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ケラサスの使者  作者: 岡倉桜紅
第二章
105/172

52 目玉

イオたち四人は牛丼屋で夫婦に話を聞き終わると、西ブロックの山の拠点まで戻ってきた。

「ミカさんにはエラーズを怖がる事情があったことはわかった。僕らにできるのはあの店やその周辺の公共施設に看板なりポスターなりを貼ってエラーズのヒトが遠慮してくれるように促すことくらいだね」

イオは言った。

「ただ、うまくポスターを作らないとエラーズのヒトが無条件に自分たちは差別されている、と感じて嫌な気持ちになるかも。嫌な気持ちになるだけじゃなくて店の迷惑になるような行動をとり始めてしまうかもしれないから慎重に作らなくちゃね」

セトカはポスター用の紙を机に広げながら言った。

「近くの駅にポスターを貼らせてもらえないか自分が電話してみよう」

とサミダレも言った。


二日後、ポスターを完成させ、貼りだしにイオたちが駅にいたときだった。駅から出てすぐの通りが何やら騒がしい。

「ギモンの暴走かな」

目を凝らすと、赤いもやが動いているのがわかった。

「あの方向ってまさか、あの牛丼屋?」

四人は走り出した。やはりギモンは牛丼屋のところで暴れていた。悲鳴が鳴り響いている。ミカの声だった。イオはペンをすばやく剣に変形させると、人込みをかき分けた。

ミカの上に覆いかぶさるようにして大きなギモンが暴れていた。ミカは悲鳴を上げて床をのたうち回るようにして、そのギモンの攻撃から逃れようとしていた。大きな角を持つ鹿のような赤く光る化け物は、ミカの顔を執拗に攻撃しているようにも見えた。

『知りたい知りたい知りたい。目の構造について知りたい。美しい光彩を間近で観察してみたい。水晶体をはがしたら一体どんなだろう?』

瞬時にイオは理解する。この化け物は、ミカの目を抉り出すことで自らのギモンを解決しようとしているのだ。

「やめろ!目というのは視神経とつながっていて、そこを通じて映像の情報を脳に伝えるんだ!抉り出したりしたら、目としての機能を失ってしまうんだ!」

イオはギモンに斬りかかるが、なかなか化け物の勢いは止まらない。ミカの悲鳴がひときわ大きくなる。

『知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい』

ブチっというグロテスクな音が響いた。ギモンはその瞬間勢いをなくし、するすると縮んだ。ギモンがいた場所には、メタリックでしゃれたデザインの義足を付けた少年が呆けたような顔をして座り込んでいた。その手は真っ赤な地に染まり、手のひらには抉り出したばかりの眼球が乗っていた。

ミカは悲鳴を上げることもできず、その喉からはヒュッ、ヒュッ、というような不規則に息を吸う音が漏れ、体は痙攣していた。目からあふれる血がじわじわと店の床に広がっていく。

「よくやった」

誰一人声を出すこともできず静まり返った人込みをかき分けて、黒いフード付きマントを羽織った男が現れた。男が一歩一歩歩くごとにかすかに靴音の中に金属音が混じっていることがわかる。男は少年の手のひらの上から血でぬらぬらと光る眼球を取り上げると、持っていたカンテラのような物の上の蓋を取り、ガラス部分に満たされた液体の中に眼球を入れて、また蓋を閉じた。

「ご苦労だったな、シゲ」

男は少年の頭をポンとなでる。少年は自分の血で染まった両手を見下ろして震えだす。イオと目が合う。黒い髪に浅黒い肌。イオは突如思い出した。シゲという少年にイオは会ったことがあった。楽園に来て間もないころ、バイのからくり屋で出会った無邪気な少年だった。その時に見せてくれた笑顔はもう彼の顔にはなく、その表情にはただ恐怖と絶望だけが刻まれていた。イオの頭には血が上ってきた。

「それじゃ、俺は失礼するよ」

フードの男は踵を返し、人込みを平然とかき分けてその場を離れていく。

「待て」

イオは言う。

「待てっつてるだろ!」

イオは叫んでフードの男を追いかける。人込みの中で見ていたヒトたちもやっと我に返ったようにフードの男を取り押さえようとした。しかし男はすばしこく逃げ回り、細い路地に入っていく。

「イオ、こっちだよ!」

セトカが前を走りながら叫ぶ。イオもなんとかそれに追いつく。

『ピーンポーンパーンポーン!――楽園ラジオ局から緊急のお知らせです。たった今、王城のラジオ塔が何者かに侵入されました!かなり大量のテロリスト集団です!チャレンジャー、ケビイシはすぐに王城に来てください。また、中央ブロックにいる市民の皆さんは家から出ずに身を守る行動をしてください。それと、これからこの電波を通じて放送されることには虚偽が含まれるかもしれず、公式な発表があるまでは決してその情報をウっ……』

急に街に設置されているスピーカーからラジオの放送が流れだした。人々は反射的にそちらに注意が向き、動きが止まる。スピーカーからはドタバタと争う音が聞こえてきた。しかし、フードの男とイオだけは止まらなかった。二人はだんだんその距離を詰めながら地下へと潜っていく。

『このラジオ塔は、僕らR1が占拠した!言う通りにしないと、王城を爆破する!』

テロリストの声が聞こえた。かなり興奮しているようだった。起こったことの情報量がありすぎて混乱した一瞬に、セトカはイオとフードの男を見失ったことに気付いた。サミダレとイルマがセトカに追いついてきた。

「イオとあの男は?」

「ごめん、見失った」

「仕事の依頼人が目をえぐられたと思ったら、間髪入れずに王城がテロリストに占拠されるなんて、タイミングの悪い日だね」

息を整えながらイルマが言う。

「うん。テロリストは本当に王城を爆破するつもりかな。だとしたらやばいよ。テロリストはたぶん王城の地下のエネルギーを知らない。爆発によってそっちのエネルギーまで解放されたりなんかしたら、イオがエネルギーを得ることはおろか、楽園が消し飛んじゃうかもしれない」

「取引に応じたりして落ち着かせればさすがに爆破はしないんじゃないか?R1はエラーズの集まりで、王はエラーズに理解のあるヒトだし」

サミダレが言う。

「だといいんだけど、中央ブロックのノーマルズのヒトはエラーズに偏見を持つヒトが多いし、大臣とかが余計な事をしたら危ないよ」

「じゃあ、自分らは王城に向かうか?ラジオではチャレンジャーに協力を求めていたし」

「待って。イオはどうするの?」

「そりゃ心配だけど……。はぐれてしまったからには私たちができることをした方がいいよ。何もできないかもしれないけど、リーダーを追いかけて地下をさまよっているよりは、リーダーの真の目標を守ることが私たちパーティーの役目だよ。きっとイオもエネルギーのことは気になるはず」

セトカは強い口調で二人に訴えた。イオが過去に帰ることをどれほど重要に思っているかを一番近くで見てきたのはセトカだった。

「わかった。王城に向かおうか」

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