5話 女子になれる特訓
ある休日の朝、「お邪魔しまーす」という声とともに、宮野家に心春の同級生たちが来た。
「おにっ……ゆーちゃん、降りてきてー!」
佑月を呼ぶとき、一応「親戚の子の人見知り克服」と説明していたのでお兄でもお姉ちゃんでも佑月でもなく、ゆーちゃんと呼ぶ。
「はいはーい」
女子が来ると事前に知っていながらも、やはり気乗りしない佑月だが、この機会に慣れておかないとという事で、しぶしぶ部屋から出てリビングに降りた。
「……やっぱ寝る」
「あー、ちょっちょっと、せっかく皆連れてきたんだから上がらないでよ」
「この人が? めっちゃかわいー!」
染めたであろう綺麗な金髪に、女子耐性の低い佑月には刺激が強い露出高めの服、そしてすらりと細くきれいな足。
派手な見た目で少しテンションも高いが、この子はいい子なのだろうなとすぐわかる。
「いとこでしたっけ? なんか、庇護欲が湧きますね」
黒髪のおさげで眼鏡、露出の少ない服だが、その上からでもわかる大きな胸の気弱そうな少女は、佑月を見て少し紅潮している。
「引かれてるよ。二人とも」
そして最後、明るめの茶髪に大人っぽい清楚な服、気弱そうな子ほどではないが大きな胸と優しい声。まさに理想的のお姉さんと言った雰囲気だ。
「金髪のが紗月、おっぱい大きいのが唯奈、お姉さんみたいなのが綾音ね。みんないい人だから大丈夫」
「そ、そう……?」
過去のちょっとしたトラウマを思い出して、不安げに綾音たちを見つめる。
「あはは、めっちゃもじもじしてんの可愛すぎー」
「もー紗月、ゆーちゃんがビビってるから」
「ごめんごめん、でもマジでめっちゃ可愛いからさー」
「確かにゆーちゃんは小っちゃくて華奢な割におっぱいあって恥ずかしがり屋でなんだかんだ言ってこういう可愛い服とか着ちゃう可愛い子だけど、でもダメ」
「ちょ、心春……」
可愛いと言われて恥ずかしがるようになった佑月を、心春はいつものように揶揄う。
「と、とりあえず着替えてくる!」
着替えると言って、佑月は部屋に逃げ込んだ。
「ふぅ……」
自分一人しかいない安全な空間でパーカーに着替え、気を取り直してリビングに戻る。
「ただいま」
「そのパーカーって、もしかして例のお兄さんの?」
「ん、あ、ああ、そうだよ」
「はぁああああ、心春ちゃん、ゆーちゃんをウチにください!」
「ダメだから」
可愛くない服と思って地味なパーカーを選んだ佑月だが、デザインが地味だろうとだぼだぼなパーカーを着る姿自体が可愛く見られてしまい、特に紗月は舞い上がっている。
「心春……」
「とりあえず私の隣来なよ」
「うん……」
紗月から逃げるように、心春の隣に座った。
小春の隣に佑月、そしてローテーブルを挟んで正面に紗月、唯奈、綾音が並ぶように座っている。
一学年下でまだ中学生ではあるが、一歳しか変わらない女子を前ににすれば同級生と変わらず緊張してしまう。
「……皆受験生だよね。進路とか、きまってる……?」
とりあえず何かしら会話しようと、ちょうどいい話題を振ってみる。
「ウチはまだかなー。行きたいトコはあるけど行けるかびみょいし」
「私もまだです。というか、県外なのでなかなか決められないです。綾音は決めてましたよね?」
「決めてるよ。まあ今のとこ第一志望の星女だけだけどね」
星女——星乃森女学院は佑月が転校する予定の女子高だ。
「あ、私綾音ちゃんと同じだ」
「えー、そうなんだー! じゃあゆーちゃん、再来年くらいには私の後輩かな?」
年は教えていないものの、見た目で年下と思われているらしく、綾音は可愛い後輩が出来ると喜んでいる。
「星女受けるってことは綾音ちゃん、結構頭いいの?」
「そう、そうなの。あやちーめっちゃ頭いいの!」
佑月が聞くと、心春が食い気味に答える。
「みやのんってあやちーのことになるとなぜか自分のことみたいに言うよね。お兄先輩のこと話してる時みたいに」
佑月の知らないところで心春がよく佑月のことを話しているので、仲のいいグループの間では宮野先輩でも佑月先輩でもなくお兄先輩というあだ名がついている。
由来は心春がいつも楽しそうに「お兄がね~」と話しているから。
「あー、わかる。確かに心春ちゃんってお兄さんとあやちーのこと喋る時テンション高いよね」
「おっ、お兄の時はそんなことないし!」
佑月の前であんなことを暴露されるのはさすがに恥ずかしく、咄嗟に否定する。
「ウチもあんなお兄さん欲しいなー。心春ちゃん、超羨ましい」
「みんなに自慢できるようなお兄さん、いいですよね」
心春の顔がだんだんと赤くなっていく。
それに気づくことなく、紗月と唯奈は心春が学校で佑月のことを話しているときののろけのような雰囲気を語り、とうとう心春に限界がきた。
「もー、お兄がいる前でそう言うこと言わないでよ! は、恥ずかしいじゃん……」
ついここに佑月がいると言ってしまったこと気が付き、心春は咄嗟にフォローしてほしそうに佑月に視線を送るが、その佑月がどうも心春以上に焦っている。
「お兄先輩いるの?」
「あっ、いや——」
どう誤魔化せばいいかすぐには思い付かず、心春の目にうっすらと涙が浮かぶ。
心春は三人によく家族のことを話していて、昔遊んでくれた従姉の話や一穂の話もよくするので、三人とも佑月の家族については概ね知っている。
そんな彼女らに「親戚の子」というという設定は少し無理があった。今まで一度も同い年か年下の子の話など出たことはないのだ。
「その子がお兄さんだったりして?」
そんなことはないだろうとは思いながらも、そういうジャンルの漫画にも精通している唯奈が冗談めかして言う。
「…………」
言い当てられてしまって、佑月も心春も気まずそうに唯奈から目を逸らす。
「え、マジなんですか?」
冗談で言っているとも思わずに、バレたなら仕方ないと佑月はこくりと頷いた。
「え、じゃああのイケメンお兄さんは……」
「この可愛いのがお兄……」
「うん。その、実は私が——俺が心春の兄なんだ。なんかいきなりこうなっててさ。ほら、そのここも……」
自ら切り出したものの、喋っているうちにどうやって証明しようかと考え始めた佑月は、何を血迷ったのか、ワンピースのようになっていたパーカーをめくった。もちろん、その下は下着だけだ。
「ゆーちゃん……佑月先輩? とりあえずパンツ隠して!」
綾音に指摘されて我に返った佑月は、顔を真っ赤にして下着を隠した。
再び気まずさから黙り込み、今度は心春から切り出した。
「お兄がこうなったのはほんとなの。女子高に行くってのは学校で先生に勧められたからで、別に変な意味とかないから。この通り、お兄女子苦手だし」
あくまでも先生に勧められたことで、むしろ佑月自身少しためらっていたのだと伝えるために、女子高に転校することになった経緯についても三人に説明した。あの件を話すことについては、佑月も同意している。
「もしかして最初逃げようとしたのって……」
「ほら、お兄女子苦手って言ったじゃん?」
心春がよく佑月のことを話しているし、もとは同じ学校の先輩だったので佑月が女子が苦手ということは三人とも知っている。
「一応、これ……」
冷静になってこれならと思い付いた佑月は、新しい保険証を見せた。
「本物なん?」
「うん。ちゃんと私の。偽造とかでもないよ」
流石に手の込んだドッキリには思えないし、ゆーちゃんと呼ばれる子がいるという話も聞いたことがなかったので、半信半疑ではあるがひとまずは今の佑月と自分たちが知っている心春の兄は同一人物なのだろうと納得した。
しかし、いまいち理解が及ばず、気まずさもあって少しの間リビングは静寂に包まれていた。
レッツメス堕ち




