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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第二章
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23 秋

「……オ。おい!イオ!」

耳元で大声を出されてイオは我に返った。見ると、イオは船に乗っていて、楽園の透明で、虹色に反射する外壁がすぐ近くにあった。ギンナルが怪訝そうにイオの顔を覗き込んでいる。

「大丈夫か?お前、出航してからここに着くまで一言もしゃべらず、じっと海ばっか見て動かなかったから」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてた」

「ルリのことか?あきらめろよ。あいつにはニビがいる」

錨を下す作業をしながらエンジが言った。

「そうじゃないけど」

「心配すんなよ。青の街と永遠のお別れってわけじゃない。数年後にまたうまいこと接近するさ」

エンジは手早くもやい綱をかけ、船を桟橋に近づけた。

「夏の間、いろいろありがとう。また、街の人たちによろしく」

「ああ、またな」

桟橋に降り立った二人にエンジは笑顔で手を振った。


「まさか戻ってくるとはな」

門の守衛の男は二人を見て言った。二人に楽園を出る前に書かせた書類を返却し、また新たな書類を作ったりしてから二人はようやく楽園に戻ってきた。

時間にして約一か月ぶりの楽園だが、なんだか変な懐かしさすら覚える。

「それじゃ」

二人は駅で別れた。


イオは中央に戻ってまず、バイの研究所に向かった。サルベージしてきた機械を渡すとバイは満足げに頷いた。

「うむ、少し直せば十分使えそうじゃ」

そしてイオの顔をまじまじと見た。

「お前さん……」

「な、なんですか?」

あまりに遠慮なく顔を近づけて見るので、イオはバイの赤い虹彩まで観察できそうなほどだ。

「日焼けしたな」

「はあ。まあ」

「さて、ここまで材料がそろってきたらわしはすぐにでも組み立てを開始できそうじゃ。まあ期待して待っとれよ」

「ありがとうございます」


「おかえりなさいませ。イオ様」

黒の塔に帰るとBb9が出迎えた。

「すぐにご夕食の準備をいたしますね」

夕食は生姜焼きだ。コピーはイオを一目見て言った。

「日焼けしたな」

「そんなに僕焼けてますか?」

「明度が1下がったくらいかな。全体的にはなんか、表情が変わったような気がして」

「そうですか」

「お前がいない間、何度かカルミアが様子を聞きに来たぞ」

「ええと、カルミアっていうのは」

「セトカの本名だよ。お前が楽園の外に行ったと説明したら驚いていたけど、まあ、いないもんはいないし、追い払ったがな。お前はパーティーの仲間に説明もなしに飛び出していったんだな」

「バイがどうしても昔の機械が必要だと言うので」

コピーはあまり興味がなさそうに鼻を鳴らし、Bb9に一口サイズに切ってもらった生姜焼きを口に入れる。

「とにかく、必要な機械が手に入ったのならいい。そろそろ学園にでも戻れ。王になるにはいろいろすることがあるんだろう?」

イオは学園の先生であるランタンが説明していた楽園のシステムについて思い出す。楽園の王になるためにはまず、国語、数学、理科、社会の四人の大臣と勝負をしなければならない。大臣がそのチャレンジャーの実力を認めればバッジがもらえる。そのバッジを四つ集めると、王への挑戦権が得られる。ただし、大臣への挑戦がいつでも可能なのに対して、王への挑戦は四年に一度しかチャンスがない。そのタイミングに合わせてバッジを計画的に手に入れていないといけないというわけだ。今年は王が死んだので急遽新たな王が少し早めの時期から就任しているが、次の王へのチャレンジが開催されるのは三年後の三月らしい。

「そうですね。明日からは学園に戻ります」


イオ、セトカ、サミダレは学園の食堂で再開を果たした。

「おかえり。頭は冷やせた?もう、無茶な勉強方法はしない?」

「気をつけるよ。夏の間、青の街で過ごして、勉強は必ずしも競争のためだけのものじゃないって気付いた」

イオがそう言うと、セトカは少しほっとしたような表情を見せ、その後、イオの顔をしげしげと眺めた。

「イオ、なんていうか、ちょっと見ないうちに雰囲気変わった?」

「焼けたって言いたいんだろ」

「いや、なんだか、『心』が鍛えられたような感じがする」

サミダレが言った。

「『心・技・体』の心な。だが、自分らもこの夏、特訓した。強くなった」

「私たち、そろそろ大臣に挑戦してもいいんじゃないかと思うんだ」

「奇遇だな。僕も大臣に挑戦したいと思ってたんだ」

三人は顔を見合わせる。

「パーティー、再結成だ!」

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