表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第二章
90/172

37 依頼

「あっ、もしもし。お電話ありがとうございます。ギモン解消屋です。ご用件をどうぞ!」

ペンの表面を布で磨いて手入れしながら電話番をしていたセトカは慌てて電話を取った。イオ、セトカ、サミダレの三人は諸事情により学園をやめ、王になるためにサミダレの実家である、アメの一族が所有する西ブロックの山奥に拠点を構え、修行をしていた。修行のためには、テストを受けるための道具であるペンのメンテナンスを怠るわけにはいかず、その費用を捻出するために、ギモン解消屋を開業した。

「はい、実績はまだあまりありませんが、教育を受けた現役チャレンジャーが確実で丁寧なお仕事を保証いたします」

ギモン解消の依頼は主に西ブロックのジテルペンという主要都市周辺の地域からが多くを占めていた。楽園の初等教育機関である義務学校に通う幼い子供たちの素朴なギモンを解消する、ガクシャという職業のヒトたちと同様なことをしていた。ガクシャの本業はもっと自由に自分の極めたい分野について知識を深めることであり、ガクシャになると、定期的に王城で試験を受けたり、報酬に関わらず他のヒトのギモンを必ず解いてあげなくてはならないという決まりがあるらしい。ガクシャは有料のギモン解消屋にとっては、同じ土俵で戦うにはだいぶ分の悪い相手だが、短期の家庭教師や、知恵袋、人員が足りないときの協力のような業務も引き受けることで、なんとか町の便利屋のようにして経営している。

「はい、南ブロックですか。大丈夫です。多少、出張料金といいますか、交通費の負担が発生してしまうかもしれませんが。……あ、そうですか、それはどうもありがとうございます」

客は東ブロックからかけてきたようだった。

「調査の協力、という感じでしょうか。はい、問題ありません。では、そのスケジュールですと、最大三人お伺いできますが、いかがでしょう?……え?容姿?ええと、黒髪で青い目が一人、金髪で緑っぽい目が一人、白髪に藍色の目が一人ですが、……それが何かあるんですか?……はい、……はい、そうですか。かしこまりました。では、一人派遣いたします。また追ってご連絡差し上げます」

セトカは首をひねりながら受話器を置いた。部屋のドアが開いて、タオルで顔の汗をぬぐいながらサミダレが入ってきた。もう11月になり、山はかなり寒くなっているのだが、よほどきついトレーニングをしていたのだろう。

「さっき依頼が来たよ。珍しく南ブロックからの依頼だった」

「出張になるな」

「うん。あ、それがね、ちょっと不思議な注文があって。そのヒト、やたらと私たちの容姿を気にしてたんだよね。黒髪がいいって言ってたから、イオに行ってもらうことになりそうだけど」

「容姿を?」

サミダレは少し考えこむようにした。

「南ブロックか。もしかして……」

「南ブロックがどうかしたの?」

「ああ、南ブロックには理科の塔があるだろう。自然と理科が得意なヒトが南ブロックに集まりがちになるんだけど、その理科の知識をまとめて管理、所有している一族ってのがいるんだ。同様に東には数学、北には社会、西には国語の知識を管理する大きな一族がいて、力を持ってるんだ」

「ふうん。アメの一族は西の国語を守る一族ってわけね」

セトカはアメの一族の屋敷の中でたびたび目にする古文や漢文の文書を思い出す。

「いや、違う。俺たちのアメの一族はそこまで力を持っていない。一部の分野の大事なところを任されてはいるけど、国語全体を管理している一族は他にいる。アメの一族はその一族の単なる分家で、立場は低いんだ」

「そうなんだ。その国語全体を管理している一族ってのはなんていうの?」

「国語はツブの一族、数学はリンの一族、理科はイチの一族、社会はトウの一族が力を持ってる。四大良家ともいわれる。歴代の大臣を務めたヒトの半分以上はそういう一族出身が多いかな。で、自分が思ったのは、南ブロック、理科のイチの一族の誰かから依頼が入ったんじゃないかってことだ」

「良家とかいわれてるヒトたちの依頼ってことは少し面倒なものかもしれないね」

「ああ。良家のヒトたちは常に頭のいい人材を求めていると同時に、血筋のプライドが高い傾向がある。だから容姿もこだわるんだ。一族内のDNAを回してるだけじゃ絶対に出てこない髪の色とかもあるからな」

セトカは自分の金色の髪に少し触れる。良家か。今まで接点のない世界だった。こんなに勉強第一の世界でも、特に評価され、高い地位にいるヒトたちがいまだに血筋を大切にしているのか。まあ、私は考えるまでもなく田舎の平民の血だろうな。うん?じゃあ、エンシェのイオっていったい……?

セトカがそこまで考えたとき、ドアが開いてイオが入ってきた。近所を回って依頼を片付けてきたところだろう。セトカは先ほどサミダレに聞いた情報も踏まえつつ、新たな出張依頼についてをイオに連絡した。

「イチの一族か。どんなギモンを吹っ掛けられるかわかんないけど、行ってみるしかないね。僕は南ブロックには行ったことがなかったし、ちょっと楽しみだな。それに、リンの一族は理科の知識をたくさんもってるんだろ?もし仲間になってくれるヒトが見つかれば理科の塔攻略の助けになるかも」

イオは楽天的に言ったが、サミダレは冷静に言った。

「良家と関わりはできるだけもたないほうがいい。いろいろつきあいが面倒だ」

「わかったよ。依頼に集中するさ。良家ってことは、報酬は期待できそうだ」

「イオ、一人で行かせることになっちゃうけど、よろしくね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ