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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
163/172

50 Ab0

「こんにちは、Ab0。この世界にようこそ」

コピーはロボットの顔を覗き込んだ。数秒待っても反応がないので、コピーはそのロボットの目の前で手をぶんぶんと振ってみる。全体的に黒いボディのヒト型ロボットだ。まだ外のカバーをつけておらず、骨組みや、コードやチューブがむき出しの状態になっている。

コピーが首を傾げたとき、赤い目が二つ光り、ロボットは不自然な動き方で跳ね起き、コピーに倒れ掛かって来る。

「うあああ!緊急停止!」

コピーはポケットからリモコンを取り出して慌てて両手で押す。ロボットの動きが止まる。

「見た目を変えたほうがいいな……。これじゃいつか、地獄で会おうぜと言う日も近い」

コピーは動かなくなったロボットの身体を自分の上から退かして這い出た。


「こんにちは、Ab+。この世界にようこそ」

今度はコピーは警察が持っているような防弾の透明な盾を構えてからロボットのスイッチを入れた。前回から少し改良がなされたが、ロボットの見た目はさらに無骨さを増していた。

両目が赤く光ってロボットが、ややぎこちないが、なんとか問題なく立ち上がる。赤く光る、目の位置にあるレンズがコピーを捉える。

「こんにちは、私がお前の主、うわあああ!」

ロボットが突進してきたのでコピーは緊急停止ボタンを押す。


「こんにちは、Bb1。この世界にようこそ」

コピーはヘルメットとサポーター、盾を装備してロボットのスイッチを入れた。ロボットの腕は四本に追加されている。利便性とバランスを追い求めた結果、化け物のような見た目になっている。毎日このロボットと顔を合わせて改良に励んでいるコピーにとってはもはや見慣れた顔で、愛着すらあるが、他の人間が見たら泣いて逃げ出す容姿であることは間違いない。

両目が光ってロボットが驚くほどスムーズに立ち上がる。

「こんにちは、私がお前の主、コピーだ」

赤い両目がコピーを捉える。襲ってはこないようでコピーは胸をなでおろす。

「コピー。承知。よろ」

機械音声がそう言った。コピーは緊急停止ボタンを押す。


「こんにちは、Bb2。この世界にようこそ」

コピーはロボットと向かい合ってスイッチを入れた。ロボットの腕は六本に追加されている。四本でいけたので、もう二本増やしても問題ないという判断だった。

両目が光り、ロボットはスムーズに立ち上がる。

「こんにちは、私がお前の主、コピーだ。お前は私の執事のロボットとして造られた。わかったか?」

コピーはゆっくりと言い聞かせるようにロボットに話しかけた。

「〇×☆※~♡?▯!」

「うん、言語にまだ難があるが、今までで一番いい出来だな」

ロボットは恭しくお辞儀をすると六本の腕でコピーをホールドした。

「▽@$♤%」

「うげっ、苦しい、おい、何するつもりだ!離せ、おい離せって!」

コピーは体中を締め付けられながら緊急停止ボタンをなんとか押した。


「こんにちは、Bb3。この世界にようこそ」

コピーは念のため緊急停止ボタンを手のひらに貼り付け、親指さえ動かせばいつでも停止できるようにして、ロボットのスイッチを入れた。

両目が光り、ロボットはスムーズに立ち上がる。

「こんにちは、はじめまして、ご主人様」

加工されて少し柔らかく、人間らしくなった声でなめらかにロボットはそう言った。

「よし、お前は私の執事ロボットとして造られた。コピー様と呼べ」

「かしこまりました」

「OK。じゃあ質問をする。お前がやるべきことはなんだ?」

「コピー様のご命令を聞くことでございます」

コピーは緊急停止ボタンを押した。息を吐く。



「こんにちは、Bb9。この世界にようこそ」

2年の歳月をかけ、10体ものロボットを造っては壊しを繰り返して、疲れているコピーは、椅子に座ったまま11体目のロボットのスイッチを入れた。

赤い両目が光り、ロボットはスムーズに立ち上がる。辺りを見渡す。

「私がお前の主、コピーだ。お前は私の執事ロボットだ。お前の仕事はなんだ?」

ロボットの両目がコピーを捉える。ロボットは丁寧にお辞儀をして言った。

「コピー様の、間違いを正すことです」

「お前は今、私に向かって何か指摘できることはあるか?」

「不潔です。風呂に入ってください」

コピーは天井を見上げ、両手で頭を押さえた。その口元は少し笑っている。

「……合格だ」


「……そして、そこに広がっていたのは、目の玉が飛び出すほどのお宝の山でした」

コピーはBb9に絵本を読み聞かせていた。

「ちょっと待ってください」

Bb9がコピーの語りを遮る。

「この、目の玉が飛び出すという表現は児童向けの書籍にしては、グロテスクな表現なのではないですか?眼球は視神経とつながっているため、並大抵のことでは飛び出さないはずです。相当高い圧力がかかったとするのならば、この文脈においていったいどこなのでしょうか」

「あのな、Bb9。目の玉が飛び出すっていうのは慣用句なんだよ。本当に飛び出したわけじゃなくて、すごく驚いたって意味だ」

「人間が驚いたことで目の玉が飛び出した事例があるのですか?」

「知らないよ。たぶんないよ」

「ならばなぜそんな言葉を使うようになったのですか?そもそも、なぜ慣用句というものが生まれたのでしょう」

矢継ぎ早に質問を浴びせかけられてコピーは目を白黒させる。

「うう、お前を教えるのはなかなか骨が折れるな」

「骨!?どこの骨が折れたのですか。骨が突然折れる原因はさまざまですが、コピー様の食生活ですと、圧倒的にカルシウム不足が見受けられますので、骨粗しょう症の疑いがあります。骨粗しょう症の場合、治療法は……」

「ああ!いいから!大丈夫。骨は折れてない。骨が折れるも慣用句の一つだよ。一緒に辞書を見に行こう」

コピーがBb9を掴んで辞書を取りに行く間もBb9はあふれ出す疑問を垂れ流し続けていた。

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