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ろぞわ  作者: 七宝
2/5

おみくじ

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


「はい、あけおめ! ことよろ!」


 新年の挨拶をしていなかったので、互いに挨拶を済ませた。義浩(よしひろ)よ、こんな時くらいちゃんと言ったらどうなんだ。まぁ、友達同士で改まって言うのはなんとなく恥ずかしいというのも分からんでもないが。


佑樹(ゆうき)くん、ありがとうねぇ、助かったよ。後は私がやるから、2人で初詣をして来なさいな」


 宮司さんがにっこり笑って言った。


「はい!」


 朝から、それも正月の朝から良いことをするととても気分が良い。


「お前、掃除手伝ってたのか! すげぇな!」


 義浩も俺のことを見直したようだ。そうだろ、すげぇだろ。

 改めて神社を見ると、少し懐かしい気持ちになった。


「あれ以来ここには来てなかったんだよなぁ」


 俺がそう言うと、義浩は頷いて言った。


「ああ、なんか罪悪感があったもんな。でも俺、この前ちょっとだけ寄ったんだ。ちょうどこの辺りにいた時にトイレに行きたくなっちまって」


 罰当たりなやつだ。


「そうだ、その時に思い出したんだ! 陽介(ようすけ)があの時居なかったってことを!」


 そういえばさっき俺も思い出したんだった。⋯⋯って、義浩もここに来た時に思い出したのか? 2人ともとなると、さすがに何かあるのかもしれないな。


「義浩、俺も陽介が居なかったような気がする。さっき掃除してたら思い出したんだ」


「お前も!? ということは、あの時俺達の身に何かが起こって、そのせいで2人とも忘れてたってことか? それで、ここに来たことでなにかに気づいて思い出した⋯⋯?」


 今日の義浩は妙に冴えてるな。真冬に半袖半ズボンだとバカに見えるが、そうでもないようだ。ということはやっぱり、陽介はこの神社の中で居なくなったんだ。


「宮司さん、陽介がこの神社で行方不明になったかもしれないんだ、何か分からない?」


「さぁねぇ、もう村の中は捜しつくしちゃったからねぇ」


 先ほど俺にも似たような質問をされたからか、宮司さんは少し困ったように答えた。


「ごめんねぇ、分からなくて」


「いえ、そうですよね。すみません⋯⋯」


 そう言って義浩は振り返り、こちらに歩いてきた。その時、宮司さんが一瞬険しい顔をしたのを俺は見逃さなかった。何か知っているに違いない。


「裏側に行ってみないか? もしかしたら落ち葉の中に何かがあるかもしれない」


 義浩が俺にそう言った。


「ごめんねぇ、掃除がまだたくさん残ってるから、初詣だけしたら帰ってくれんかねぇ」


「えっ⋯⋯」


 義浩は不思議そうな顔をした。宮司さんはこんなことを言う人ではなかったからだ。


「宮司さんの言う通りにしよう、家帰ってゲームしようぜ」


 さっきの宮司さんの表情を見た俺は、ここに居るのは危険だと判断し、こう提案した。


「いやいや、ゲームって⋯⋯陽介の命がかかってるかもしれないんだぞ! お前にとって陽介はそんなもんだったのかよ!」


 誤解させてしまった。だが、目の前には宮司さんが居る。どうやって義浩に伝えればいいんだ⋯⋯!


「お、おい、アレ⋯⋯!」


 義浩が鳥居を指さして言った。俺と宮司さんは鳥居の方を向いて、何があるのか確認した。


 そこには、鳥居の柱を執拗に舐めている髪の長い女の姿があった。


「鳥居がどうしたの?」


 宮司さんはポカンとした顔で義浩に聞いている。見えていないのか、アレが。


「いやだから、女の人が! ⋯⋯ってあれ? 居ない⋯⋯」


 鳥居の女は居なくなっていた。


「幻覚を見るなんて、全く君達は⋯⋯大晦日だからって夜更かしでもしてたんでしょう。参拝だけして早く帰って寝なさい」


 宮司さんはそう言うと、(ほうき)を持って神社の裏の方に歩いていった。俺も見たんだ、幻覚でも見間違いでもない。なにかがそこに居たんだ。


「なぁ義浩、お前が宮司さんに陽介のことを聞いた後、宮司さん、すごい顔をしたんだ。もう宮司さんには聞かない方がいいかもしれない。だから早く帰ろうと言ったんだ」


「そうだったのか、誤解してごめんな」


 喧嘩してもすぐに仲直り出来る俺達は、やはり親友なのだなと思った。3人揃ったらもっと楽しく出来るのにな⋯⋯


 俺達はお賽銭を入れ、手を合わせてお参りをした。俺は16円、義浩は5円玉を2枚入れていた。俺は昔から16円が良いと教わっていたのでこうしているが、理由はよく知らない。義浩も何か理由があるのだろう。いろんな(げん)の担ぎ方があるのだ。


「あ、おみくじがある」


 義浩が言った。おみくじか、もう5年は引いてないな。スマホゲームのおみくじならたまにやるが、ちゃんとしたのを久しぶりに引きたいな。


「1枚ずつ引こうか」


 俺達は箱に50円玉を入れ、ボタンを押した。少し茶色がかった小さな紙が折りたたまれた状態で出てきた。


『おもいだすべからず』


 おみくじにはそう書いてあった。心拍数が上がり、背中から汗が出てくる。

 宮司さんが書いて入れたのか? 俺達に引かせるために? でも、俺達が来るということを知らなかったはずだ。元日に初詣に来たこともなかったし、当然「行きます」なんて連絡もしていない。


「おい、佑樹⋯⋯これ!」


 義浩のおみくじにも同じことが書いてあった。どういう仕組みで出てきたのだろうか。


 正直怖かったが、俺は2枚目を引いてみることにした。何枚も引くとおみくじの意味がない、という人もいるが、それどころじゃないだろう。


『吉 勉学に励むべし』


 普通のおみくじだ。もう1枚引いてみる。


『凶 努力を怠ることなかれ』


 さっきのおみくじは2連続で「おもいだすべからず」だったのに、なんで普通のばかり出てくるんだ。


「俺も引いてみる」


 義浩も50円玉を入れ、ボタンを押した。


『吉 友人を大切に』


 普通のおみくじだ。俺達はたまたま紛れ込んでいた変なおみくじを、2人連続で引いたってことか? そんなこと、あるのか? こんなタイミングで⋯⋯


 最初に引いたおみくじに目を向ける。


『凶 閭胙禍に触れるべからず』


 内容が変わっていた。こんな超常現象が起こるなんて、やっぱりこの神社はおかしい。

 そう思い、義浩のおみくじも確認しようと義浩の方を見た。


「え? あ、俺の? えっと、どれだっけ⋯⋯あれ? ない⋯⋯」


 失くしてしまったようだ。もしくは、消滅したか⋯⋯


 もう1度自分のおみくじを見てみる。


『凶 閭胙禍に触れるべからず』


 閭胙禍⋯⋯見たことのない字が並んでいる。いや、最後の『禍』の字、これは『禍』の旧字体じゃないか? あまりいい意味ではない字だったはずだ。


 『閭』も『胙』もまったく意味が分からない。義浩はこれらの漢字自体はなんとなく見たことがあると言ったが、閭胙禍がなんなのかは分からないそうだ。


 おかしなことがあって2人とも今日は疲れたので、このことを調べるのは明日からということになった。

 俺達は新神社の前でお互いに「じゃあな」と言って別れた。

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