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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第三章
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6 ギンナルとユメクイ

「どういうことだよ。お前の意図がわからない」

ギンナルはソファでゆうゆうを足を組むユメクイに言った。

「動きがあったってことかい」

ユメクイは煙管から煙をくゆらせる。ユメクイの自称自宅であるゴーストマンションで二人は数か月ぶりに顔を合わせていた。

「お前の言う通りマリアという女について調べた。調べれば調べるほどわからない。なぜお前があの女に興味を持つんだ?」

「君は興味が湧かなかったのか。おかしいな。きっと調べていくうちに面白くなってくると思っていたのに」

他人事のように言ってユメクイは一服する。

「とにかく。今日吸う煙草がないから今日まで俺が調べてきた成果を伝える。そうしたら煙草をくれ」

「ああ。情報料ね」

ギンナルはポケットから手帳を取り出して情報を読み上げる。

「まず、マリアはR1に所属する闇医者だ。自分の部下を社員と呼び、表向き会社のような組織を形成して臓器を客に移植してる。得意なのは皮膚移植や顔面整形。週に一回美顔治療を自ら行い、注射、詰め物なんでもやりまくっていてほぼ体はサイボーグだ。二か月ほど前、自分の骨格を矯正する手術を自分で行った。金持ちで、金を一番出す患者から先に診る。四か月前から地上のマンションに住んでいる。そして一昨日、俺が見張り始めてから最初の手術をした」

「ふうん。好きな食べ物は?」

「トマトジュース」

「嫌いな食べ物」

「ラーメン、とんかつ、その他脂っこいと言われるものすべて」

「好きな言葉」

「美しくないヒトはいない、怠惰なヒトがいるだけ」

ユメクイはくっくっと喉の奥で笑う。

「よくもまぁそこまで調べたものだ。関心するよ」

わざとらしく拍手をして見せる。

「なんだ。これだけ調べてまだ不満か?」

「彼女の会社のことはあんまり調べなかったようだね」

「会社?お前、もしかして移植をしたいのか?彼女は高い技術を持っているとはいえ、所詮闇医者だ。誰も大きな声で言わないだけで後遺症が残ったりする患者もいる。それに、長い時間待たなくてはならないし、金も相当かかる」

ユメクイは首を振った。

「違う。俺は別に今の状態が気に入っている。義足そのものも好きだし、足がない状態というのも悪くないと思っている。生活になくては困る大事な、例えば五感とか、内臓とか、そういうのを治すのをとがめているわけではないけれど、世間の金持ちが大金を払って本物の足を求める理由が理解できないね」

「本物の足だと、臭いし、爪も切らないといけないし?」

「それもある。でも、それよりも俺は、ないことによって醸される美の可能性について言っている。あえて不在であることによって、むしろ現実に存在しうるすべてより美しい足を想像できるんだ。もし俺に足がついていたら、俺の足というものは唯一の固定された存在、ただの足に成り下がる」

「そのただの足を求めるエラーズはたくさんいるんだよ。ただそこにいて、歩いて、ヒトをある場所からある場所に移動させてくれる、ただの足を欲しているエラーズが」

「きっとそうなんだろうね」

ユメクイは天井を仰ぎ、輪の形に煙を吐いた。

「で、なんの話だったか」

「君はもう少し会社について調べてみるべきだって話だ。必要ならそれを持って行ってもいい」

ユメクイはテーブルの上に置いてある企業パンフレットのような冊子を指さした。企業の取り組みやポリシー、連絡先などが載っている。

「おまえが何を意図しているのかまったくわからない」

「君は情報を求める客に対して情報を奪おうとするのかい?情報屋は客に情報を与えることが仕事だと言うのに。嘆かわしいね」

「仕事だからちゃんと調べるさ。それはそれとして、長い付き合いの知り合いの心理が良く分からないのはあまり気分がいいものではないんだよ」

「あまり心配しなくても、ちゃんと調べればわかってくるよ」

ユメクイは箱に何種類かの選んだ煙草を詰めた。

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