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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第二章
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6 ギンナルの過去

聞くところによると電話というものは、太古の昔から存在していて、ヒトの声帯が震えたその振動を電気信号に変えて、電線に伝えてもう一方のヒトに届く前にまたその信号は声にもどる。

××はこの電話という機械が嫌いだった。楽園の街を歩いていれば、地上地下問わずに、角を曲がった先に不意に現れるものだから対策のしようがない。くすんだ緑色のそのボックスや、机の上で黒光りしているダイヤル式のものと目が合うと、心底やめてくれと思う。××は電話と出会うたびに責められているように感じた。

××は路地の角に差し掛かる。溜息が出そうになるがこらえ、前を向くと、足がまだ動くうちに速足で角を曲がる。特に大切な用事のない日は特に道に注意しなくてはならない。いつ自分がしっぽを巻いてもと来た道を戻り始めるかわかったものではない。気が付いたら何もできずに家とその近所を往復しただけの日になってしまう。

それはだめだ。と××は思う。俺はたくさんのものを見なくてはならない。冷静に考えて電話なんかにおびえている暇はないのだ。

そこで××は苦笑する。なんて俺はバカだろうと日々思う。俺がこうなったのは、完全に俺のせいなのに。―いや、半分は、あいつのせいか。あいつのせいで俺は、いつまでもこうして呪われている。呪ってくれと思う。

あの日、俺があいつを殺した。



ジリリリリリリリ。

うだるような夏の午後。電話のベルの音が狭い作業場に響いている。

「先輩、電話です」

「悪い、今手が離せない。モルガナ、出てくれ」

××は組み立て始めたばかりの三号玉を置いて受話器を取る。

「もしもし。ハナガサ花火工房です。現在新規ご予約は承っておりません」

女性の声がした。電話に入ってくる雑音から察するに地上の大きな事務所かどこかだろうと××は見当を付けた。

『えっ、あ、ハナガサ。……すみません。間違い電話です。失礼しました』

「はあ。どうも」

電話はすぐに切れた。

「誰だった?」

「さあ。間違い電話でしたよ」

××と先輩はまた作業に戻った。東ブロックの地下、ハナガサ通りに面する小さな花火工房は店長と先輩、それとバイトの××の三人しか従業員がいない。××はそこでは自らをモルガナと名乗っていた。夏の終わりには地下の各地で花火大会が開催されるため、注文が立て込んでいた。そこに店長が腰を悪くしたために、急遽バイトを雇わなくてはならなくなり、××が採用された。

夕方五時ごろ、ようやく作業を中断して工房が閉まり、××はふらりと地下の町に出た。露天商を冷やかしつつ適当な路地に入る。しばらく歩いていると、よう、と上から声がして振り仰ぐと、見慣れた顔があった。

古びたビルの屋上にいたそいつが指で登ってこいと合図するので、だれもいなさそうだったが、とりあえず形だけのあいさつを述べてからビルに入って階段を上った。

「一日ここにいたのか、ユメクイ」

ユメクイと呼ばれた青年は白い髪に紫色の瞳で、長い煙管をくわえていた。青白い顔に瞳だけが怪しげに光り、××を見とめるとすうっと細くなった。

「昨日の夜からさ。君こそ、一日中、その採用されたとかいう花火屋にいたのかい」

××はうなずく。ユメクイが煙草を差し出してきたので一本もらう。

「らしくないな。腰を落ち着けて真っ当な商売をするなんて、とうとう君も丸くなったのかい」

「そういうわけじゃない。これもまた一時的なバイトだよ。夏の忙しい間だけ雇ってもらっただけさ」

「なるほど、正社員じゃないわけだ」

「ああ。そもそも俺を正社員として受け入れたい会社があるか?」

ユメクイはくっくっと喉の奥から出るような笑い声を漏らした。

「さあ、わからないぜ。お前のそのどこまでもノーサイドの性を気に入ってくれるヒトがどこかにいるかもしれない」

「気に入ったとて、俺がそのヒトを気に入らないかも。俺は一か所に長いこといるのが苦手だから」

「奇遇だな。俺もだ」

「お前は俺を雇いたいか?」

「興味深い提案だけれど、お断りするよ。俺は今の煙草屋が気に入っている。俺たちは似たもの同士だ。お互い、一か所に留まることが嫌いで常にふらふらしてる。でもよく出会う。俺たちはきっと、ネコみたいなもんなんだ」

「ネコ?」

「古典に書いてあった。はるか昔、この世にはネコという四足歩行の生物がいて、その生物は壁に自在に登れるし、高いところから飛び降りても怪我をしない。自分の縄張りがあって、その中では昼寝ばかりしている。夜になったら起き出して、おなかが空いたらヒトにもらう。都合がいい時だけヒトに媚びて、あとは自由気まま。誰にも縛られないし、誰のことも縛らない」

「飛び降りが得意なこと以外は、俺たちそのものだな」

ユメクイがうなずく。ユメクイは煙管を指で軽く叩くようにして吸い殻をコンクリートに捨てる。

「じゃあそろそろお開きといこうじゃないか」

「明日もここにいるのか?」

「暇ならいるし、暇じゃなければいない。こう見えても俺は俺のことがかわいいんだ。俺の脳みそが俺にこれをしたいと言えば、従順な脳の奴隷である俺の身体がそれをかなえてやるわけだ」

「煙草、一ダースほど売ってくれ」

ユメクイは箱に何種類か色の違う煙草を詰めると××に手渡した。

それじゃあ、と言って二人は別れた。特別な挨拶も何もない。花火工房への道をたどりながら、あいつとはつくづく生産的な会話をしないなあと××は思った。

途中に居酒屋があって、若いエラーズたちが酒を酌み交わしていたので、そこに混ざった。薄っぺらい会話を安酒で盛り上げて夏の夜がゆるゆると更けていった。


「え、謝りに来たい?うちに?」

××は受話器を持ったままちらりと先輩のほうに視線を送った。先輩は口パクでどうした、と聞いた。××は口パクで昨日の人です、と答える。先輩は首を横に振る。

「いや、いらないです。間違い電話の一本でお詫びなんかいりません」

昨日電話をかけてきた人と同じ人だった。間違い電話をかけてしまったのでお詫びのために伺いますという連絡だった。××は断るが、女性は食い下がった。

『どうか、菓子折りだけでもいただいてくれませんか。ご迷惑であればお店の前に置かせていただいてすぐに立ち去りますから』

「結構です。こっちはなかなかの繁忙期ですので。……地下の辺鄙なところにありますし、ご足労いただくのは申し訳ない」

『そこをなんとか。これを受け取ってもらえなかったら、私、クビになってしまいます。ご迷惑をおかけした上にさらに人助けをしてほしいなんてわがままがすぎることは重々承知でございます。そちらのほうにまだいくつか謝り先がございますので、御社のみに行くわけではございませんし……』

今にも泣きそうな声で訴えるので、先輩と目くばせする。

「そういうことなら、いただきます。気を付けていらしてください」

相手は感極まってありがとうございますと大きな声で叫ぶのでみなまで聞かずに受話器を置いた。

「お前が相手しろよ」

先輩が言い、××は黙ってうなずいた。


昼下がりに工房を訪れたのはスーツを着た、というかスーツに着られているような印象の若い女性だった。歳は××と同じくらいだろうか。先輩が作業中なので女性を中に入れることはせずに、××が外に出た。

「こんにちは。中央人材発掘派遣会社の東支店から参りました、アスターと申します」

聞くだけで噛みそうな社名だと思った。慣れない手つきで名刺を差し出される。もちろん、社会的に正しい受け取り方など知るはずもないので、さっと受け取ると、ろくに内容も見ずに作業着のポケットに入れた。

「モルガナです」

握手をする。思ったよりしっかりした握力をもって手を握られたので、彼女のきれいな手が火薬やすすで汚れていないか心配だった。

「こちら、先日のお詫びでございます。どうぞ社員の皆さまでお召し上がりになってください。申し訳ありませんでした」

ずいぶんとお役所な仕事だ、と××は思った。それが正しい社会人だったとしても、奇妙だと思った。あまりにマニュアルどおりの謝罪、手続き、システムに忠実にのっとった対応。九十度に腰を折り、かしこまった彼女の頭を見ながら、それを滑稽だとさえ思った。

「これから、どこへ行くんですか」

「えっ」

マニュアルにのっていないことを聞かれた彼女ははじかれたかのように顔を上げた。初めて目が合って、彼女の目が黒ではなく、茶色ということに気が付いた。

「もう三件ほど、謝りに行くところがございます」

「なんの謝罪?」

「一件はお送りした書面の誤字について、もう二件は間違い電話でございます」

彼女はスーツのポケットからメモ帳を取り出して、真面目な顔でそう言った。××は思わずふきだした。

「馬鹿らしい」

「これが私の仕事です」

唇をやや突き出すようにして不満げに彼女は自らを弁護した。それがまた、××にはおかしかった。

「ちょっと歩こうぜ」

ひとしきり笑った後、××はそう言った。彼女は少し迷ったあと、うなずいた。それも××にはおかしかったのだが、抑え、普段散歩するような道へ誘った。


「あなたは仕事はいいのですか?」

「ああ。どうせ俺はバイトだから。言われたことさえきちんとしていれば、誰も俺を縛らないよ」

「そうですか」

「仕事は楽しい?」

案外素直に彼女は首を横に振った。

「ぜんぜんですよ。職場はAIがのさばっているし、お局様のような上司は地下住民の私をどうにかしてやめさせようとしてきますし。……あ、すみません。愚痴なんて」

「いいさ。どんどんしゃべってよ。興味があったからこうしてお互いに仕事を抜け出して歩いているんじゃないか」

「私、エラーズではないんですけれど、地下に住んでいるんです。地上に住めるだけのお金もガクもないから。でも、私の子供には、地上を堂々と歩けるだけのお金を残したいなって、思ったんです。私みたいな地下住民を雇ってくれる会社なんてあんまりないんですが、何かの力が働いて、今の会社に採用されたんです。奇跡みたいですよね。この奇跡を思うだけで、幸せな気になるんです。仕事は正直嫌ですけど、幸せだなあって思えば、また出勤できるんです」

「ふうん」

××は内心彼女をかわいそうなヒトだ、と思った。本当はいやなことなのに、そこに幸せを見出して続けるなんて、自分で考えるのを放棄して、思考回路を自分自身で洗脳しているだけだ。幸せを勘違いしている。

「それで、その君が守りたい子供ってのは今どうしているの」

「え、まだいませんけど?」

「……すごいな」

「何が?」

「先を見据える想像力と、楽観的な行動力」

「でも、いたらいいな、その子が私より幸せだったらいいなって、思いません?」

「すごいよ」


「モルガナくんは不思議だね。モルガナくんには誰にも話せなかったこともするする言っちゃうんだもの。きっと情報屋さんとかに向いてるよ」

「いいかもな。花火工房を辞めたら考えてみるか」

いつの間にか日が暮れて二人はおでんの屋台に来ていた。楽園には夏冬問わず、どこにでもおでん屋がある。ユメクイは昔はおでんとは冬の風物詩であったので、夏におでんとは無風流だといって嫌うが、××自身、おでんは好きなので一年中食べられるならありがたいことだと思う。

アスターはもう、今日の謝罪のことはどうでもよくなったようだった。××もどうでもいいことだと思った。どうせ行っても行かなくても同じだということは彼女も当然気付いているのだ。

帰り際にアスターは××に渡し損ねた菓子折りの入った紙袋を渡した。

「おいしいから君が食べてよ」

「それでいい。いただくよ」

「この夏中はあの店にいるの?」

「さあ。俺はネコだから、他に行きたい場所があったらそこへ向かうよ。暇ならずっといるし、退屈なら去る」

アスターは笑った。

「自分が作った花火は見ないの」

「暇なら見るさ」


「やあこんばんは」

××とアスターはたびたび会うようになった。アスターが謝罪回りに行っていたのは最初に会った日だけで、あとの日は会社で仕事をした後、帰り道に工房に寄って、仕事の終わった××と夕食を食べて帰るのが常だった。

「……それで、AIの波はすぐそこまで来ているって話か」

「うん。事務ロボットのペパロニ君が導入されてから、私たち事務員の仕事はめっきり少なくなって、書類作成なんかはもうやらなくていいから、ヒトにしかできないことを探さなくちゃならなくなった。挨拶とか、謝罪とか、説得。でもそのうち、AIがいろいろ覚えて、私たちはもう会社からいらなくなってしまうんじゃないかな」

「まるでロボットに俺らヒトが使役されているみたいだ」

「まだ大丈夫だと思いながらやるしかないねぇ」

アスターは笑う。××は自分の頭を押さえる。

「危機感が感じられない」

「憂いたってしょうがないじゃない。人生笑ってこうよ」

「その考え方は嫌いじゃない」

××は煙草に火をつける。

「俺にもっとガクがあったなら、面白い話ができたのにな。いつも俺は聞き役だ」

「そうだね。そうかもしれない。でも、もし君にガクがあったなら、今の君のようじゃなかったと思うな。なんだろう、もっと、――ものの価値の見方が根本的に違っていたと思う。私は、今の君の考え方が好きだよ」

「盲目的で?」

「ううん。眼が曇っていないような気がするから」

「わからないよ。俺はかなり擦れた考え方をすると思うぜ。ひねくれた価値観しか持ち合わせていないし」

「色はついてるよ。でも、曇ってないってこと」

わからなかった。煙草の煙が脳を満たし、夢か現かも××にはわからない。昔、酔生夢死という言葉があったらしい。願わくば、酔生したいものだと思う。××のポケットから煙草の箱が抜き取られ、目の前の彼女がその中の一本を咥える。煙草の先端同士はゆっくりと近づいて火を分け合った。

煙草がすっかり燃え尽きて、煙も薄くなったころ、××は立ち上がった。

「特等席を教えてやろうか」

「え、なんの?」

「決まってる。明日の花火だよ」

「あっ」

アスターは何か言いかけたが、××はその手をつかんで速足で路地を抜けていった。廃ビルに入って階段を上り、さび付いたドアを開けると、殺風景な屋上に出た。××はフェンスまで歩いて行って眼下を指さす。

「俺は明日、向こうの広場で花火を打ち上げる。ここで見ていてよ。最後の玉に火をつけたら、俺もここに向かうから」

××のバイトは花火大会で最後の玉に火をつけたところで終了ということになっていた。

「モルガナくん、あの、」

「大丈夫、間に合うさ。最後の一発は俺の先輩が作った。間違いなく、美しい花火だよ」

「待って。話をしよう」

「きっと来てくれよ。ああ、時間は明日の、何時だったかな。八時過ぎだったと思う」

アスターは唇を噛んだ。

「フェンスはあるけど、大きい玉は、この辺から見ていればかぶらずに見えるはず。……んと、どうした?」

アスターは笑って首を振った。

「なんでもないよ。その、ありがとう」


ある意味、俺の目はそのとき、曇っていたんだ。盲目だ。ネコが明日を望むと、未来の約束をすると、どんなに不幸か、どんなにみじめか、俺はわかっていなかったんだな。


花火ってのは下から見てもちゃんと丸いんだなあ、と××は思った。アスターに紹介した廃ビルは広場からでも見えたが、暗闇の中の人影までは視認できなかった。

ライターで導火線に火をつけていき、花火はひとつひとつ順調に打ちあがっていく。

ポケットから何かが落ちた。煙草の箱だった。残りは少ないはずなのに、ひしゃげた厚紙の箱は妙に膨らんでいた。

中身は手紙だった。手が止まる。点灯の作業をする先輩が何やら怒鳴りつけてくるのが見えるが、破裂音で耳がいかれるのを防ぐためにお互いに耳栓をつけているので、その叫びが××に通じることはなかった。

『モルガナ様へ。私、結婚することになりました。あなたには伝えるべきだと思って。でも、言えなかったので手紙をかきました。あなたには感謝しています。感謝とお別れを、いや、今はなにか、世間話でもいいから、あなたと話したいです。明日(花火大会の日)はもう、私はあなたと会うことができません。あなたはバイトをやめるし、あなたの住所も、電話番号もしりません。電話をください。一本でいいから、待っています。アスター』

「は……?」

なんで、俺に言うんだ。第一、電話なんか俺が持ってるわけがないだろう。勝手じゃないか。俺は、君のことが――。

視界が揺れて一回転する。殴られたのだとわかる。花火の光がかすむ視界でぼやけて引き延ばしたかのように伸びる。先輩だった。先輩は××のライターを拾い上げると最後の玉の導火線に着火した。ああ、もうフィナーレか。

先輩は着火が終わった後も××の上に乗って殴りつけた。ひどく怒っているようだった。

「知るかよ!」

××は手紙を握りつぶし、そのこぶしの勢いのまま先輩を殴り飛ばした。××はやせ型のほっそりした、お世辞にもいい体とは言えない体格だったが、幸いと言ってよいのか、先輩は足が一本しかなかったので、簡単に××の上から吹き飛んだ。

「知るか!知るか!知るか!」

××は広場から逃げ出した。廃ビルに走った。

屋上には誰もいなかった。大輪の花が地下の夜空を彩った。


そこからの半年、彼女が残していった名刺はたびたび俺をかき乱した。記された電話番号と、街のボックスが俺を責めた。

俺はそのたびに自分に言い訳をした。俺が電話をかける筋合いはない。だって俺はネコだから。俺が他人に責任を持てないこと、約束なんかできないような男だってこと、そんなの最初から言ってたじゃんか。ただ、数日いっしょに過ごしただけの友達にそんなの期待するほうがどうかしている。君は俺の名前も知らないんだぜ。また放浪暮らしに戻った俺にはそんな電話にかけられるほどの金はないし。第一、なんて言って話し始めたらいいんだ。もう、今更特に話したいことなんかない。

そんな風に自分に言い聞かせていたから、彼女の訃報を聞いたときは愕然としたよ。

冬の朝方に、ルリノテカンのノーマルズの富豪の屋敷の窓から飛び降りたんだってさ。こんなときなのに俺は、願わくば花のもとにて春死なん、という古典を思い出す。彼女は春を待つこともできずに死んだ。

――電話を、かければよかったと思った。

猛烈な後悔が俺を襲った。

どうしてかけなかった?こんな俺に電話をかけてほしいと頼むほど、彼女は追い詰められていたのに。手紙を無視されたとき、どんなに絶望しただろう?きっと、この結婚は望んだものじゃなかったんだ。どうして今までそのことを考えなかった?最後に、無我夢中で、藁にも縋る思いで出したあの手紙を、俺は踏みにじったんだ。俺は馬鹿だ。俺は馬鹿だ。俺は馬鹿だ!なんて話せばいいかわからない?難しいことなんかなかったのに。俺が勇気をだして、電話ボックスに入ったなら!やあこんばんは、とそれだけ言えたらよかったのに。どうして、どうして。


呪いは今も消えていない。一生消えないでいてほしいとさえ思う。誰も俺を許してはいけない。俺はこの先、誰とも真に友達になることはないだろう。その日からずっと名刺はポケットに入っているが、そこに書いてある電話番号を、俺は空で言うことができないでいる。

ギンナルは、私だ。

今でも、謝りたいんだ。

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