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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
148/172

35 井戸

イオは崩れた階段を下りて行った。

「ローレン!ローレン!どこだ?返事をしてくれ!」

イオの足元が崩れてイオは落下する。慌てて千切れたエネルギーの伝達のためのケーブルを掴む。ケーブルは焼け焦げていた。いつのまにかドーム状の部屋のすぐ上まで来ていたようで、イオはその部屋のほぼ真ん中あたりにぶら下がる形になった。部屋の真ん中に会ったはずの井戸ははじけ飛んだのか、クレーターと、黒々とした深い穴があるだけで、生命の気配はしなかった。青白く光ってもいない。

イオはペンを光らせてがれきに目をこらす。赤いリボンが見えた。

「ローレン!」

イオはケーブルから手を離し、部屋に飛び降りる。がれきをかき分ける。ローレンはがれきの中でうつぶせに倒れていた。意識はない。イオは首筋で脈を確認する。弱弱しくはあったが、まだ動いていた。

「イ、オさん……?」

ローレンは薄く目を開ける。

「ローレン、大丈夫だ。今救けるから!」

イオはローレンの腹から下半身にかけてまだ埋まっている体をがれきから出そうとする。ペンをシャベルに変形し、がれきを退ける。

「なぜ、ここに、い、いるんですか……?」

「説明するとややこしい。あなたを救けたら全部説明します」

「過去に、帰れなかったってことですか?」

イオの足を掴んでローレンが言った。強い力だった。イオは目を伏せる。

「そうです。この植物のエネルギーはすべて、ホープというロボットに奪われました。ホープはコピーによく似た、千年前から来た女性を再構築し、楽園を終わらせるプログラムの実行のためにエネルギーを使ったんです」

ローレンの目が絶望に見開かれ、揺れる。

「そんな……!それじゃ、イオさんは……ゲホッ」

ローレンは咳き込んで血を吐いた。喉からはヒューヒューと微かな音がしている。

「いいんだ。僕のことは今はいいから、死なないでください。もう、喋らないで」

「最後の最後で、こんなっ……。こんなのって、ないですよ」

ローレンは泣いていた。

「今はあなたに生きていてもらうことだけが、僕のやるべきことです。これからのことはまた考えますから」

イオは自分の足を掴むローレンの手を離そうとするが、ローレンは離さない。

「む、無駄ですよ。どうやら、私、ここまでのようです」

「無駄とか言うな!がんばれ!生きてくれ!」

イオは叫びながらローレンの上に乗っていた大きながれきを退かした。がれきの下から現れた現実にイオの息は止まる。ローレンの腹から下はぐちゃぐちゃにつぶれ、真っ赤な臓物と砕け散った骨の欠片が混じって、生々しくへばりついていた。

「そんな……」

イオの手からペンが落ち、青白い光が消えて、地下の部屋は真っ暗になる。

「イオさん」

また、青白い光が灯る。ローレンがペンを掴んでいた。声は弱弱しく掠れている。優しい声でローレンは言った。

「救けに来てくれて、ありがとうございます。青い光を見たとき、私、嬉しかったんですよ」

イオはローレンのペンを掴む手を包み込むように握る。手は冷たくなり始めている。

「この人生で一番きれいな青でした。……イオさん、どうか泣かないでください」

ローレンは微笑んでいる。イオは頷くが、目からあふれ出る温かい液体は止まらなかった。

「……ねえ、イオさん、あなたの名前を、聞いてもいいですか?」

「鈴也。伊尾鈴也」

ローレンは目を閉じる。

「駄目だ、逝かないで。お願いだ、ローレン」

イオは手を強く握る。ペンの光が揺らぐ。しかし、すぐにペンの光は安定する。イオの心はこんなにも乱れているのに確かに、穏やかに光っている。ローレンの口元が微かに動く。「スズヤ」と言ったように見えた。

部屋から光が消えた。

「うああああああああああああ!」

がれきの中でイオの慟哭がこだました。

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