僕が星座を作ってあげる
「ねえ、人は死んだらお星様になるって本当?」
公園のベンチに腰掛け、ぼぅっと夜空を眺めていた私は、背後から声をかけられてドキリとした。
振り返ればそこには、小学校一年生ほどの男の子が立っている。そして私を見つめていた。
「……君、どうしたの。もうとっくに十時回ってるよ。何、家出?」
現在の時刻は十時半くらい。普通に考えて子供が公園にいていい時間帯じゃない。
しかし男の子は私の質問に答えず、空を指して繰り返す。
「人は死んだらお星様になるんだよね?」
何なんだろう、この子は。
こんな年頃で家出をするとは思えない。ネグレクトで家から追い出された? もしそうなら交番に送り届けるべきなんだろうか。
そんな風に思いながら私は答えた。
「一概には言えない。ギリシャ神話では神様たちが星になったっていう話みたいよ。でも死んだ人が星になるって方がロマンチックだとは思うけど。……寒くない? お家、どこなの?」
「へえ。やっぱりそうなんだ。じゃああの空に僕のお母さんのお星様もいるかなぁ」
嬉しそうに笑った男の子の顔がなんだか不気味に見えて、私は背筋に冷たいものを感じた。
「君、お母さんは?」
「僕がお星様にしたの。母さん、スターになるのが夢だったって言ってたから」
この子……普通じゃない。残業帰りの疲れ切った頭が生み出した幻覚かとも思ったけど、何度瞬きを繰り返しても男の子はそこに立って喋っていた。
逃げたいという衝動と、もしも本当に何らかの事情があってここにいるのだとしたら警察に届けるべきだという考えが私の頭の中で渦巻く。
結局私は彼を諭すことにした。
「こんな夜中に外に出ちゃダメなのよ、君のような小さい子は。交番に行きましょう。ね?」
「僕、もっともっとお星様を増やしたいんだ。夜空にキラキラ輝く星座たちって綺麗だと思わない?」
そう言いながら男の子は、ズボンのポケットからナイフを取り出した。
それは決して小学校低学年の子供が持っていていいようなものじゃない、血に汚れた凶器そのものだった。
「たくさん星座を作るんだ。ああ、素敵だなぁ。おねーちゃんもそう思うでしょ」
ゆっくりと、不気味な笑顔を湛えて近づいて来る男の子。
彼を前にして私は、足が震えて立ち上がれなくなってしまった。状況が理解できず、ただひたすらに恐ろしい。
「やめ……やめよう。ねぇ、やめて」
「おねーちゃんもお星様になってね。ずっと空の下から見てるから……」
そして私は、星になった。