陽介
俺は走って神社に向かっていた。その途中、スマートフォンで義浩に電話をかけた。
『もしもし』
「あ、もしもし義浩? すぐに神社に来れないか?」
『ああ⋯⋯それがさぁ』
落ち込んでいるような、暗い声で喋る義浩。
『明日引っ越すことになって、なぜか家から出してもらえないんだ。朝のこともあったし、もうこの村には居られない! って母さんが急遽決めたんだ』
自分の息子が明らかに何かに取り憑かれてあんなことをしたのだ、引っ越したくなるのは当然だ。
「そうか⋯⋯残念だな。たまにはメールか電話寄越せよな!」
『ああ、分かった。⋯⋯そんで、神社に行って何するつもりなんだ?』
義浩が心配そうに聞いてきた。
「いや、なんでもないよ。じゃあまたな!」
義浩は明日この村を離れるのだ。このことを知らないまま引っ越した方がいいだろう。そう思い、閭胙禍様の話はしなかった。
電話を切った頃に神社に着いた。けっこう長電話をしていたようだ。
「こんにちは、佑樹くん。今日は1人かい?」
「フン」
俺は宮司さんを無視して神社の中に入っていった。宮司さんは全てを知った上で俺達にあんな態度を取っていたんだ。1ミリも信用してはいけない。
この神社のどこかに陽介が居るはずだ。俺は血眼になって探した。やがて宮司さんは俺の目的に気がついたのか、俺の後ろを歩くようになった。
「なんで後ろついてくるの? どんぐり探してるだけなんだけど」
「そう? じゃあ一緒に探してあげようかねぇ」
宮司さんは笑顔でそう言った。その笑顔は、目が全く笑っていなかった。
どんぐりを探すふりをしながら落ち葉を避けていると、神社の裏側に大きめの穴を見つけた。子どもが1人通れるくらいの大きさだ。
「宮司さん、この穴なに? この奥に何かあるの?」
俺は穴を指さして言った。
「えっと、これは⋯⋯あれだ! 私の秘蔵のアダルトビデオ部屋に繋がっているんだ! その部屋の存在がバレたら私はこの村に居られなくなってしまう! だから、どうか見なかったことにして帰ってくれないか!」
「ふーん、分かった」
そう言って俺は無理やり穴の中に入った。だいぶ狭いが、なんとか通ることが出来た。
「エロガキには逆効果だったか⋯⋯くそ、どうすれば! 佑樹くんが犠牲になってしまう⋯⋯!」
地上で宮司さんが何やら言っているがよく聞こえない。俺は数メートルほど斜めに滑った後、平坦な場所にたどり着いた。
階段がある。更に下があるということか。40段ほどの階段を降りると、そこには扉があった。扉は強烈な臭いを放っていた。閭胙禍様が俺を近づけないようにしているのだろうか。
俺は近くに転がっていた石を何度も扉に打ちつけ、なんとか鍵を壊し、部屋の中に入った。
するとそこには、大きな木に取り込まれた状態の陽介が居た。太い幹に背中が沈み、両腕には木の枝が巻きついている。しかし、陽介は目を開けている。よし、まだ生きている!
俺は陽介を見て泣いてしまった。ババアみたいなセンスのシャツに、半ズボンでも長ズボンでもない意味の分からない丈のズボン。中学の修学旅行で買った十字架のネックレス。キノコみたいな髪型。まさにあの日のままの姿だったからだ。
「ゆう⋯⋯き⋯⋯」
陽介が俺の名前を呼んだ。さらに涙が溢れる。
「しん⋯⋯じてた⋯⋯来てくれて、ありがとう⋯⋯」
言葉にならないほどの小さな声だが、俺には聞き取ることが出来た。俺は「うん、うん」と頷きながら陽介のもとへ歩み寄った。
「ずっと⋯⋯ずっと⋯⋯ぐすん、待ってた⋯⋯」
陽介も涙を流している。辛かったよな、陽介⋯⋯!
「この村の大人は信用出来ない。この枝を引きちぎってすぐに村の外に出るぞ!」
俺はまず、陽介の左腕に巻きついている枝を取る事にした。中々硬いが、1本ずつ折っていけば陽介を解放できそうだ。
「佑樹⋯⋯ありがとう」
陽介はそう言うと、縛られていたはずの右手で俺の肩を抱いた。
「ずっと、一緒に居ようね」
最期に聞いたその声は、俺の知る陽介の声ではなかった。
これにて完結です! 最後までお読みいただき、ありがとうございました!




