生贄
義浩の家に着くと、おばさんが外に立っていた。
「あ、佑樹くん! 義浩がぁ!」
おばさんが狼狽した様子で言った。
「今日は初詣に行ってたんです。なので、僕は神社を探してみます! おばさんは家で待っててください!」
最初から神社に行ってもよかったのだが、おばさんの様子も確認しておきたかったので義浩の家まで来たのだ。
神社の前まで来た俺は、辺りを見渡した。まだ宮司さんが掃除をしている。どんだけゴミがあるんだ。
「すみません、義浩見ませんでしたか?」
宮司さんに聞いてみた。
「さっき佑樹くんと別れて帰ったよねぇ。それからは見てないねぇ」
ここには居なさそうなので、俺は神社を後にした。応援を呼び、村中を探し回ったが、義浩は見つからなかった。陽介に続いて義浩まで、よりによって俺の親友が2人とも居なくなるなんて⋯⋯!
その日は結局見つからず、皆夜遅くに家に帰った。
その夜、俺はあまり眠れなかったが、短い夢を見た。陽介の夢だ。
陽介がどこか暗いところで「助けて⋯⋯助けて⋯⋯」と言っている夢だ。俺の罪悪感から来たものなのか、どこかから陽介が念じているのかは分からないが、早く会いたいという気持ちが強まった。
翌日の朝、義浩は見つかった。電柱に登って、先っぽをぺろぺろ舐めていたところを巡回中の警察官が発見したらしい。
集まった野次馬は爆笑の嵐だったという。お前ら、笑ってる場合じゃねえんだよ。俺と背が変わらないのに100kg近くある義浩がそんな高いところまで登れるわけがないんだ。きっとこれは、何かが義浩に乗り移って取った行動なんだ。
「昨日、みんなで駆け回って探してくれたんだってな。心配かけてごめん」
義浩はすぐに俺のもとに謝りに来た。
「気にすんな。でも、なんであんなことを?」
「それが、新神社の前でお前と別れてからの記憶がないんだよ。もちろん電柱に登った記憶もない。気がついたら電柱の上にいて、みんなに笑われてて、口の中が鬼苦かったんだ」
やはりあの神社が絡んでいるのか。閭胙禍というものの仕業なのだろうか。
「俺思ったんだけどさ、陽介もこんな感じで行方不明になったんじゃないか?」
義浩が言った。
「なるほど、確かに可能性はあるな! 村中の電柱を手分けして見て回ろう!」
義浩と分かれて電柱を1本ずつ確認していったが、陽介はいなかった。そうだよな、さすがに2年以上登りっぱなしってことはないよな。今朝みたいに誰か気づくだろうし。
プルルルルル
俺のスマートフォンが鳴った。父さんから電話だ。
「もうすぐ出発するから帰って来てくれ、義浩くんも見つかったみたいだし、もう大丈夫だろ」
今日は母方の親戚の集まりなのだ。当然お年玉タイムもあるので、俺はすぐに家に向かった。義浩も帰っていった。
家に帰ると、玄関に父さんが居た。
「義浩くんのお母さんからお礼の電話があった。昨日、学校のみんなを呼んでいろんなところを探し回ったそうだな⋯⋯」
ぺち
左の頬にちょろこい痛みが走った。父さんがちょろこいビンタを放ったのだ。
「神社にも行ったそうだな。あれだけ神社には近づくなと言ったのに!」
「いや、それっぽいことをなんとなーく遠回しには言われたけど、神社に行くな、とは言われてないよ」
「言った! 言ったの!」
父さんが癇癪を起こし始めた。絶対言われてないのに。
「だったらちゃんと理由も言ってよ! 理由もなしに『行くな』じゃ納得出来ないよ!」
俺も少し気が立っていたので、父さんに反抗して少々強い言葉遣いになってしまった。
「⋯⋯お父さん」
母さんが父さんの肩に手を置いて、頷いた。
「理由を言ったら、もう2度とあそこには近づかないと約束してくれるか。俺達のことをどう思ってもらっても、何を言ってもいいが、絶対に近づかないと約束出来るか」
さっきまで子どものようだった父さんの真面目な態度に、俺は少しの緊張を覚えた。
何を言うつもりなんだ、父さんは。家族の絆が壊れるようなことなのか?
「実はな、あの神社には⋯⋯」
「まだ約束出来るって言ってないんだけど!」
なんで俺が承諾した感じで勝手に話を進めるんだよ。家族の絆の危機なんだろ、もう少し葛藤させてくれよ。
「あの新しい神社が建てられる前から⋯⋯」
「まだだってば!」
どんだけ言いたいんだよ。埒が明かないので、俺は「分かった」と返事をした。
「この村には昔から『閭胙禍様』という神様が居るんだが、その閭胙禍様には数年から数十年に1人、生贄を捧げなければいけなかったんだ。生贄だからといって殺されるわけではなく、閭胙禍様のもとで飼われるらしいんだが」
生贄⋯⋯遊〇戯〇王でよく出てくる言葉だ。
「約5年前、前の生贄がついに死んでしまい、閭胙禍様の怒りが徐々に広がってきてな。その怒りを収めるためにまた新しく神社を作り、新しい生贄を探した⋯⋯」
前の生贄⋯⋯つまり、『現在』の生贄が居るということになる。もしや、それは⋯⋯
「なるべく悲しむ者が居ない人間、その条件を最優先にして探したんだ。その結果、家族のいない陽介くんが選ばれた。閭胙禍様は生贄と遊ぶのを邪魔されることを何よりも嫌っていてな、過去に生贄を救出しようとしたその生贄の親友が、後日無惨な姿で発見される、ということがあった。だから、もう神社には近づかないでくれ! 父さんと母さんからの一生のお願いだ! 頼む!」
悲しむ者が居ない人間だと? そんなのこの世に居るもんか。どんな人間にも自分が死んだ時に悲しんでくれる人がいるはずだ。大切な人がいるはずだ。
だいたいなんだ? 生贄と遊ぶって。そんなことのために陽介は連れて行かれたのか? よく分かった。この村は狂ってる。
「分かった。さよなら」
そう言って俺は家を飛び出した。




