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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
172/172

59 2132年8月

早朝。東京郊外の閑静なベッドタウンに青い閃光とともに隕石が落ちた。

轟音とともに部屋の窓ガラスがびりびりと震え、衝撃で棚の中の物がいくつか床に落ちる。伊尾鈴也はカーテンを細く開けて、マンションのすぐ下の国道の様子を見た。

「な、なんだあれ」

マンションの前に巨大なクレーターができていて、そこにまだ煙を上げている物体がある。どこか見覚えのあるフォルムだった。セダンである。

「まさかあれは、タイムマシン……!?」

伊尾は部屋を飛び出した。そんなことがあるはずない、と混乱した頭でぐるぐると考えながら階段を3段飛ばしで駆け下りる。心臓がおかしくなりそうなほど早鐘を打っていた。

とうとう階段を下まで降り、対面したそれは、黒焦げになってはいたが、まぎれもなくセダン型のタイムマシンだった。そのタイムマシンは、カプセルの本社の研究施設の44階にあって、今日の昼に伊尾が強奪しようとしていたものに他ならなかった。

助手席のドアがガタガタと揺れた。

「ひ、ひぃっ」

伊尾は尻もちをつく。白い煙とともにドアが開いた。伊尾はその人物の顔に目を疑う。

「じゃあね」

助手席から半身を出した()()は、ピストルを伊尾に向け、ためらいなく撃った。伊尾は眉間に弾を受け、後ろに倒れる。

()()は運転席に座っている二頭身の身体と場所を交代し、セダンのエンジンをかけた。アクセルを踏もうとして自分の足の膝から下が付いていないことに気付く。窓を開けると、通行人のおばさんが目を丸くして口を開けている。

「すいません、レッカーを呼んでくれませんか?」


「俺が信じると思ってその話してるのか確認していいか?」

雲一つない快晴、気温は40度の中、車いすに乗った男と、長い白髪を後ろで束ねた男が車のスクラップを見ていた。

「信じなくてもいいよ。なかったことになったからね」

伊尾は退屈な時間に何も考えないで発する雑談のような調子で言った。

「なんだよそれ」

天原は顔をしかめる。陽炎の向こうでセダンがぺしゃんこに潰されている。

「桜田さんのことはもういいのかよ」

天原はセダンをぼうっと見つめたまま聞く。

「うん、もういいんだよ」

伊尾もセダンを見たまま答えた。

「人はさ、忘れる生き物なんだ。どうしようもない性なんだよ。でも、思い出を抱きしめるようにして、忘れたくないと思い、性に抗ってもがくことこそ愛なんじゃないかと今は思うんだ」

「なるほどね」

セダンは他のぺしゃんこにされた車といっしょに積み重ねられ、いったいどれだったのかわからなくなった。

「あの時殴って悪かった。ごめん」

伊尾は言った。天原は少し肩をすくめるようにする。

「そんなことあったか?もう、忘れたよ」



<おわり>

完結しました!本当に長い話でしたが、読んでくださってありがとうございました。

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