表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第二章
94/172

41 入場

「ははは!そうだった、そうだった!俺が足を引っかけてやったときのあいつの顔と言ったら!最高だったよな、ジョナサン」

「今もう一度やったらガチで骨折してあの世行きだから勘弁してやるか。命拾いしたな。お互いジジイでよかったぜ」

ジョンとジョナサンは準備を終えて衣装に着替え、飾り付けの終わった玄関ホールを見下ろす階段のところでふざけながらおしゃべりに興じていた。ジョンは昨日の涙は嘘だったかのように普通に弟と話して、弟もまた、それを掘り返すつもりはないようだった。

イオは最後に、パーティーに出席する、当時のハルミのパーティーで求婚した男性、つまりイルマの父親候補のプロフィールをもう一度確認する。

「イチの一族の皆さんが到着いたしました!」

玄関で待機していたスタッフが声を上げた。屋敷にさっと緊張が走る。イオはスタッフの恰好をして位置につく。イルマ、ジョン、ジョナサンは来場者に挨拶をするために身支度を整えた。開けられた扉から見ると、神輿のようなきらびやかで、二人のヒトが人力で担いで運ぶような籠がいくつか到着していた。楽園には車が存在しないし、この山道は車がたとえあったとしても乗り入れられないために、良家のご老人は籠に乗ってのご来場となることが多い。時代の世界観は違和感しかないが、受け入れるしかない。籠が開いて老人が下りてくる。

「ようこそいらっしゃいました、スカイ様、ミノリ様」

ハルミは五人兄弟の末っ子だった。一番上の兄、その次の姉はすでに亡くなっているが、スカイという次男と、ミノリという次女は存命だ。

「ミノリお母様、さあ、私につかまって」

足元のおぼつかないミノリに手を貸すのはミノリの娘のヤヨイだ。50代くらいに見える。

「お会いできてうれしいです、お初にお目にかかります、叔母様、従妹のヤヨイ様」

イルマは丁寧に挨拶をした。

「お前がイルマとかいう、ハルミの娘かい。あまりでしゃばった真似をして一族の名を汚すんじゃないよ。私はお前がハルミのようにおかしな真似をしないように監視するためにここに来たんだ。まったく、母が母なら娘も娘だね」

ミノリはしわがれた声で罵倒した。

「まあまあ、おばあ様。ハルミ様がどんなに男たらしだったか私は存じませんが、少なくとも今はっきりしてることは一つあるわ」

後から現れたのはピンク色のドレスに身を包んだ20代の女が現れた。

「おお、アカネ。そうじゃ、はっきりしてることは一つあるな。今夜のパーティーは別にこいつが主役ではないということじゃ。多くの素敵な男を落として主役に輝くのは、アカネ、お前じゃよ」

スカイが言う。

「そうよ、大叔父様。今夜、主役になるのはこの私。たくさんの見る目ある殿方が私に注目するわ。第一、あなたはどういう血筋なのかもはっきりしないじゃないの。このパーティーで相手を見つけたとしても、一族本館のほうに部屋を作ったりなんてしてやらないわ。ここでハルミ大叔母様と同じように一生暮らすがいいわ。下品な男遊び大好きさんにはちょうどいい場所ね」

初対面の親族にかなり当たりの厳しい家族だった。ハルミは親族内でも疎まれていたらしい。イルマはぴくりと頬を引きつらせる。

「そうですか。別に部屋なんか期待してません。それより、パーティーの主役は私だ、なんてずいぶん自分に自信があるようですね。どっちが多く指輪をもらえるかで勝負でもしますか?私を下品と言いますが、あなたのその上品なテクニックならさぞ多くの男が寄ってくるんでしょうね」

「はあ?なによ、その言い方!挑発のつもり?」

「あー、エヘン。こっちで手荷物検査をしてもよろしいですか?」

険悪なムードになりかける両者の間に割り込んでイオは言った。まったく、妙なところで張り合うアカネもアカネだが、喧嘩を買うイルマもイルマだ。真実の愛を見つけたいんじゃなかったのか。イオはイチの一族の連れてきた執事や使用人も含め、手荷物を検査した。ハルミの一族なので、当然なのだが、鍵らしきものも見つからず、無事に全員検査を終える。

「イチの一族の皆さんの控室は階段上がっていただきまして右手の二部屋となります。パーティーが始まるまではご自由におくつろぎください」

アカネとイルマはにらみ合いながら別れた。

次に来た一行はトウの一族だった。まず三人の老人がやってくる。トウの一族の現家長、カナメ。きっちりとした着物を着ている。この一族はパーティーなどの集まりにはよく着物を着てくるそうだ。カナメはもともとのハルミの許嫁だったヒトだが、破局している。そしてカナメの三人兄弟の次男、フク。このヒトは兄が許嫁と知りながらハルミに求婚している。三人兄弟の三男、ナツキ。このヒトもハルミに求婚している。どうなっているんだとイオは突っ込みを入れたくなるがこらえる。イオは三人を注意深く観察した。三人はイルマを前にしても、ただ普通に挨拶をするだけだった。

ちなみにナツキの孫のハクトウとマナツという男も出席する。20代の若く、割とハンサムな兄弟だ。

トウの一族の他の家族からは当時ソガという男が出席していた。このヒトもハルミに求婚したヒトだ。当時はアヅミという妹と出席していたが、今回アヅミは来ず、ソガのみの出席だ。

結局、ここでも誰からも鍵らしき金属は発見されなかった。イルマの顔をそっと盗み見るが、普通に挨拶していた。これからやって来る客の中に自分の父親がいるかもしれないとはどういう気分なんだろうとイオは想像したが、わからなかった。

外は暗くなってきた。ジョンとジョナサンは玄関ホールで客と雑談をしていた。

次に到着した一行はツブの一族だった。まずはトムソンという老人。当時はニーナ、アリサという妹二人とともに出席し、ハルミに求婚。今回もニーナとアリサも出席する。トムソンの孫のユタカが出席する。イオと容姿が似ているのはこのヒトだ。ツブの一族は、一族内の少子高齢化が激しいらしく、現在イルマと同世代かつ本家の血筋の子供がユタカの一人しかおらず、ユタカは将来、家長跡取りとなることが決まっている。

「あっ、ど、どうも……。お、お招きありがとう」

ユタカはイルマを前にしてどもりながら形ばかりの挨拶をすると、すぐにそそくさと去っていった。

ツブの一族の他の家族からは当時、カンダチという男も出席し、ハルミに求婚。今回も来ていた。このヒトは独身だ。

最後に到着したのはジョンとジョナサンの一族である、リンの一族だ。

リンの一族からは当時、ジョンとジョナサンの他に、二人の兄であるジョイが出席し、ハルミに求婚したらしい。双子とジョイはあまり仲が良くなかったらしく、お互いにあまり接点を持たずに生きてきたらしい。今回、ジョイとその息子のカイ、カイの息子のレッドが出席する。

「久しぶりだな、兄貴」

ジョンはジョイに言った。ジョイは腰が曲がっていたが、双子とよく似た橙色をして、鋭い眼光の目をしていた。

「貴様らがまだ俺と同じリンの一族を名乗っていることに吐き気がする。嫌われ者の末娘とはいえ、イチの一族の娘と友達でよかったな。また俺のような上等なヒトと口を利く権利が得られる」

「てめえと話したいなんて思ったことねえよ。それにハルミを馬鹿にすんな」

言い返すジョンを無視して、息子に手で合図し、杖を突きながら会場へ入っていった。息子のカイもジョンとジョナサンをにらみながら去っていった。カイの息子のレッドは恭しくイルマにお辞儀をすると、双子には目もくれず、父の後を追って行った。

「ちっ、孫までむかつくやつだ」

リンの一族の他の家族からは当時、ササメとナダレという男の兄弟が出席し、どちらもハルミに求婚したそうだ。ナダレのほうは最近死亡したために、ササメだけが出席する。

事前にリストしておいた重要な人物はこれくらいだが、パーティーにはもっと多くの良家に関係したヒトが訪れた。すべてのヒトの入場が確認されても、持ち物検査で鍵は見つからなかった。パーティーはついに開幕した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ