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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
140/172

27 訪れぬ春

『七時になりました。中央楽園ラジオ、ニュースのお時間です。楽園位置情報をお伝えします。現在楽園は北緯36度40分、東経141度02分で停滞しています。移動性熱帯低気圧が南方向に5個確認されましたが、楽園保護システムは現在正常に機能しており、問題ありません。楽園中央における外部地球気温は17度で平年に比べ、3月に入ったにしてはかなり気温が低い状況となっております。現在、理科の塔で春が来ないことについて原因を調査中です。また、青の街との距離は完全に離れ、これから数年は近接することはないとの予想です』

アメの一族の屋敷でちゃぶ台を囲んで朝食を食べながらイオたちのパーティーはラジオを聞いていた。山を下りた街にはもうさすがに雪は残っていないが、山の上では、岩陰や建物で陰になったところにはまだ雪が残り、氷柱が下がっていた。春は訪れないようだった。

漬物の瓶を取ろうとして伸ばしたイオの手がローレンの手に触れて、イオはさっと引っ込める。「ごめん」「別にどうともないです」ローレンはイオと目を合わせず、漬物の瓶から漬物を取った。

「たぶん、楽園がどこかに座礁したとかじゃないかな」

イルマが言った。

「楽園は海を漂う巨大なカプセルでしょ。海底の山とかにぶつかってる可能性があると思うよ」

「楽園の天気って、理科の塔が管理してるんじゃないの?冬まつりの日とか、理科大臣が天気を調整することによって雪を降らせたりしてるって聞いたことあるけど」

セトカが不思議そうに聞く。

「理科の塔でも多少は調整できるけど、それは楽園を覆うカプセルを操作して湿度や気温を調整してるだけ。楽園のカプセルは最初に設計された四季が時間経過で巡るようにプログラムされていて、座礁したことによってカプセル自体になにか不具合が起きてるのかも」

「理科の塔って天気の操作なんていう重要な役目を担っていてすごいよな」

サミダレが言う。

「理科大臣のハクマは理科の塔とそこの研究室で、割と好き放題自分のための研究に明け暮れてるようですよ」

ローレンが言った。

「良く知ってるね」

「以前、少し調べたことがあったので。攻略の役に立つかもしれないと思って」

『王、ファイ様は昨晩、新たな法律を発表しました。『王へのチャレンジは四年の期間を待たず、いつでも可能とする』という法です。以前までは王へのチャレンジは四年に一度ということでしたが、例外的にファイ様が在任中、チャレンジはいつでも受け付けるということです。ただし、チャレンジは一度までなど、いくつか規定がありますので、王を目指すチャレンジャーの皆さんは王城一階、クロードの新法律案内仮説窓口までご連絡ください』

ラジオからテート・クロードであるヒサメの声がする。

「ファイ、かかってこいということか」

ルートはつぶやく。

「全員で理科の塔を攻略しに行こう。そしてその足で王にチャレンジする」

イオは言い放った。

「イオ、全員でか?」

サミダレが聞くがイオは頷く。

「そうだ。ここにいる全員、もう十分力はあると思う。最後のチャレンジは全員で臨みたい」

「俺は賛成だ」

ルートが言った。

「わかった」

六人は自然と手を重ね合った。

「僕は、楽園の王になる」


男はビーカーを光にかざした。薄い緑色のかっちりした軍服風の衣装に身を包み、緑色の髪をワックスで固め、レンズの厚い眼鏡の奥から黄色の鋭い眼光を光っていた。理科大臣のハクマだ。理科の塔の地下の研究室は、おびただしい数の棚に並んだビーカーと、それを照らす紫色の蛍光灯であふれていた。

ハクマは自分の腰からペンを抜き、それをガラス棒に変形させてビーカーの中をかき混ぜた。一瞬、青白い光に混じって緑色が見えて、すぐに消えた。

「大臣、チャレンジを申し込むものがやってきました」

受付の女性の声だった。ハクマはペンをビーカーから抜き、腰に挿し直した。

「通せ」

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