新神社
親友の陽介が行方不明になり、もう2年と2ヶ月になる。村のみんなは諦めムードになっており、陽介の存在を忘れかけていた。だが、俺は違う。親友を忘れるわけがない。
そんなある日、義浩がおかしなことを言った。
「なぁ、やっぱりあの時陽介はいなかったと思うんだ」
あの時とは、俺と陽介と義浩の3人で神社で遊んだ日の帰りのことだ。俺は神社の前で3人で「じゃあな!」と言い合いその場を後にした、と記憶している。
義浩は、その時すでに陽介は居なかったと言うんだ。そんなバカな話があるか。もしそうなら、俺も義浩も気が付かないはずがないし、必死に探すだろう。
探した記憶すらないということは、陽介が行方不明になったのは俺達と別れた後だということだ。俺は義浩にそう説明した。
「そうかなぁ⋯⋯言われてみればそんな気もするかなぁ。記憶が曖昧なんだよなぁ」
続けて、義浩は言った。
「最近さ、俺の部屋で物音がするんだ」
「心霊的な話か?」
「ああ、畳を引っ掻くような音がたまに聞こえるんだ。しかも、陽介のことを考えた時に限って聞こえるんだ」
俺は義浩に腹が立った。これじゃまるで陽介はもう死んでいて、幽霊になって義浩の部屋に行っているみたいじゃないか。俺たちは親友のはずだ。親友なら諦めちゃダメなんだ。陽介は生きてる。必ず生きてる。
「陽介とは別だと思うが⋯⋯んで、実際に畳に傷はついてるのか?」
「いや、音だけなんだ。それと一緒に、男のうめき声みたいなのが聞こえることもあって。こっちはほとんど聞こえないレベルなんだけどさ」
正直俺は幽霊を信じていない。病は気からというように、幽霊も気の持ちようで見えたり聞こえたりするものなんだと思うんだ。
「だからなるべく陽介のことを思い出さないようにしてたんだけど、なぜか思い出しちまうんだ。あの時陽介が居なかったっていうのも、最近になって思い始めたんだ」
最近になって記憶が変わることなんてあるのか? あるとしたら、「思い出した」ということだろうか。もしそうなら、俺も忘れていたことになる。そんな重大なことを。2人揃って最近まで忘れてるなんて、有り得ないだろう。
「まあ悩んでてもしょうがないよ。気の持ちようで変わると思うから、常に楽しいことを考えてみろよ」
「お前はアレを聞いてないからそんなことが言えるんだ! お前は幽霊を信じないやつだもんな、そんなに深刻じゃないと思ってるんだろ!」
「いや、そんなつもりじゃ⋯⋯」
義浩は怒って自分の席に戻っていった。今日は終業式で、明日から冬休みだ。俺達は来年から受験生なので、自由に遊べる休みもこの冬休みが最後だろう。中にはもう受験勉強を始めてるやつもいるけど。
結局その日はそれっきりで、冬休みに入っても義浩と話すことはなかった。
しかし、大晦日に義浩からメールが来た。
『この前はごめんな。明日一緒に新神社へ初詣に行かないか?』
新神社とは、陽介と最後に遊んだ神社の名前だ。正式名称は祀神見社という。元々ここは廃神社だったのだが、5年ほど前に新しく建て直したのだ。
新築の匂いが心地よく、敷地に大きな舞台のようなものがあったので、そこでよく3人で遊んでいた。あんまりドタバタやるもんだから、宮司さんには何度も怒られた。
『俺の方こそ軽はずみなこと言ってごめん。そうだな、行こうか』
俺は自分にも非があると認め、謝罪のメールを送った。こんなわけで、明日義浩と初詣に行くことになった。
明日義浩と会ってくる、と家族に報告し、0時過ぎに新年の挨拶を済ませすぐに床に就いた。本当は友達にもあけおめメールを送って新年の挨拶をしたいのだが、この時間は回線が混み合うらしいので、メールは朝に送ることにした。
朝9時に新神社の前に集合の約束だったのだが、7時に目が覚めたので、散歩がてら早めに家を出ることにした。
15分ほど歩き新神社に着くと、宮司さんが1人で掃除をしているのを見つけた。カップ酒の空き瓶、おつまみが入っていた袋、みかんの皮、スルメなどが散乱している。
「ろぞわさま、すみません、すみません⋯⋯」
宮司さんはこんなようなことを言いながら箒でゴミを集めていた。
「おはようございます! 手伝いますよ!」
「おお、佑樹くんか、おはよう。手伝ってくれるのかい、ありがとうねぇ」
待ち合わせまでまだ1時間あるので、俺も暇なのだ。それにしても、朝も混むものだと思っていたのだが、参拝客が1人も居ない。
「もっと混んでると思いましたよ」
「昨日の夜カップ酒でみんなどんちゃん騒ぎしてたからねぇ、それで満足しちゃったのかねぇ。全く、罰当たりだよねぇ」
小さい村だし、そんなもんなのかな。実際俺も元日にお参り来たのなんて初めてだし、皆いろいろ事情があるんだろう。
そういえば、さっき宮司さんが言っていた『ろぞわさま』ってなんだろうか。
「宮司さん、ろぞわさまってなんですか? さっき掃除しながら呟いてましたけど」
「そんなこと言ってないと思うけどねぇ、聞き間違いじゃない? あ、でも私もだいぶ怒ってたから意味分からないこと言ってたかもねぇ」
なんだ、面白そうな単語だったから気になったのに。俺の聞き間違いか、宮司さんが適当に言った言葉なのか。
しばらくゴミ拾いをしていると、突然ある事を思い出した。あの日、陽介は居なかった気がする。来る時は一緒だったが、神社を出た後は居なかったような気がするのだ。
「宮司さん、陽介について何か新しい情報はありませんか?」
「それが、ないんだよねぇ。我々も警察も捜してることは捜してるんだけど、もう村の隅々まで調べつくしちゃったからねぇ。こうなると、村の外に行ってしまったのか⋯⋯少なくとも、村には居ないと思うんだよねぇ」
「そうですか⋯⋯」
俺は陽介がこの村の不満を言っているところを見たことがない。それどころか、いつもこの村のことを大好きだ、と言っていた。陽介の両親は彼が高校に上がってすぐに事故で亡くなっているので、彼はひとり暮らしだった。しかし、近所の人達が温かく接してくれるおかげで、寂しさもなく元気にやれていると言っていた。
そんな陽介が村を出ていくだろうか。誰かに連れていかれたんじゃないか? これは誘拐事件なんじゃ⋯⋯
「お待たせ! この間はごめんな! 待った?」
半袖半ズボンの義浩が現れた。義浩は太っていて、どの季節でも暑いと言っていつもこの格好なのだ。宮司さんは義浩を見て、「またその格好なのか」というような顔をしている。
「おはよう、1時間くらい待ったかな」
「えぇーっ! マジ!?」




