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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第一章
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11 イオの勉強法

「おい、スズヤ。スキャンしたデータに足りないところを手動で補ってるところなんだが、お前の心臓の弁ってこんな感じでいいか?……おーい、いるのか?コピーだ。聞こえるか?」

コピーはイオの部屋のドアをそっと押し開ける。なにやら部屋の隅から鉛筆を紙にすごい速さで滑らせる音がした。

「あー、勉強中のところすまんが、っとぉ?!」

近づこうとしてコピーは床に散乱した付箋を踏みつけて尻もちをついた。

「な……?」

見回せば壁一面は暗記事項が書き込まれたブロック付箋で埋まり、あふれた分は床に散乱している。さらに使用済みの計算用紙も散らかってカオスそのものだった。部屋の隅のデスクには本が山と積まれ、その山の中からは絶えず鉛筆の走る音が生まれ続けていた。コピーは本の山の中からイオを引っ張り出した。

「おいここは仮にも私の塔だぞ。よくもまあたった一週間でここまで汚せたな」

「あ、……コピー。……すいません。レッドブルあります……?」

だめだこいつ。死んだ魚の目だ。

「ここにブルはいない。それより部屋が汚い。あとお前も汚い。どういうことだ?エンシェってみんなこんなに無謀な勉強の方法しかしないのか?」

「……なら、モンエナは……?」

「いったん風呂に入ってこい」

「モンエナの風呂……」


黒の塔には大浴場と言っても差し支えなさそうなほど大きな風呂場があった。大きな円形の浴槽が真ん中にあり、なみなみと張られたお湯からはもうもうと湯気が立っている。黒くつやのある大理石の床から生えるギリシャ神殿を思わせるような白くて太い柱が高い天井を支えている。天井にはなにやら宗教画のような天井画が描かれており、三人の天使がお互いに争いあっている絵が描かれている。浴槽の中央にはしゃれた井戸のような大理石のオブジェがあり、そこから新たなお湯がこんこんと湧き出しては湯舟に注がれている。壁際にはたくさんの洗い場があり、それぞれの洗い場の間にはこれまた大理石の立派な石像が置かれていた。

「ひ、広……」

イオはしばしその規模にため息をついた。

「コピーが一人で住むにはもったいないくらいの塔だな」

つぶやきつつ湯舟に入ろうとしたイオと石像の目が合う。

「あっ、すみません。先にいらっしゃるとは気づかなくて。お風呂失礼します。あの、今のつぶやきはほかの人に言わないでくださいね」

「……」

「聞こえてます?そこに立ってると石像みたいですよ。そんなとこにいると寒いですから一緒に入りませんか?あ、そういえばダビデに似てるって言われません?」

「……」

「あの、いいお尻ですね……?」


「っはぁ~。いいお湯をいただきました」

「それはよかったです。ところでイオ様。先ほど学園のほうからお電話がありまして、イオ様の一年生のクラスは3組とのことです。点数は明日学校にランキング形式で掲示されるので確認すること、とのことです。明日は3組の生徒はペンを使わないそうなので、お伝えしておきますね」

コーヒー牛乳の瓶を手渡しながらBb9はイオに言った。

「あ、ペン、いらないんですか」

イオは脱衣かごの中のペンをちらりと見た。

「それでは、明日からが学園の授業が本格的に始まります。今夜はもうよく寝て、明日に備えてください」

Bb9にうながされ、イオはベッドに入る。

「理科の最後の一章の公式の理解がまだ不十分な気がするのですが……」

「もうおやすみください。楽園では根性だけではなんともならないこともあるのです」

Bb9はやや強引にイオを寝かせるとそっとドアを閉めた。


「やれやれ。選別で生き残るタイプのエンシェはみんなああだから、楽園というものはきっとこうなのだろうな」

水色のパジャマに身を包み、ナイトキャップを被ったコピーは閉じたドアに向かって言った。

「コピー様も時々研究にのめりこむと朝晩なくなることがあるではありませんか」

「あいつといっしょにするな。私が研究してるとき、私は始終わくわくしてる。あいつみたいに目が死んだりすることは絶対ないね。頭はフル回転してて、止まらない、止めてはならない、最高スピードが心地いい、躊躇すればもう追いつけなくなる、ぎりぎりで最高な、そんな感覚なんだよ。つまり、やっぱりあいつはバカだ」

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