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TSしたら女子高に通うことになった件  作者: cvおるたん塩
第二章 女子高に転校した件
18/25

17話 修羅場な夜

長くなりそうなので分割前編

「じゃあ行ってくるね」

「行ってらっしゃい。頑張ってね」


 進路やそれに向けた勉強が終わった心春は、中学校のテニス部のコーチとして一泊二日の合宿に呼ばれ、一日家を空けることになった。

 一時期学校を休んでいた佑月は昼間1人きりでいることには慣れているのだが、夜はそうではない。過去のトラウマのせいで、未だに夜一人でいることができないのだ。

 しかし一日くらいなら大丈夫だと、何も言わず心春を送り出した。


(何しようかな……)


 一穂は朝から由夏とデートに、茜は一人で小旅行、綾音は暇になったからと心春のサポートで一緒に合宿に、紗月と唯奈は家の用事で呼べる人が誰もいない。しかし、一人でゲームをするのはつまらないと、ひとまず昼まで寝ることにした。

 そして昼過ぎ。

目を覚まし、適当に作った昼食をとりながらスマホをチェックしていると、「パイセン練習付き合ってください」とメール(メッセージ?)が来ていた。

送ってきたのは一穂経由で知り合った柚子と言う二個下の女子だ。まだ付き合いは浅いが、佑月がゲームのプレイも教えるのも上手いと聞き、こうして誘ってくることがあるのだ。

 どうせ今日一日暇だからと誘いを受け、ゲームを起動した。


「パイセンやっほー」


 ゲームの待機ロビーに入ってすぐ、柚子がそこに入ってきた。


「おはよう柚子ちゃん。今日は配信いいの?」

「はい、今日は動画の日なので」

「そっか。じゃあいっぱいできるね」

「今日でづほさんを捻り潰せるくらい上手くなっちゃいますよー!」

「あはは、じゃあ私も、頑張って教えなきゃね」


 柚子と一穂がコラボ配信をしてその流れで佑月とも仲良くなって以降、柚子に「一穂に勝ちたい」と言う意識が芽生えた。それがきっかけで、一穂が絶対勝てないとすら言う佑月に教えてもらうため一緒にゲームをするようになって、今に至る。


「先輩、私の方がキル数多かったら結婚してください」

「じゃあ逆に私の方がキル多かったら何してくれるの?」

「結婚してあげます」

「逃げ道なしかー。式に向けてお金貯めなきゃね」


 そして、教えているうちに仲良くなって、こんなやり取りもするようになった。


「柚子、編集するからパソコン貸して」

「んー」


 試合中、佑月が集中して敵を探していると、柚子の方から男子の声が聞こえてきた。


「彼氏?」


 誰の声なのか気になる佑月は、率直にそう聞く。


「ううん、弟。って言っても血は繋がってないし苗字も違う幼馴染兼弟ってて感じですけどね。複雑な家庭の事情って奴です」

「ふーん。言っても大丈夫なの?」

「まあ配信でも割と言ってますし」

「そうなんだ」


 敵が来ない安全な家にいるからと、佑月はゲームの操作をやめ、柚子の弟について軽く調べた。


「……弟くんも親いないんだね」

「調べるのはやっ。まあそうですねー、てか、もってことは先輩もなんですか?」

「うん。昔死んじゃってね。それで妹もいるから私がずっとお姉ちゃんしてた。だから私、柚子ちゃんとも弟くんとも仲間だね」

「お姉ちゃん同士、これからさらに仲良くなれますね」

「だねー。お姉ちゃん同盟結成だ」


 こうして、新生お姉ちゃん同盟の二人は、日が暮れるまで同じゲームを続けた。




「ふぅ、おつかれ」

「お疲れ様ですー。結構やりましたね」


 午後七時過ぎ、ようやく二人はゲームを終えた。


「柚子ちゃんはこのあとどうするの?」

「勉強ですかねー。先輩はどうするんです?」

「私は……何しよっかな。今日は一人だしやることないかも」

「づほさんは?」

「出かけてる。今日は遅いかもって」

「……もしかして、寂しかったり?」


 ふと思い、柚子は揶揄うように言う。


「まあ、そうだね」

「あ、普通にそうなんだ。もし何かあったら私もいるしづほさんにもビシッと言っておくんで安心してください!」


 揶揄ったつもりが予想外の反応が来たので柚子はひとまず励ましておいた。


「あはは、ありがと。柚子ちゃん、私なんかよりよっぽどお姉さんらしいね。それじゃあまたね」

「あ、はい。ありがとうございました」


 テロン、という効果音とともに、佑月は通話を終わる。


「ご飯作ろ……」


 通話が終わった途端、孤独感に苛まれる。

 しかし、そろそろ心春がこの事を気にせず好きにできるように慣れねばと思い、どうにか堪えながら、夕飯の支度を始めた。

 近くをトラックが通る音や近所の誰かの声が怖いとイヤホンを付け、料理を再開する。


(心春、大丈夫かな……)


 音が聞こえなくなっても、不安になる要素は沢山ある。


(ちょっと心春に電話——)


「よう佑月」

「んにゃあああああああ⁉︎ か、一穂……驚かせるなバカ!」


 心春に電話をかけようと手を洗っていたところ、突然一穂が現れたことに驚き、佑月は悲鳴をあげる。


「すまんな。まあ元気そうで何より……ってわけでもないか」


 一瞬驚きはしたものの、一穂が来て安心した佑月の目にうっすらと涙が浮かぶ。

 それを隠すように、一穂の背中に周り、顔を隠すように後ろから抱きついた。


「お兄ちゃん、疲れたか?」

「うん」

「じゃあ今日は休業だな」


 一穂は佑月の頭を軽くぽんぽんと叩き、優しく背中きら離れさせる。


「あとは俺がご飯作っとく……って、ほぼ出来てんのか」

「楽に作れるやつにしたから。ちょっといる?」

「余ったらもらうよ」


 一穂が来て少しは落ち着いた佑月は見守られながら夕食を取り、軽く休んで風呂に入ることにした。


「久々に一緒に入る?」

「お前にちんこが生えたらな」

「生えたらかー。って、誰か来た……」


 風呂に入ろうと髪を下ろし、部屋着を脱ごうとしていたところで誰かが訪ねてきた。


「一緒に出て」


 一穂が来て落ち着きはしたものの、それでも離れるのはまだ怖くて服の裾を掴み、後ろをついて行くように一穂リビングに向かう。


「開けて」

「どちらさ、ま……」


 前にいる一穂に扉を開けさせると、そこには由夏が立っていた。


「一穂くん?」


 デート直後に友達と——別の女と一緒にいる一穂を見て、由夏の表情が険しくなる。


「由夏ちゃん……」

「やっぱ帰るね」

「まっ、ち、違っ——」


 佑月の言うことを聞こうともせず、由夏は踵を返した。


「……待って!」


 佑月は帰ろうとする由夏をはだしで追いかけ、引き留めようと腕をつかむ。


「……なに?」

「お願い、待って。……ちゃんと、説明する。だから、まだいてほしい……」

「……」


 震える手で掴まれ、そして震える声でそう言われて断れず、由夏は佑月の部屋に上がった。


「で、どういうことなの?」


 佑月とその隣に座る一穂を睨んでいるような、悲しんでいるような目で見ながら問う。


「知り合いに行ってあげてって言われたんだ。由夏もそうだろ?」

「そうだよ。でも一穂くんは私の彼氏で、宮野さんは女子じゃん。私とじゃ訳が違うよ」

「それは……」


 佑月は男だから——何で暴露できるわけもなく、一穂は黙り込む。


「それもデート直後ってどう言うこと? しかも宮野さんも普通にくっついてさ。幼馴染とはいえ一穂くんは私の彼氏なんだよ⁉︎」

「……ごめん」


 誤解を解きたいが、どうしても一穂との関係を告白する勇気が出ず、ただ謝ることしかできない。


「一穂くん、やっぱり私より付き合いが長い宮野さんの方がいいの?」

「いや、そうじゃない。ほんとにそう言う関係じゃないんだ。その、男友達ってか……」

「男友達だとしても異性でしょ? 距離感おかしいし」

「……まって由夏ちゃん。ちゃんと……ちゃんと、説明するから」

「なに? 何か言い訳があるの?」


 一穂が責められていることに堪えられず、佑月はようやく決心した。


「その、男友達って比喩とかじゃなくてほんとにそうなの。信じられないと思うけど、私八月までは普通に男子で一穂とも普通に男同士の幼馴染って感じで……」

「いや、わけわからないよ。そんな謎現象、漫画の中だけでしょ」

「私だってびっくりしたよ。朝起きたら突然こんな姿になってるし、そのせいで変なことされるし、今だって……」

「もう少しマシな嘘ないの?」

「嘘じゃない! 心春に聞いたらほんとだって言うよ。琉璃姉も前の学校の先生も、星女の先生たちだってそのこと知ってるし。だから……」


 所詮言うだけなら口裏を合わせたら誰でも同じように証言してくれて証拠にはならないと分かってはいても、それしか言えることはなく、必死に訴える。

 しかし、由夏は初めから佑月の存在を知っていた心春の友人達とは違い、由夏にとっての佑月は女子だ。前の姿なんて知らない、そもそも以前の宮野佑月という存在すら知らない。女子として接してきた友人が実は元男で突然女子になりましたなんて、信じられるはずもない。


「着替えの時過剰に恥ずかしがってたのって……」

「見られるのになれてないし、男に着替えなんて見られたくないだろうから……」

「ちょっとまって……」


 漫画のような、誰かの作り話にしか聞こえない話ではあるものの、佑月が嘘を言っているようには見えず、混乱してきた由夏は頭を抱える。

 それは、佑月が元男であると言われて納得できることも幾つかあったからこそだ。


「……これ、修央のの制服。あと中学の時のノートとかも」


 ふと思い出し、佑月は押し入れにしまってあった男子校時代の制服やノート、その他の物を出して由夏に見せた。


「たしかに宮野さんのっぽいけど……」


 男子にしては可愛いが、今の佑月にはぴったりな筆跡やわかりやすくまとめられたノート。到底言い訳の為に作れるような代物ではないし、一ヶ月程度とはいえ学校では一番佑月に近かった由夏にとってそれは、十分な証拠になった。


「……男子がそんなに可愛いとか納得いかない」

「そんなこと言われても……」


 ひとまず男だったということを信じた由夏だが、さすがに可愛さには納得できなかった。


「いやそうじゃなくて。もう宮野さんが男だったってことはいいの。でも一穂くんと宮野さんが仲良すぎるのは嫌……」

「……そりゃそうだよな」


 佑月が男だとしても見た目は女。たとえ幼馴染であろうと、彼女から見れば浮気しているように見えるのも仕方のないことだ。


「これからは気を付けるよ。ただ、一応家の事情のこともあるからそこは見逃してくれないか?」

「家の事情?」

「ああ。話していいか?」

「私が話すよ」


 由夏に話すのは少し気が引けて若干躊躇うが、こほんと軽く咳払いして、過去のことを話し始めた。


「私、親がいないから昔一穂の家で過ごしてたことあるの。まあ夜だけだけどね。だから中学生になった時もちょくちょく心春の面倒見に来てくれたり私が風邪ひいたときに時にお見舞い来てくれたり、あとは時間がるとき家事手伝ってくれたりとかも。それでその、夜はちょっとダメだから私一人の時はいてもらってたりも……。でも、もうそういうのも控えたほうがいいよね」


 理由を聞くと「一緒にいないで」とも言えず、由夏は黙り込む。

 ここまでの事情は知らなかったが、由夏も佑月の事情をある程度は把握していた。家事や心春の受験勉強の手伝い、そして時間ができてもまだ人があまり得意ではないから部活に入るのを躊躇っているということ。

 それに加えてこんな話を聞くと、私の彼氏だからと一穂を佑月から遠ざけようとするのも気が引ける。


「その、なんで夜がだめなの? 夜まで一緒にいなきゃダメ?」


 それでも一穂を取られてしまう気がして、そんなことを聞いてしまう。


「できれば、誰かといたいかな」


「一穂と」ではなく「誰かと」。その答えに安堵し、由夏は提案する。


「私も一人暮らしでちょっと寂しくなる時もあるから何かあったら私も行く。だから二人きりの時にさっきみたいに引っ付くのはやめてほしいな」

「うん」

「それと一穂くん」

「なんだ?」

「私が彼女だってこと、忘れないでよ」


 浮ついているわけではないとわかりつつも、しっかり念押ししておく由夏。そして佑月以外にも、柚子とコラボして以降オフでゲームをしたり、別の女性配信者とコラボしたりと思い当たる節が多い一穂は、弱弱しく「はい……」と頷いた。



 十時過ぎ、疲れていた佑月はそうそうにベッドに入ったが、先の不安のせいで一人で眠れない佑月は、由夏と一緒に寝ることにした。

 元男とはいえ女子である佑月しか知らない由夏は躊躇うことなく、一穂も「任せたぞ」とその状況を完全に容認している。

 隣に人がいて落ち着いたのかすぐに眠った佑月の寝顔を見ながら、由夏は軽く頭を撫でた。


(元男ねぇ……)


 佑月が嘘をついているとは思っていないし、言ったことを信じてもいるが、どうしても突然の性転換という事象が理解できない。今こうして佑月同じベッドにいられるのは、そのおかげでもある。


(でも、宮野さんは宮野さんだもんね……。でも、一穂くんにはあんなこと言っておきながら私がこうしてるの、ほんとにいいのかな……)


 しかし、男だったと考えると、今までのように接していいものか考えてしまう。

 佑月は佑月。とはいえ元男なら一穂がどう言おうとやっていることは浮気と大差ない。いくら一穂が許しているとはいえあれほど怒って、「私が彼女だってこと、忘れないでよ」とも言った手前、許しを得たからと軽率なことはできない。


 今だって抱き枕にしたいが、そんなのはもってのほかだ。


「うぅん……ゆかちゃん、いかないで……」

「大丈夫だよ、どこにも行かない」


 由夏は寝言にそう答え、迷いを捨てて佑月を抱きしめた。


「大丈夫、私もあーちゃんも、心春ちゃんたちもいるから……すぅ、すぅ……」


 佑月の抱き心地がよく、由夏はそのまま眠りについた。



「んっ……っう~~!」

「ふあぁ~……おはよう宮野さん」

「おはよう……」


 朝、カーテンの隙間から差し込む日差しで佑月と由夏は目を覚ました。

 由夏は体を起こそうとするが、まだ眠たい佑月は由夏をがっちりと掴んだまま寝転がっている。


「宮野さん、起きないの?」

「起きたくない……」

「そっかぁ」


 朝に弱く、起きなければいけない理由がないと気分的に起きられない佑月は由夏に抱き着いたまま動こうとしない。


「お姉ちゃん……寝よ?」


 寝ぼけているせいか、由夏をそう呼んで一緒に寝ようと促す。


「えー……じゃああと一時間だけね」

「うん……」


 起きられそうにないと判断した由夏は、そのまま佑月を抱き返して仲良く眠る。

 丸めた布団を抱いて寝るときより落ち着くようで、佑月は安心しきった幸せそうな顔だ。


レポート終わりましたが鬱りました

なんとか投稿作業だけはします

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