37 カド
そのメールはなんの前触れもなく突然やってきた。花城一日が、届いたメールを一件ずつ確認するマメな性格でなかったら、迷惑メールフォルダに送られて、永遠に開封されない可能性すらあった。
「『あなたはギフテッドです。その才能を存分に生かすお手伝いをさせていただきたいです』……?なにこれ」
差出人は『カプセル』という秘密組織かららしかった。調べてみると、どうやら日本政府が四年後に大きなプロジェクトを進めるために作った、最先端科学技術の実験設備を備えた組織ということだった。計画には大量の天才が必要らしく、メンバーをスカウトしているという。
「何かの間違いかな。私みたいな女児にこんな大層な招待状が来るわけないもんね」
一日はそのメールを迷惑メールフォルダに振り分けた。
「ゲーム制作の続きやろっと」
一日はまるで中世のヨーロッパ貴族の屋敷にありそうなデザインの椅子に深く座り直す。一日の部屋は、畳敷きだったが、奇妙なオブジェや、マネキン、天井にはシャンデリアじみた飾りの多い室内灯が取り付けられている。インテリアの趣味は常軌を逸していると言って過言ではないだろう。
一日は7歳で大学に飛び級入学し、3年間、東京で日本一の工学技術の教育を受けた。現在10歳で、博士号を取得したが、卓越したプログラミングスキルを持て余して趣味で始めたゲーム制作にすっかりハマってしまい、大学を辞めた。現在は長野の家に籠って日夜パソコンをいじっている。
「うーん、ゲーム制作も面白かったけど、そろそろ完成しちゃいそうだな……。次は何しよ」
ほとんど出来上がっているゲームのデバックをしながら一日はつぶやいた。大学に戻ってもいいが、既にもう学びたいことは学び終えているし、自分より知識のない大人たちと話すのは体力を使うと最近気づいてきたので、あまり気乗りがしなかった。
「そうだ、カプセル、入ってみようかな?」
一日は、まるで年相応の小学生が新しく始めるゲームを、おもちゃ屋で選ぶかのようなテンションでつぶやく。一日にとっては、世界すべてが遊びのフィールドのようなものであった。カプセルにはあらゆる分野の天才がいるだろうし、日本一の研究施設もある。それに、研究費もプレゼントしてくれるというのだから魅力的だった。今、制作中のゲームを市場に出しさえすればかなりの額の利益が見込めることはわかっていたが、お金があっても、自分が興味を持てることを見つけるのは難しい。
一日はその日のうちに迷惑メールフォルダからメールをまた引っ張り出し、返信した。
一日はカプセルにあっさりと採用された。メールが届いてから数週間もしないうちに、東京にある本社の研究施設に出入りするIDカード、施設内の自分専用の研究スペース、研究や他のメンバーと交流するためのアカウントなどの環境が整ってしまった。いくらでも上限なしに金を引き出せる銀行口座や、ご丁寧に東京の本社まで出てくるために必要な新幹線の定期券までついている。
『何か不明点がございましたら何なりとおっしゃってください』
オンラインチャットで、カプセルの職員が言った。立場は一日のマネージャーということになるのだろうか。マネージャーの画面はマネージャーとだけ書いてあって顔は見えない。まるで機械みたいな抑揚のない声で話す。
「毎日私がどんなことをして過ごしたのかとか、報告しなくていいの?」
『はい、必要ありません。ギフテッドの方の中には、報告連絡相談や、コミュニケーションというものが極端に苦手な方もおりまして、そんなことに煩わせるくらいであれば研究に集中していただきたいという方針です』
「だから専属のマネージャーがいるんだね。納得した。で、四年後に始動するとかいう計画についてまだ聞いてないんだけど、始動するまでの四年間は私は何をしていればいいのかな?仮入社ってかんじ?」
『計画は存在しません』
「はい?」
『ですから、日本の未来をよりよく築くような計画というものはそもそもまだ立案に至っていないのです。立案できていたとしたら、どうして我々がギフテッドを集める必要がありましょう。我々、ギフテッドではない者が立案した計画をギフテッドを使って実行するのはいささか頭が悪い。この四年間で、あなた方ギフテッドの皆さんに立案をしてもらいたいのです。そして四年後から本格的に始動します。四年間は、花城さんの言う通り、ある意味仮入社とも言えます。カプセルのやり方が合わないという方はこの期間に辞めることもできますし、我々管理者の方でスカウトをするために四年ほど必要という見込みでもあるためです』
「なるほどね。日本の未来をよりよく築くっていうのは、けっこうぼんやりした目標に思えるけど、具体的なことは決まっているの?例えば、今やってる戦争を終わらせるとか?」
『今後、第一期カプセルメンバーを集めたオンラインチャットの交流会があり、そこでも説明されるかと思いますが、今簡単に説明させていただくと、それは『ムーンショット計画』の達成です』
「ああ、あれね」
一日は数十年前日本政府が打ち出した7つの未来への目標のことを思い出す。『身体、環境、時間の制約から解放された社会』の実現を目指した目標で、ムーンショットは、人類が月に向かってロケットを発射させたという、とても難しいが、実現すれば多くの発展が見込めるという意味だそうだ。2100年までに、掲げられた7つの項目を達成することが目標だったが、現在は西暦2122年。計画はある程度進んでいたが、まったく進んでいない項目も多々あった。7つの項目は、①仮想空間における人類アバター化計画の推進 ②高速ネットワークの普及 ③AIの普及 ④地球環境の改善 ⑤異星への移住計画の推進 ⑥時間移動技術の発展 ⑦人類の創造力の向上、人材育成 である。
「じゃあ、カプセルの存在は『⑦人類の創造力の向上、人材育成』を達成するためなんだね。じゃあ、私たちはよりよい日本の未来のために①から⑥を達成できるようなプランをあと四年で考えるのが仕事ってわけか」
『その通りです』
「他のメンバーの人と会うのが楽しみだな」
『日程が定まり次第、迅速にご連絡いたします』
第一期カプセルメンバーの交流会はそれからほどなくして開催された。カプセルのメンバーの交流のためだけに造られた仮想空間で、メンバーはそれぞれ自分のアバターを操ることでコミュニケーションを取る。この仮想空間を『カプセルワールド』、縮めて『カド』と呼ぶらしい。
「最近の仮想空間への没入感はホントにすごいよね」
一日はカプセル本社から送られてきたトラッキングスーツに体を押し込みながらつぶやく。このセンサーのたくさんついたスーツを着ると、一日の一挙一踏足が機械によって認識され、それがリアルタイムでカドにいるアバターの動きとして反映される。ゴーグルをつければ準備は完了だ。
一日はカドにログインした。目の前に真っ白な空間が広がる。まるで、新品のノートの上に放り出された一匹の虫にでもなったかのような気がした。辺りを見渡すと、何人かのアバターがいるのが見えた。交流会の開始にはまだ時間があり、ログインしていない人もいる。一日は足を動かし、すでにログインしているうちの一人に近づいて話しかけてみることにした。
「こんにちは」
一日が話しかけると、その人物は振り返る。アバターの頭上にAmaharaと書いてあるのが見える。
「こんにちは、ハナシロさん」
二人は握手をする。一日のスーツの手の部分の内側が刺激され、本当に手を握ったかのような感覚になる。
「初めまして、アマハラと言います。このカドっていう仮想空間、すごいですよね。まるであなたが本当に目の前にいるみたいだ。もしこんなリアルなゲームがあったりしたら現実と区別がつかなくなってしまう気がします」
「そうだね」
一日はふと、思いついたことがあったのでゴーグルを外して、パソコンのキーボードをたたいた。すると、アバター以外何もなかった空間に突然、丸椅子が二脚出現した。アマハラは感心したように拍手をした。
「仮想空間上のプログラムを変えればこの空間は自由に動かせる。広大なスケッチブックをもらったようなものだね」
一日は言った。
「工学を専門に?」
「いちおう今のところは」
二人は向かい合って出現したばかりの椅子に腰かける。スーツの尻の部分に感触がある。はたから見たときの一日の姿勢は空気椅子そのものなのであろうが、一日にとってみれば、スーツが硬化しているために全くつらくなく、むしろ快適だった。アマハラのアバターの動きがピタリと止まって、少しの間頭上に読み込みマークがぐるぐるしたかと思うと、アマハラの座っている椅子が高性能のクッション付きのゲーミングチェアに変わった。
「なるほど。僕にもできた」
アマハラは一日が先ほどやったことをどうやら自分で再現してみたらしかった。一日は自分が自然と笑顔になっているのを自覚する。
「アマハラはどうしてカプセルに入ろうと思ったの?したい研究とかは決まっているの?」
一日はさっそく尋ねてみた。アマハラは首を振る。
「いや。ただ、スカウトが突然来て、それで、面白そうだったから入ることにした。個人的にムーンショット計画について考えてみた時期もあったけど、特に集中してのめり込んだ分野とかは無い」
「みんなの話を聞いてみて決めようって感じ?」
「そうだね。この組織にはたくさんのギフテッドが集められているんだろ。だから、俺よりもすごい人の話を聞いて、できるならその人の掲げる計画に協力させてもらいたい。もちろん、ハナシロさん、あなたの頭の中にも、とても興味がある」
「ハナシロでいいよ。私も似たようなことを期待してここに来たんだ。今、趣味でゲーム制作をしているんだけど、それが終わったら面白いことがなくなっちゃって困るだろうから、新しい玩具を探しに来た」
アマハラは少し笑う。
「玩具、か。面白い。この組織が与えてくれる玩具はきっと、君の退屈も紛らわすだろうし、おまけの付属品として日本のよりよい未来もついてくるわけだ」
「私ならその玩具の最高の遊び方ができると思うから」
「それじゃ、今日はゆっくり玩具を選ぶとしようか」
二人がどちらからともなしに立ち上がったとき、放送が入った。
『これより、第一期カプセルメンバーの交流会を始めます。会議室というルームに移動してください』
目の前に選択肢が現れる。一日はルームに移動する、の選択肢を選ぶ。
すぐに視界が切り替わった。大学の教室のような、白く、机と椅子だけがならぶ部屋だ。机と椅子は円を描くように並べられ、部屋の壁はホワイトボードになっていた。席は12席あり、一日が席に着いて見渡すと、一日の席の右隣を除いて11席が埋まっていた。
2分ほど沈黙が続いた。やがて、11人が、12人目がまだ来なさそうであり、それを待つのは時間の無駄だと認識を一致させ、また、この場を取り仕切る進行役もどうやら用意されていないということを察した。
「すみません、まだ全員集まってないみたいですけど、自己紹介でもしながら先に始めていませんか?」
口火を切ったのはアマハラだった。アバターはさわやかで人当りの良い青年のような印象だったし、声の調子や切り出し方も、いかに普段リーダーシップを取り慣れているかをうかがわせるものだったので、皆同意を示した。
「じゃあ、とりあえず私から始めさせていただきますね。時計回りに行きましょう。私はアマハラといいます。17歳です。特に専門的に詳しい分野はないのですが、何度か個人的研究が評価されたことはあります。物を新しく発明したり創り上げたりするのが好きなので、ぜひ、積極的にプロジェクトに関わらせていただけたら嬉しいな、と思います。よろしくお願いします」
アマハラはスマートに自己紹介を終える。お互いにどんな人なのか全く情報が無い状態でも全くひるんだりすることなく堂々として、しかし変に肩の力を入れない態度だった。左隣の人に促すようにアイコンタクトを取る。場の流れを作るのが上手い。
「あ、私はタシロと申します。42歳、大学で教鞭を取ったりしております。専門は主に新素材についてで、最近は気体の新素材についても研究しています。ぜひ、お役に立てれば、と思います。よろしくお願いします」
こんな具合で自己紹介はどんどん進んでいった。年齢は11人バラバラで、10歳の一日が最年少、75歳のヤマウチというおじいさんが最高齢だった。ヤマウチは高齢だが、知能が衰えることもなく、ほんの数十秒の自己紹介だけで、その話しぶりからギフテッドだと判断するのに十分だった。
一日の番になる。
「ハナシロです。10歳で、最近までは大学で工学を勉強していました。プログラミングなら得意です。今は趣味でゲームを作ったりしてます。よろしくおね」
「すいません、遅れました」
誰かがルームにログインした。皆一斉にそちらを見る。12人目のメンバーだった。一日とそのメンバーは気まずそうに視線を合わせた。そのメンバーは席に着いた。
「あ、次の人どうぞ」
一日が促すと、一日の左隣の人が自己紹介をし、最後に遅れてきたメンバーが自己紹介した。
「あ、僕、僕はフシミです。あ、あのー、生命についての分野を、ね、あー」
フシミは忙しなく手を動かしたり、しきりに頬を掻いたりしていた。
「あ、うん。そうです。あの、遅れてすいません」
アマハラは全員を見渡した。
「オーケー、自己紹介ありがとうございました。全員そろったことだし、次に進みましょうか?」
アマハラは立ち上がってホワイトボードマーカーを取る。そして、ホワイトボードにムーンショット計画の七つの目標を一つ一つの間の余白をたっぷりと取って書いた。
「私たちの仕事はまず、四年後に始めるプロジェクトの計画をすることですね。まず、みんなで各目標に対してどれくらい達成できてるのか、何がまだ足りないのかの認識を一致させるところから始めませんか?ブレインストーミングをしましょう」
一日はアマハラがホワイトボードに何か書き始めた時点で、アマハラの意図が予想できたので、プログラムを書き、部屋にたくさんのブロック付箋を出現させていた。
「ハナシロさん、ありがとうございます。それでは、思いついたことをどんどん書いて貼っていってください」
一日は数十枚ずつメンバーに付箋を配った。しだいにホワイトボードは色とりどりの付箋で埋まっていった。
「それじゃあ、けっこうアイデアがたくさん出てきたので、ブレインストーミングはこれくらいにして、ひとつひとつ見ていきましょうか」
他のメンバーが書いた付箋を読むと、今まで一日が問題だとも思っていなかった面の発想や、意外な解決法などがあり、驚かせられる。一日も他のメンバーに負けじと付箋をたくさん書こうと頑張ったが、あまり書けなかった。
「①の『仮想空間における人類アバター化計画の推進』ですけど、メタバースは増えているものの、一般にはまだ普及は出来ていないという見解が多いみたいですね。②の『高速ネットワークの普及』はずいぶん進んでいますし、ヤマウチさんも設立に関わったという東京の電波塔もできましたね。電波塔から発されるこれまでにないほどの電波によって起こるさまざまな問題についての意見がたくさんあります。③の『AIの普及』、これも、専門にされているカワキタさんとハスダさんの意見が多いですね。人間とAIの境目、権利についての言及が多いです。④の『地球環境の改善』。これは全員がまんべんなく意見を書いたようです。戦争が終わらない限り無理、という意見がありますが、アイダさんこれは?」
「私は海について、最近は特に海洋汚染について取り組んでいるんですが、もう地球の汚さと生態系の崩壊度は行くところまで行っているという実感です。新たに新しい地球を創造するほうが、今の海をきれいにするよりも手間が少ないと思います」
「なるほど。⑤の『異星への移住計画の推進』ですが、不可能ではないが、コスパが悪すぎるとの意見が多いですね。ユキムラさん、何かありますか?」
「はい。アイダさんの言葉と重なりますが、地球の陸地、空気の汚染もやはりまずい状態です。しかし、現在、都合よく移住できそうな星が無いんですよね。十分な研究の結果としての、存在しない、ですよ。だから、地球にこう、シェルターみたいな新しいきれいな区域を設けて、それ以外はすっぱり切り捨てて精一杯汚すとかのほうが、なんならいい暮らしができる気もしてますよ」
「斬新な発想ですね。確かに、すべてをきれいにすることを目指すのは現実的ではないのかもしれません。⑥の『時間移動技術の発展』ですが、ヨコイさんが専門としてらっしゃいますね。最近、ラットの時間移動が成功し、技術が発展しているそうです。⑦の『人類の創造力の向上、人材育成』ですが、こちらは、カプセルの活動そのものがこの目標を達成する手段であり、私たちのプロジェクト成功がそのまま目標達成につながる、との意見が多いです」
アマハラはそれぞれの目標の現状と問題を上手くまとめた。
「で、私たちはこれをひとつひとつ、最終的にはすべて解決するような計画を立案しなくてはなりません。立案について何か意見はありますか?」
ヤマウチが手を挙げた。アマハラは頷いて発言を促す。
「ここには12人のメンバーがいますよね。そして、目標は七つ。各目標に一人か二人ずつ専門的に研究している者を担当として割り振って、それぞれでその目標を達するための計画を立案してもらうというのはどうでしょう。それを持ちよると七つの計画になりますよね。それを突き合せて、統合できるものは統合し、他の観点から見て変えたほうがいい方向は正す、そういう感じはどうでしょうか」
皆、頷いて同意を示した。
「特に反対意見もないようなので、ひとまず担当を割り振ってみましょうか。一つのところに人数が集中しすぎてもいけないので、専門家としての自信があまりなくても、なるべく人数バランスを見て、少しでも興味のある目標を希望していただけるとありがたいです。別の分野を専門とする人の意見というのは、計画に思いがけない効果をもたらしたりするものだと思います」
メンバーたちはそれぞれ自分が担当したい目標を言っていった。割り振りは以下のようになった。
①フシミ、②ヤマウチ、③カワウチ、ハスダ、④タシロ、⑤アイダ、ユキムラ、⑥ヨコイ、⑦ホシノ、アメカワ
一日は迷っていた。皆が書いたブレインストーミングの付箋を見ていると、自分の手で解決してみたい問題がたくさんあり、どれもとても魅力的に思えて決められなかった。付箋を見ながら迷っていると、隣に座っていたフシミが声をかけてきた。
「ね、ねえっ、き、君はさ、ゲーム、作ってるんだよね?いっしょにさ、これ、やったら、面白いゲーム、なるんじゃないかな?」
フシミの手は忙しなく動いていたが、目は一日をまっすぐに見ていた。アバター越しなのに、今フシミという人が日本のどこかで子供みたいに目を輝かせているのだろうということはわかった。
一日は頷いた。フシミはぱっと笑顔になる。
「私、①にします」
「わかりました。じゃあ、私以外のメンバーが割り振られましたね。あの、すごく勝手で申し訳ないんですけど、私にはいろんな目標の立案してるところを見て回って進捗の調整とかする役目に回らせてもらってもいいですか?どの目標の立案にも関わってみたい気持ちはあるんですが、私は全体を見る方が得意なので」
アマハラは言った。
「いいですよ。何か一つの目標が気になったらそこにいつでも入ればいいし、ここは俺たち12人だけの仕事場です。得意なことを目いっぱいできる場所であるべきだと思いますしね」
アメカワという、19歳の青年が言った。彼の言葉の端には、ギフテッドとして生きてきたさまざまな苦労がにじんでいるように思えた。ギフテッドは、他の人たちよりも頭の回転が早かったり、物覚えが極端に良かったりするせいで、幼少期に周りの環境になじめないこともよくある。今でこそ日本のギフテッド教育は進んできているが、まだまだな面も多く、高度な勉強がしたいのにさせてもらえないでくすぶっている子や、周りとの違いに孤独感を覚える子もいる。ここに集まっている12人は少なくとも一度はそんな経験をしてきた者ばかりだった。一日は今までに感じたことのない親近感と居心地の良さを感じた。
「それじゃあ、次の交流会は半年後なので、その時また話しましょう。同じ目標を担当になった人同士でルームを作ってもいいですし」
「いや、それどころか、いつもこのルームを解放しとくってのはどうですか。ロビーみたいにするんですよ。来たいときに気軽に来て、たまたま来てる人と話すでも、このホワイトボードに何か書いていくでも、特定の人と待ち合わせる場所にしてもいい」
「あ、それ、いいですね。カプセルの運営の人に私から連絡しておきましょう」
そんなこんなで第一回の交流会は終わった。一日はトラッキングスーツを脱いだ。思ったよりも時間が経っていて、体に疲労がたまっているのに気付いた。