52 兄弟
『僕はロボットから生まれた!どうすればいいんだ。今までは?これからは?』
集まったガクシャたちもその悲痛な叫びを聞いて、武器に変えていたペンが元の形に戻っていく。とうとうロボットが生命を作り出すようになってしまったのだ。それでは一体、生命とはなんなのであろうか。誰も答えられずにペンを持った手を下した。自分は?家族は?
突然、自分だけの思考だと思っていたものが揺らぐような気がした。
赤い化け物は街を壊していく。
「普通に生きればいい」
ふいに青い閃光が一本、化け物を切り裂いた。
「普通に生きればいいんだよ」
イオは着地すると、化け物に向かって言った。イオのペンは剣になって青白く光っていた。化け物は動きを止めた。
「シグレ!」
サミダレが走り出る。
「にイさん゛?」
サミダレは弓を素早く引き絞って一本放った。化け物は小さくなる。
「恥を知れ!」
サミダレは弟に向かって叫んだ。
「え――」
シグレのギモンは化け物の形を止め、シグレの姿が現れた。兄の弓の前で尻もちをついたような恰好だ。
「誰にも言わずに勝手に山を下りるだと?族長の責任が足りない。そのうえ、ギモンを暴走させて街で暴れる?お前の身勝手な行為でどれだけのヒトを傷つけたと思っている!」
「サ、サミダレ、」
イオは間に入ろうとしたが、セトカに引き留められた。
「兄さんに僕の気持ちはわからない!」
「ああわからない!お前がなぜ俺に相談しなかったのか、さっぱりわからない!」
「……!」
「お前がロボットから生まれたかどうかはどうでもいい。なぜならお前が優秀なのも、お前が未熟なのも、全部お前のせいだからだ。お前にロボットからもらった優秀さはひとつもない!全部お前の修行の成果だ。俺は見ていた。俺は知っている。お前はちゃんと、天才じゃない」
「僕の、弓は……」
「うぬぼれるな。もう一回競べ弓をやれば俺が勝つ。ひねくれるな。まっすぐ生きろ。俺はわかってるから。お前が何者でも、その前に、お前は俺の弟だから」
赤い煙は消えていた。ともに一筋にその道に生きていたからこそ伝わる言葉。
きっと、兄にできることは、これだけだ。もう変えられないことを乗り越えて、前を向かせてやることしかできない、とサミダレは思った。
シグレはゆっくり立ち上がって、周りで見ていたガクシャたちのほうを向いた。そして丁寧に腰を折り、美しい姿勢の礼をした。
僕がどうすべきかはまだわからない。でも、どうすべきでなかったかはわかる。今はひとまず、僕を育ててくれた道の教えを堅実に守っていこう。
『きっと本物。超きれい』
なぜか、ホームレスの老人が手のひらに乗せたダイヤモンドを見せてくる記憶がシグレの頭に浮かんだ。
彼に弓の教えがあったからこうしてギモンを抑え込むことができたが、きっとこのギモンは彼が一生向き合っていかなくてはならないだろう、とイオは思った。
「なぜあそこで動けたの?」
セトカがイオに小さい声で聞いた。
「たぶん、あそこで動けなきゃ僕は、天才を認めてしまうことになってた」
「?」
「生まれで人は変わらない。あの場で一番、天才を信じていないのは、僕だったんだよ」
イオはシグレの美しい礼から目を離さずに自分に言い聞かせるように言った。