10
「ジンタくん意外と早かったのね……」
もう戻って来ないという思いがあったので、少し拍子抜けしてしまった。
「うん」
「家族は皆居たの?」
「居たよ。お父さんにお母さんに妹も」
「へえー、ジンタくんって妹居たんだ。何歳?」
「分からない。でもランドセルあったから……もう小学生みたい」
「小学生みたい?」
「僕の記憶だと、まだ妹が幼稚園だった頃の記憶しかないから……」
「そっか、ジンタくんはもう何年もここに居たんだね」
知らないうちに数年という月日が流れていたのだろう。
死んだ瞬間に幽霊の時間は止まる。
きっとジンタくんが生きて居たのなら、もう中学生になっていたかもしれないって事か……。
「お別れはちゃんと出来た?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「うん……だから僕をお祓いしてください」
「……わかった」
私は覚悟を決めた。
ジンタくんの覚悟が伝わってきたから。
私は印を結ぶ。
これ以上色々聞くのは、野暮ってもんだ。
「おねえさん……お祓いって痛いの?」
「安心してジンタくん。これは浄霊。痛くないから大丈夫だよ」
「わかった」
私はゆっくり目を閉じて、深く深呼吸して、そして祝詞を唱えた。
「カケマクモカシコキカシコキスワカイノオホカミツキシヒムカノタチバナノヒウトコ……」
徐々にジンタくんの気配が薄れて行くのがわかった。
「ミソギタマエシトキマセルオオハラエトオホカミヌシ……」
そのとき、ジンタくん声が聞こえた。
「ありがとう……また会おうね」
「モロモロトアガキシツミトケガレヲハラエタマヒキヨメタマへマホスコトヲキコシメセトカシコミカシコミモヲス」
私は目を開けると、ジンタくんの幽霊の気配はどこにもなかった。
それからしばらくは、ただ何もない公園のベンチで一人空を見上げていた。