17.マジックショー開演!
──
そして迎えた次の日。俺達は約束のあの場所へと集合していた。
「よーし、いよいよだねシュン君!」
「あっ、ああ……そうだな」
「あれっ? シュン君緊張してるの? でもあれだけ練習したんだし、きっと大丈夫だよ!」
「うん、いや、あのさ、ヒナノ……」
俺はキョロキョロと周囲を見渡す。うん。やっぱりこれ……
「……俺達、めちゃくちゃ目立ってない?」
ここは馬路軽病院ロビー前。マジックの衣装を身にまとった俺とヒナノは、椅子に座って高円寺を待っていたのだが……
どうもさっきから視線を感じている。これは自意識過剰とかそんなレベルではなく、前を通る人は皆、俺達の方を振り向いているのだ。
言わずもがなだけど、原因はこの衣装だろう。病院と言う場所で、明らかにそぐわない格好している人がいたら、誰だって見るよ。
それに服の半分以上は黒いし。これは怒られても、追い出されても何も言えねぇよなぁ……と思いつつ、ヒナノの方を向く。
「し、シュン君! そんなこと言わないでよ! 私、気にしてないフリしてたのに!」
そしたらヒナノは顔を赤らめて、俺の身体を優しくポコポコ叩いた。どうやらヒナノは吹っ切れて気にしてないフリをしていただけだったらしい。これは悪いことをした。
「いや……ごめんよヒナノ」
「うう……こんな人がいっぱい居る病院って知っていたら、こんな目立った衣装、着たまま来ようなんて言わなかったのに……」
ヒナノはヒナノなりに後悔しているらしい。でももう俺達は着てしまっているんだ。後戻りはできねぇよ。
「つーか高円寺はまだなのか? あいつが来ねぇと、俺達は病室に入れねぇし……」
「あっ、シュン君あれ!」
そうやってボヤいていたら、ヒナノが正面玄関の方を指さした。俺も首を上げてそっちに視線を合わせると……何やら見知った人物が愉快そうに歩いてきて。
「んははっ! あいのーん達、何その格好!」
と、完全に馬鹿にしたように手を叩いて、ゲラゲラと笑う高円寺が、俺らの目の前までやって来た。
「おう……来たか。早く行こう」
いちいち説明するのも面倒だと思った俺はその問いには答えず、颯爽と立ち上がって、先へと進もうとする。
「え? ねぇねぇヒナヒナ? それって何かのコスプレ……」
「うん、じゃあ行こっか、心美ちゃん」
ヒナノも答えることなく、俺の横に並んでスタスタと歩いて行く。どうやら一刻も早くこの場から離れたいと言う気持ちは、ヒナノも同じみたいだ。
「えっ、ちょ……えぇ? あとそっちじゃないんだけど……?」
そして若干困惑気味の高円寺も、後から追いかけるように着いてくるのだった。
──
そして結局高円寺を先頭に案内してもらい、エレベーターで上昇し、廊下を歩き……弟君の病室の前まで来た。
「今更だけど高円寺、弟君は俺達が急に来ても大丈夫なのか? もし寝てたりしたら……」
「あーそれは大丈夫だよ。今日連れて来るって伝えてるし。それに『あいのーんはまだ?』って毎日のように言っていたから、いつ来ようと絶対喜ぶよ」
それを聞いて俺は拳をギュッとする。ああ、そこまで楽しみにしてくれたのか。それなら尚更、頑張らなくてはな。
「で。あいのーん達は何でそんな格好……」
「よし、シュン君! 頑張ろうね!」
「ああ!」
そのまま俺達はグータッチをした。これはマジックをやる前にする、俺達のルーティーンとなった行動だ。
ほんの少しでもヒナノに触れるだけで。それだけで俺の……俺達の心は穏やかに。落ち着いた気持ちになれるのだ。
「……」
そしてヒナノにまで無視されてしまった高円寺は、若干機嫌が悪そうな態度でガラガラっと扉を開き。
俺は《ヒナノを除いて》数年ぶりにお客さんの待っている『ステージ』へと足を進めたんだ。
──
「ん……あっ! あいのーんだ!?」
病室に入って弟君はすぐに俺の正体に気付いた。まぁ、別に変装をしている訳じゃないから、当然っちゃ当然なんだけどね。
歩いて立ち位置についた俺は口を開く。
「久しぶり、少年……俺はマジシャン、藍野隼也だ。そしてこっちが」
「助手のヒナノです! 今日は誠也くんを不思議な奇術の世界へご案内するよっ!」
「「はいっ!!」」
そして俺達は両手でステッキを掲げ、ヒーローみたいなポーズを取った。無論、これは台本通りである。
「……えぇ?」
横から高円寺の冷ややかな視線が伝わってくるけれど、お前に見せてる訳ではないのでノーダメだ。
「わぁ、かっこいい……!」
ほら、弟君には好評だぞ。
「最初は身近な物からいこうかなー! うーんと、面白い物はどこにあるのかなー?」
次にヒナノは手を額に当てて、物を探す素振りを見せる。
……マジックショーの進行はほとんどヒナノに任せてある。ヒナノは俺よりも喋り、演技が格段に上手く、世界を作り上げる素質があると確信しているからだ。
──ほら、もう惹き込まれている。
「あれれっ!? こんな所にスプーンが置いてあるよ!」
「えっ!?」
弟君の足元にあるテーブルには、スプーンが2つ並べられていた。
ミスディレクション。ヒナノに視線を奪われている間に、俺がこっそりと置いた物だ。
「よーし、せっかくだからこれを使っちゃおうかな!」
ヒナノは左のスプーンを手に取って、おかしな所が無いかを確認させる。そして。
「ふぅーっ」と息を吹きかけながら、スプーンの先端を曲げた。練習通り、力が入ってない感を出すのも上手だ。
「あれれー! 曲がっちゃったよ!」
「あー! それ……」
「あーうんうん、力で曲げたって言いたいのかな? それならこれはどうかな?」
ヒナノのアドリブで進行を早める。合図で俺は残った仕掛けのあるスプーンを手に取って、目の前に見せた。
「じゃあいくよー? ワンツー、はいっ!」
ヒナノが指パッチンをした瞬間に、俺は一瞬だけスプーンを振る。
その振動でスプーンの先端がポロッと落下した。タイミングはこれ以上ないほど完璧、きっとヒナノの魔法の力で落としたようにしか見えなかっただろう。
「ええっ!?」
「うえーっ!?? うっそー!??」
弟君、そして弟君より驚いている高円寺の反応に俺はニヤッとして、ヒナノを横目で見た。同じようにヒナノも白い歯が見せて、無言でこっくり頷く。
──ああ。そうそう、これだよ。
マジシャンやってて、1番たまらないのは……こんな風にお客さんの驚いた顔を見て、驚いた声を聞く、この瞬間なんだよ。




