って、

好きなとこに行って、好きなことして思い切り楽しんで、一人で静かに眠りについて

 

  ·················そして死ぬんだ)

 

バスの揺れを感じながら、僕は両手を組んで強く握りしめた。




成澤です。

この度は「さいごに自由を」第一話を読んでくださりありがとうございました。

一応「連載作品」ですが、初めての投稿作品なのでどこまで書くかは自分でもわかりません。

ですがもし続きを望む読者が1人でもいてくださるなら、自分はさいごまで書き切る所存です。


良ければまた読みに来てください。成澤でした

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