8.連絡先交換はどんなマジックよりも難しい
息を切らしながらも、階段をダンダンダンと最上階まで駆け上がって行くと……1番上の階段に座って、退屈そうにスマホを眺めているヒナノの姿を発見した。
急いで俺は最後の階段を駆け上がりつつ、彼女の名前を呼ぶ。
「ヒナノっ!」
「あっ、シュン君! 遅いよーっ!」
俺に気が付いたヒナノは、スマホから視線をこっちに向ける。そしてほっぺを膨らまして、少し怒ったような態度を取るのだった。
「ごめん……図書室行ってて。気が付かなかった」
「もー。1人で怖かったんだからね?」
「本当にごめん……でも待っててくれたんだ」
「だってシュン君、約束破るような人じゃないし」
「えっ?」
聞いて少し驚いた。もう……そんなに俺を信用してくれてるんだな。ちょっと嬉しい。
「そっか……ありがとう」
「でも、別に許したワケじゃないけどねー?」
「えっ……? そ、そっ、そんな……!」
「ウソだって! そんな落ち込まないでよ!」
……あー。ビビった。俺もうヒナノに嫌われたら、生きる意味が分かんなくなっちゃうもん。
うん……もう俺、完全にヒナノに首ったけだな。自分でもドン引くわ。
でも……彼女は別世界の人間なんだ。だからクソ陰キャの俺がヒナノに惚れ込むことなど、絶対にあってはならないんだ────
「そうだ! またこんなことが起きたら大変だからさ、連絡先交換しない?」
「ほへっ!? おっ、俺と!?」
「ふふっ、それ以外に誰がいるのー? シュン君、今スマホ持ってる?」
いや持ってるけど……こんなことをヒナノから提案してくれるなんて。願ったり叶ったり過ぎないか。
俺は鞄の底に仕舞っていたスマホを取り出して、メッセージ交換アプリ『らいーん』を開く。
「えっと……ここからどうするんだ?」
「ふふっ、ちょっと貸してー」
「あっ」
ヒナノにスマホをひょいっと取られてしまう……いや、ヒナノなら別にいいんだけどさ、他の人に自分のスマホ渡すって謎の抵抗あるよね……俺だけ?
「ん、シュン君のスマホってカバー付けてないの?」
「うん……重いから」
「へぇ、変わってるねー。もっとトランプとかステッキとかのイラストの付いたスマホカバー付けてるかと思ってた」
……そんなマジシャン、多分いないよ。
「はい、交換したよ」
「あっ、ありがとう」
返されたスマホの画面を見てみると『友だち』の数が1つ増えていた。いつも同じ数字が変わるのが、新鮮過ぎた。
そしてとても……とても嬉しい。震えるほど嬉しい。そして誰かに自慢したいのに、誰にも出来ないというジレンマよ……!
もっとヒナノのプロフィール画面とか色々と見たかったが、流石に目の前で見る自信はないので……俺はまた、スマホを鞄の底に押し込んだ。
「……それでヒナノ。どうして先に屋上、入ってなかったんだ?」
「だって、私だけじゃ開けられないもん」
言ってヒナノは屋上へと続くドアノブをガチャガチャとさせる。
あー。そういうこと。
「それなら俺のクリップあげるよ」
「え? いいの? シュン君のは?」
「俺はいつでも作れるから」
俺は鍵の形に変えていたクリップを、ヒナノに手渡した。
「わー! ありがとう!」
「いいよいいよ……それじゃあ今日も行きますか」
「うん!」
俺はまたポケットからクリップを取り出し、コネコネして鍵の形にまた変形させて……屋上へと続く扉を開いたのだった。




