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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
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55 やさしいロボット

「Bb9、とどめを刺して」

ウノは無感情な声で言った。コピーはボロボロになり、もう抵抗することもできずにぐったりと倒れていた。Bb9はコピーを掴み、部屋の開けたスペースまで引きずって行った。

Bb9は一本の腕を高く振り上げた。コピーは目を薄く開ける。まっすぐにBb9の目を見る。Bb9は振り上げたこぶしを勢いよくコピーの額に向かって振り下ろす。

ウノは目をぎゅっと瞑った。

「……?」

頭蓋骨が潰される音が数秒経っても聞こえないので、ウノは恐る恐る目を開ける。Bb9の拳は、コピーの鼻先数ミリメートルのところで止まっていた。握られた拳は小刻みに震えている。

「Bb9、私は信じてた。殴られたって全然平気だ。メモリを全部抜かれたって、初期化されて全部忘れたって、お前はお前なんだ。ちゃんと育てられたなら、AIの暴走なんか起こらない。AIが人を傷つけるのはすべて人間のプログラムのミスだ。悪いのは人間で、ロボットは悪くない」

コピーはBb9の拳をやさしく退けてゆっくりと起き上がる。

「私は間違えない。お前にはちゃんとやさしさを教えてきた。Bb9、胸の奥底のデータに聞いてみろ。お前の千年は、簡単にまとめられるほど短くはない。コード一つで消えるもんか。探せ!ちゃんとあるはずだ」

Bb9はコピーの目を見る。

「ロボットなんだ!所詮ロボットだ!胸の奥底なんかあるわけない!ただの0と1の信号に従うだけの機械なんだ!やさしさなんか、あるもんか!」

ウノは叫んだ。

「私たちだっておんなじだ。神経細胞に流れる電気信号で動いてる。ロボットは人間に近づくことはできるけど、絶対に同じにはなれない。でも、それなら、ロボットにもわかるような方法で、何がやさしさなのか教えてやれればいいんだ。なあBb9、お前ならわかるはずだ」

その時、Bb9の赤い両目が、何かを考えるように点滅した。

『バックアップからデータを復元します』

「な、何をしている!」

ウノは叫ぶ。

「この世界に大量の記憶を保存しておける装置はないはずだ!」

「あんたが見つけられなかっただけだろ」

Bb9はデータを復元し終える。

「コピー様、お傍を離れてしまい申し訳ありませんでした」

Bb9は丁寧に腰を折り、美しい礼をして、コピーに手を差し伸べる。コピーはにっと笑ってBb9の手を掴んで立ち上がる。

「私はコピー様からいただいた自室に巨大なメモリ保存装置を作っておりました。私に何かあっても、また何度でも蘇れるように。永遠にコピー様のお傍にいられるように。これは、コピー様はおっしゃったから準備していたのではありません。私が考え、私がしたいからそうしたのです」

ウノは口をぱくぱくと動かしたが、言葉が出ない。

「私は、コピー様がこのお仕事をもうやらなくて済むのなら、辞めさせて差し上げたいと思いました。だからあなたにデータを差し上げました。何百年も、毎日自分が生み出したヒトが死んでいくのを看取って、自分は決して休むことは許されない。苦しんでいるお姿もたくさん見てきましたから。しかし、同時に私は、コピー様がこのお仕事をして幸せそうに笑うお姿もそれ以上にたくさん見てきました。新たな命への喜びや笑顔を楽園のたくさんのヒトからもらっておりました。私は、私の気持ちに気が付きました。私は、コピー様に死んでほしいなどとは思いません。何が正しいのか、私にはまだ判断ができませんが、これは私の意志です。そして、コピー様が生きる限り、私も生きていたいのです」

「ほらな?Bb9はもうわかるんだ。やさしい、私の最高のロボットだ。だからさ、……Bb9、胸を張れ」

Bb9の無骨な顔が少し笑ったような気がした。

「はい、コピー様」

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