58 コピー
中央ブロックはわずか数分で壊滅状態に陥った。真っ赤なギモンが二体、ぶつかり合い、暴れ、互いを傷つけようと力の限りを尽くしていた。建物は破壊され、城下町は煙と炎で満ち、さながら地獄の風景であった。
「やめてくれ!」
煙の中で声がした。
「お願いだ、やめてくれ!」
その声は、楽園の誰もが聞いたことのある声だった。城の門の前に、トイロソーヴではないシルエットの人影がある。
白く長い髪に、真っ赤な目、頬から顎にかけて変な形のあざがある。楽園の生命係、コピーであった。白衣を着て、町がこんなにも破壊され、家の破片やガラスが散乱する中だが、裸足だった。
真っ赤な化け物二体は、自分たちに向かって叫んでいるのが誰だかわかると、動くのをやめた。化け物はするすると縮み、破壊された城跡には双子の兄弟がお互いの胸倉をつかみ、固く握りしめた拳を宙に振り上げた状態で固まっていた。
「コピー?」
イオはつぶやく。砂埃を吸い込みすぎたせいで、その声はかすれていた。
「すまない」
コピーは言った。塔を下り、自分の足でここまで街を歩いてきたようで、その白い足は、瞳のように真っ赤な血で濡れていた。
ファイとルートは動くこともできずにコピーを見ていた。
コピーは両手で自分の膝をつかむように腰を折り、頭を下げた。震える声で続ける。
「丈夫な体に創ってやれなくてすまない。お願いだから、お願いだから傷つけあうのはやめてくれ」
楽園は静まり返った。
「すまない。本当にすまない。……許してくれ」
悲痛な声だった。
双子は互いを突き飛ばすようにして距離をとった。二人は何も言わずに反対の方向を向き、さっきまで城だったがれきの中を歩きだした。
コピーは二人がいなくなってなお、姿勢を変えることなく頭を下げ続けていた。