23話 温泉旅行
お待たせしました
イチャイチャ回です
クリスマスも終わり、家族でいられる時間もあと少しになった。
二十六日からの一泊二日の温泉旅行が終われば琉莉たちは実家に帰らなければいけないので、冬休み中一緒に居られる時間はこれで最後になる。
そんなわけもあって、温泉の一室で佑月は琉莉に引っ付きっぱなしだった。
足の間に座っているのはいつものことだが、今日は琉莉のほうを向いてずっと抱き着くように座っている。
「……お兄、今日琉莉姉とイチャイチャしすぎでしょ。キツいんだけど」
「キツっ……」
「いいじゃない、妹みたいで可愛くて」
琉莉はキツいと言われてへこむ佑月の頭を撫でながら庇う。
「そりゃ琉莉姉からしたらそうかもだけど私からしたらお兄ちゃんなんだよ⁉ この抱き着いてるのが半年くらい前まで高身長イケメン男子だったって考えたらキツいよ! イケメンでもきついよ! それに琉莉姉も私のお兄を甘やかしすぎないで!」
「えー、いいじゃない。明日で最後なんだから。もしかして、心春ちゃんも来たい?」
「違う。もー、お兄返してよ!」
「心春、おいでー」
佑月は座る向きを変えると、両手を前に広げて心春を呼んだ。
今日はこれまでずっと琉莉と一緒に居てなかなか佑月と話せなくて寂しかったことをなるべく隠しながらも、素直に佑月に抱き締められに行く。
「心春もまだまだ妹だよねー」
「お兄には言われたくないし」
「色々あって心春もすっかり大人になったかと思ったけど、昔みたいに私が誰かと二人きりで仲良くしてたら拗ねるのは変わらないんだね。やっぱり心春は私の可愛い可愛い妹だ」
「ちがっ、あっ、うぅ……」
違うとは言い切れずに黙り込んでしまった心春を慰めるように、ゆづきは頭を撫でる。しかし、原因は佑月である。
「頼れるお兄ちゃんだったゆーちゃんも、今じゃすっかり甘えん坊さんの可愛い妹ね」
「そうだよ! お兄だってすごい甘えてるじゃん!」
「琉璃姉だからいいのー」
「あやちーにすぐ懐いたのがお姉さんっぽかったからっての、知ってるんだからね」
「それは……」
素直な心春を揶揄っていたはずが、瑠璃の一言でいつの間にか形成が逆転し、佑月が心春に攻められる番になった。
「それにお兄が由夏さんとかあやちーと通話する時甘え声になってるの知ってるんだからね!」
「な、なってないし……」
「琉璃姉の時もすっこいあざとい声になってるよ。姉ならなんでもいいのかこの姉たらしめ」
「こ、心春だってそんなこと言いながら私にぎゅってされたままじゃん! ブラコン!」
「犬みたいにずっと琉璃姉についていってるシスコンお兄に言われたくないよ!」
「まあ、私からしたら二人とも甘えん坊な可愛い妹だけどね。でも、ゆーちゃんって妹っていうよりは本当に甘えん坊な子供よね」
「お兄ちっちゃいもんねー」
「心春よりおっぱい大きいけどね」
「あー、それ言っちゃうんだ?」
胸のことをいわれ、心春の声のトーンが露骨に下がった。
「私より女子歴短いくせに胸だけは立派に育ちやがって! 全体的にママっぽいのに胸だけパパのほうの血継ぎやがって! ふゆ姉も風香ちゃんもおっきいのに何で私だけ!」
「そのうち育つんじゃないのー?」
最後は適当にあしらいながら、心春の頭を撫でて宥める。
「あの二人見てると祐也のこと思い出すね」
「そうだねー。お兄ちゃんも言い返しては来るけどいつも本気じゃないしちょっと子供っぽいし……あはは、思い出したらちょっと涙が……」
「典型的なバカだけどいい奴タイプだったな」
「源祐さんと祐也、仲が悪かったのにお互いしっかり認め合ってたね。あー、懐かし」
冬姫たちが思い出話に浸って言えると、いつの間にか佑月たちも落ち着いて、胸の話繋がりで温泉について話していた。
「お兄もう人に見られても恥ずかしくないの?」
「温泉なんてそんな人の身体じろじろ見ないだろうし大丈夫。むしろ私のほうが目のやり場に困るというか……」
行く前は全く考えていなかったことだが、いざ来てみればそのことが気になってしまう。
「それこそじろじろ見なきゃ大丈夫よ」
「そっかー」
「あら、案外あっさりしてるのね」
「まあそのうち見ることになるだろうしねー」
日に日に精神が身体に合わせられてきたのか、単に慣れてきただけなのか、佑月は特に迷うことなく温泉に入ることを決めた。
もっとも、入る気があるから旅行に行ったわけだが。
「少し休んだし、そろそろ入りに行くか?」
「行くー」
温泉の近くにある観光地を巡ってからここにきてかれこれ三十分は経つので、そろそろ温泉に入ろうと部屋を出た。
「うわ、若い子がいる……」
脱衣所に入った途端、佑月の足が止まった。
冬休みなので家族旅行だったり友人との旅行だったり、佑月と歳の近い女子が何人かいた。
当然向こうからは特に気にされることはないが、元男の佑月自身からして見れば、堂々と女湯を覗こうとしている変質者だ。
少なくとも今はこれでもいいのだと分かってはいても、初めてのことなのでいざ実際に見てみるとどうも気が引けてしまう。
しかし、この光景に興奮するわけではなく、単に恥ずかしいだけなので特に思うことがない心春の隣で息をつく。
「おにっ……お姉ちゃん、脱がないの?」
「せめて水着とか……」
「ダメって書いてあったしまずもってきてないでしょ。ほら、脱いで。はい、ばんざーい」
「ちょ、自分で脱ぐから服脱がそうとしないで!」
佑月は諦めて服を脱ぎ、心春の後ろに隠れるようにして浴場に入る。
なるべく周りを見ない様に、そして見られない様に心春の後ろに隠れながら琉璃の近くに座り、ほっと一息ついた。
シャワーの前なら見えるのは壁と鏡、両脇には琉璃と心春がいるので安心だ。
そこで頭と体を洗って髪をまとめて、人の少ない露天風呂の方に出る。
「うわー。めっちゃ絶景!」
外に出て心春が真っ先に景色を見に行く。
「心春、風邪ひくよ」
「いやん強引!」
全裸で体を震わせながらも、露天風呂から見える絶景を堪能する心春の手を引っ張って、温泉に入らせる。
「温泉に浸かりながら見る景色もなかなかいいねぇ……」
「……心春、そのセリフせめて私じゃなくて向こうの景色見ながら言わない?」
「えー、だってお姉ちゃんも絶景だよ?」
「変なこと言うな変態!」
佑月はなんとなく危機感を覚えて咄嗟に腕で胸を隠した。
「あっ、そうだ」
何かよからぬことを思いついた心春は、寒さを我慢して縁に座り、股の部分に手で湯を注いだ。
「みてお姉ちゃん、わかめ酒」
「わかめも何もツルツルじゃん」
「地味に気にしてるんだから言わないでよ」
「じゃあそんな変なことしないの。ほら、ほんと風邪ひくよ寒いんだから」
心春を宥めて、しっかり肩まで湯に浸からせる。
(心春に恥じらいはないのか……)
佑月が我が妹ながらとんでもない子に育った物だと頭を抱えていると、扉が開く音がした。
「うわっ、さむ~」
「けどめっちゃいい景色~!」
知らない声がして、佑月はとっさに心春の手を握った。
来た人のほうを見ないように景色を眺めながら、温泉を堪能する。
知らない大学生くらいの女性が全裸で同じ空間にいるせいで妙に落ち着かない。
「……あのっ、もしかしてみゃーのんですか?」
心春の存在に気付いた女性たちが、近くによって来た。
SNSで「みゃーのん」のハンドルネームで活動し、学生の間ではそこそこ有名で顔も知られているので、タイミング悪く気付かれてしまったのだ。
「そうだよー」
「じゃあとなりはお姉さんだ! やばー、会えるとは思わなかった!」
女性たちはファンに会えて大興奮の様だが、佑月は目の前に全裸の女性がどこも隠さずに立っていて、目の前に胸があるせいでろくに目も開けられないでいる。
「やばー、生で見たらめっちゃ可愛い!」
「ふふっ、ありがとー。でもお姉ちゃんが恥ずかしがりやだから、話しかけるなら私一人の時にしてね」
「あっ、は、はい! あの、これからも頑張ってください!」
「うん。ありがとう! これからも応援してね」
流石にここに居続けるのも気まずいだろうと、心春は佑月の手を引いて室内の温泉に入った。
二人きりでいると面倒なことになりそうなので、琉莉の隣に座る。
「ゆーちゃん。外はどうだった?」
「寒い……けど、やっぱり綺麗だったよ」
「そう。じゃあ見に行こうかしら」
露天風呂の景色が綺麗で話題の温泉とは言え、厚着しても寒い外に全裸で出るのは躊躇われると室内でゆっくりしていた琉莉と、それに続いて冬姫と風香も露天風呂のほうを見に行った。
「外すごかったねー」
「心春が変なことするからすでに景色も曖昧なんだけど?」
佑月は心春をジト目で見ながらそう返す。
「あはは、ちょっとやりたくなって」
「私の前以外でそういうことしちゃダメだよ?」
「はーい」
「よろしい。じゃあ私そろそろ出るね」
「あ、なら私も」
佑月が露天風呂でくつろいでいる琉莉たちに「先に出ている」と一言告げて温泉から出た。
浴衣に着替えて髪を乾かし、一足先に部屋に戻る。
(やっと落ち着ける……)
「お兄顔真っ赤じゃん」
「だって……」
女性の裸で興奮してしまうというわけではないが、女性への耐性がまだ低く、身内以外では下着姿を見て少し赤くなってしまうレベルの佑月は、心春のファンだという女性の胸を思い出してしまって顔を真っ赤にしながら部屋まで戻ったのだった。
インプット不足で書いたり消したり繰り返してました
次の話は少し早めに更新できると思います!
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