6話 身バレ
「……その、引いたりしない?」
長い沈黙を、佑月が破った。
もともと男子なのに女子高に行くことや平然と女物の下着を身に着けていることで引かれ足りしないか不安で、佑月は恐る恐る聞く。
「……お兄さん、ちょっと来てもらえます?」
静寂に包まれる中、何かを思いついた唯奈は佑月を近くに呼んだ。
「な、なに……?」
恐る恐る唯奈の前に立つと、唯奈は徐に佑月の頭をその大きな胸に抱き寄せた。
「んんんっ⁉」
ふよんと柔らかい感触が服の上からでも伝わってくる。
「大丈夫です。お兄さんがどうであろうと、変な目で見たりはしません。あと、こうされた後に私を変な眼で見なかったらたぶん大丈夫です」
話すのに緊張するとか、女子を見るのが恥ずかしいとか、もはやそのレベルではない。
大きい胸を顔に押し当てられ、佑月は完全に固まってしまった。
そんな佑月を唯奈はそのまま抱き続け、緊張を解きほぐすように頭を撫でる。
「ぷはっ……俺これでも男だよ? なんとも思わないの?」
「思いませんよ。だって、お兄さんはお兄さんでも初めて話した私からすれば可愛い先輩です」
「かわっ——」
不意に可愛いなんて言われた佑月はまた顔を赤くした。
心春に可愛いと言われるのには慣れてきたが、さすがに他人に言われることにはまだ慣れていないし、仕方がない。ただ、こうやって照れる姿が可愛いのであって——
「私もぎゅーっ!」
男だろうが女だろうが、今可愛ければいいと、綾音は正面から佑月を抱き締める唯奈ごと照れる佑月を抱き締めた。
前からも後ろからも柔らかい感触がある。
「はいはい、それ以上はお兄の心臓が持たないから耐性がついたらねー」
心春は胸に挟まれて「はーなーしーてー!」と藻掻いている佑月から綾音を引き剥がして顔を真っ赤にした佑月を助けた。
「ほんと、心臓が破裂するよ……。それに、これでも俺元男なんだからもうちょっと恥じらってくれよ。前の俺の姿、一応知ってんだろ? もっと、自分を大切にな」
「お兄さん、私のおっぱいで興奮しましたか?」
「いっ、いや、流石にしてないけど……」
「ならパンツチェックを——」
「やめろ」
「あうっ」
パーカーの中に顔を潜り込ませようとする唯奈を小突き、パンツチェックを止める。
見られてはいけないものがあるわけでもないが、佑月には恥じらいがあるのだ。
ならばと唯奈が綾音に耳打ちすると、今度は綾音がスカートをたくし上げた。
「ゆっ、佑月先輩……ど、どうですか~?」
顔をほんのりと赤らめてもじもじしながら佑月にパンツを見せつける。
フリルがあしらわれた白いパンツに、恥じらう綾音。
どことなく大人っぽい雰囲気のある綾音のそんな姿は佑月にとって刺激的すぎて、咄嗟に目を逸らす。
「あっ、綾音ちゃん、私これでも男なんだからそういうの良くない……」
目を逸らしながらも、綾音のスカートを掴んでたくし上げる手をそっと下ろさせる。
こんな形で年の近い女子のパンツを見るのは初めてなのだが、不思議と衝撃以外は特になかった。というのも、全く欲を感じなかったのだ。
数週間程度女として生活してきたからか、肉体に精神が引っ張られたからか、佑月は男子的な性欲が薄れていた。
女の子になってから以前ほどの性欲を感じなくなっていることを佑月は薄々自覚していた。とはいえ一人でするときは相変わらず以前と変わらない漫画や動画を使ってはいたが、現実に対する興味は確実に薄れていた。だからと言って、男のモノに興味がわいたわけではない。
「信じてないのかもしれないけど、ほんとだからね?」
どんな証拠があろうと、そもそも非現実的すぎて綾音も唯奈もいまいち信じていない様子だ。
「二人とも、ああいうこと軽率にしないように。私が悪い事考えてたらどうするの?」
恥ずかしがって顔を赤くしていた佑月も、今は真剣に二人に説教している。
「人間、そんな綺麗じゃないんだよ?」
「……そうですね。気を付けます」
「うん、そうだね」
真剣な佑月の言葉で、二人は反省したようでしょんぼりしながらソファーに座った。
が、結局可愛いからと抱かれたり撫でられたり、膝に乗せられたりと完全に年下の可愛い女の子扱いされていろいろと納得いかなかった佑月だった。
※ ※ ※
「佑月先輩って口調はそのままなの?」
四人の佑月いじりが落ち着いてきたところで、綾音が聞いた。
「心春にもよく言われるから一応変えようとは思ってるんだけどなかなかね」
と、綾音の膝に座ったまま答える。
「なるべくこんな感じで女の子っぽくって言うか、男っぽさをなくすようには頑張ってるんだけどね」
「やっぱりその方が可愛いよ」
「やっぱりそう?」
もはや綾音の膝の上で、そして綾音に撫でられながら「可愛い」と言われてもまったく動揺しなくなっている。むしろ、この空間に馴染みすぎて「可愛い」と言われるたびに少し頬が緩むようになっているほどだ。
(お兄堕ちるのはっや……)
そんな佑月を見て、心春は呆れながらも可愛い姿を見て満足していた。
「もうこんな時間……みんなご飯食べてく?」
数時間ワイワイはしゃいでいると、日も落ちてきていた。
「私は頂いていきます。てか、お兄さんって料理できるんですね」
「暇なときにしてたからねー。ま、心春ほどはうまくないけど。それで、二人はどうする?」
なら私もと、二人も食べていくことになった。
早速佑月は準備に取り掛かり——
「ちょっとあれとあれとってくれない?」
「はいはい」
ニヤッとしながら、心春はいつものように高いところにあるものを取って佑月に渡した。佑月が面倒だ、元に戻りたいと思う数少ない悩みの一つだ。
「よし、今度こそ始めるよ!」
そう息巻いて、佑月は作業を始めた。
「おー、めっちゃ手際いい!」
「自由時間があるとこういうことも習得できちゃうからねー。あ、そう言えば親御さんに連絡しといた?」
「あ、忘れてた」
「しときなよー」
「ふふっ。お兄、さっきまで近所の小っちゃい子みたいだったのにいきなり年長者みたいなこというじゃん」
「そりゃ年長者だからね」
「一つしか変わらないくせに」
「ま、それもそうだけどね」
二人は所謂年子という奴で、学年が一つしか変わらない。佑月が中学生の頃は、心春が一学年下だったので、二年間一緒に登下校もしていた。
「あ、思い出した!」
突然、紗月が何か詰まっていたものが取れたように大声で言った。
「お兄さんってあのめっちゃイケメンの人だ! 去年こっそり教室に見に行ったんだった。あやちーも見たよね?」
「そういえばそうだね。確かイケメン高身長で……あと体育祭の時もなんかすごい活躍してなかったっけ?」
「体育祭?」
思い当たる節がない佑月本人が首をかしげる。
「……あー、ほらお兄あれだよ。リレーで一気に逆転したやつ」
「あー、あったねそんなの。終わった後クラスの女子に囲まれて怖かった……」
「そこでうれしいじゃなくて怖いなのほんとお兄らしいよね」
「ギャップ最高すぎ……考えただけでご飯三杯は行けそうです!」
よだれを垂らしながら親指をたてる唯奈と、大きく首を縦に振って同意している心春。
実際佑月が人気な理由の一つに「あの顔で女子の前だとオドオドしてて可愛い」というのもあった。もちろん狙ってやったわけではない。なんなら佑月の真剣な悩みだ。
「でも今の姿で女子に囲まれてキョドるお兄もなかなか……よくない?」
「わかる。最初とか超かわいかったし!」
そして、可愛いからと女子(特に紗月たち)との距離感が一気に縮まってしまったことも悩みの一つだ。
(可愛いかぁ……)
しかし、最近になって褒められることに喜びを感じるようになっている佑月は、少し口元を緩ませた。そんな自分にもどかしさを感じながらも、手を動かし続ける。
「見て、お兄ちょっとうれしそう」
「そういうとこですよねほんと」
「からかいたくなるでしょ?」
「なるね。あれはなっちゃうね」
などと、心春たちが小声で話していることに全く気付かず着々と可愛い子として認識されつつある佑月であった。
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