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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
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24 数学の塔

秋になった。イオ、セトカ、ローレンは数学の塔の前に立っていた。パーティーの中でも飛びぬけて数学が得意なメンバーである。

「なんか懐かしいね。二年前の春だっけ。私が将来に悩んで自暴自棄になってた時、イオが必死な顔をしてパーティーに誘ってくれたんだ」

セトカは懐かしそうに笑った。

「イオさんはパーティーに勧誘するときは誰に対しても必死な顔で勧誘するんですね」

ローレンが真顔で言った。

「え?いや、それは、ヒトを勧誘するときは真剣な態度でお願いしないといけないと思って。えっと、真剣っていうのはその」

イオはローレンをパーティーに勧誘したときのことを思い出して慌てた。

「イオ、なんでこの話題でそんなにあたふたするの?」

セトカが怪訝そうな顔を向けてくる。ローレンはもう塔の入口へと涼しい顔をして歩いて行ってしまっている。

「なんでもない……。とにかく、今日はきっちりバッジをもらって帰ろう」

「そうだね。この塔の主がスウじゃないのは少し寂しくはあるけど、全力で頑張ろうか」

三人が受付に行くと、見覚えのある女性がそこに座っていた。

「こんにちは、本日チャレンジでご予約のイオ様のパーティーですね。お待ちしておりました」

「事務のお姉さん!」

その女性は、きっちりとしたスーツに身を包み、顔には柔らかな笑みを浮かべた事務のお姉さんだった。

「お久しぶりです。ハイパー・エクストラ・ウルトラ・エクセレント・グレート・マスター・アメイジング・ミラクル・パーフェクト事務のお姉さんです」

「ちょっと見ないうちに名前長くなりましたね……」

「はい、私もさまざまな職場で経験を積ませていただき、最近縁あってまたこの塔の事務員として働かせていただけることとなりました。引き続き、縮めて事務のお姉さんとお呼びくださいませ」

事務のお姉さんは完璧な笑顔を保って世間話をしている間にも手を動かし続け、書類に鬼のようなスピードで何かを書きつける。事務技術は各段にアップしていることがうかがえる。

「やはり、王城の機関直属の職場で働くと安定していますのでありがたいですね。さて、では、そちらの階段を最上階まで上ってください」

階段を上ると、分厚く重厚な扉が三人の前に現れる。イオは深呼吸をし、その扉を開いた。

目の前にはすり鉢状の闘技場が広がっていた。イオたちから見て正面には鉄格子があり、その前には風鈴が六つぶら下がっていた。

『ようこそ、数学の塔へ。試験のルールを説明します。扉を開けたら試験開始。試験時間は一時間。ジャンルは数学のすべて。大きなモンダイが六問あり、五問以上正解であなたがたの勝ちです。どのモンダイから取り組んでも構いません。すでに申し込みのときに同意書にサインしてると思いますが、これは学園のテストではないので、試験時間内はいかなる怪我やトラブルがあっても試験を中断しません。計算は正確に頑張ってください』

若い男性の声がした。スウが数学大臣を辞めてからしばらくの間は理科大臣が数学大臣の座をかけ持っていたが、その後に数学の塔の次の主が決まった。新たな大臣、ヤウのことは事前に調べてきてはあったが、試験のスタイルにあまり目立った特徴や派手な演出はないようで、まさに学園で受けていたテストのような形式のチャレンジだった。

スウならもっと数学の面白さをかみしめさせるような演出や、見せ方にもこだわった試験スタイルだったのかな、とイオは少し思ったが、今は目の前のモンダイに集中しよう、と気合を入れる。

飛び出してきたモンダイと間合いを取るために、ペンを弓に変えて少し鉄格子から離れたところから矢を放ち、風鈴を鳴らす。鉄格子が上がっていき、そこから大きな青白く光る化け物が出てきた。今まで修行を積んできたからモンダイははっきり見える。そして、どんなステップで切り込んで、どこをどんな風に攻撃すれば糸口が見えてくるのかも瞬時にいくつかのパターンを考える。そして、一番効率がいい最善手で攻撃していく。三人で呼吸を合わせ、モンダイを解いていった。

『残り23分。全問正解です。チャレンジクリア、おめでとうございます』

最後の一体を解いた後、声がしたが、キリサメやセイムの時のように本人が出てくることはしないようだった。

受付に戻ると、事務のお姉さんがバッジの入った小箱を渡してくれた。バッジは数学の数の字をかたどった銀色のピンバッジだ。

「これで三つそろった。あとは理科の塔だけだね」

イオの手の中のバッジを覗き込んでセトカが言った。

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