3.イタズラの期待?
俺のミスを別人格の俺に指摘され続けるのは、何か嫌な気持ちになってしまうので……俺はさっさと話を進めようとした。
「とりあえず……この話はもういいからさ。次の議題に進もうよ」
「次って?」
「これから俺が取る行動についてだよ。このままヒナノに寝たフリを続けさせるのも、何だか悪いしさ」
そう。元はと言えば、この行動を決めるために脳内会議を開いたんだよ。
そして俺が「何か案がある人は」と問うと、正面の熱血系の俺が「これ以外考えられないだろ」と前置きをした上で、自信満々にこう言った。
「んなもん、隣で愛の言葉を囁き続ければいいだろ? 『ヒナノ様、愛してるぜ』って……あっ、それか、ギュッと手を握ってやるのも悪くない……」
「……」
ヤツがそこまで言った所で、俺と残りの2人は視線を合わせて頷き……ヤツに向かって、一斉に拳を振り下ろしたんだ。
「痛てぇって!! 何すんだお前ら!!」
「それはこっちのセリフだ。 寝てる人に触ろうとするなんて気持ち悪過ぎるんだよ。捕まりたいのか?」
「でもラブコメでよくあるシーンだろ!?」
「あれはイケメンだから許されんだよ馬鹿……はぁ。今後はコイツを会議に呼ぶなよ」
「「いぇっさー」」
そして俺らはそいつにロケットベルトを装着させ……空の彼方へ消し去った。
「うわぁああァァああ!!!」
……脳内だから何でもありの世界なんだよ。
「じゃあ……次は?」
そしたら次に、ほわほわ系の俺が答える。
「はいはい! 本体が面白いギャグを連発するの! そしたらヒナノちゃんが笑いを堪えきれなくて『あー! やっぱり起きてたんじゃーん!』みたいな展開に持ち込むのはどうかな!」
「……」
答えは当然……却下である。
「いや俺、そんな笑いを取るようなキャラじゃないし……それに、この2人しかいない空間でギャグ連発してる俺って怖くない?」
「うん、怖い! 略してうんこ……」
「やれ」
「ああ」
俺らはそいつに向かってダイナマイトを投げつけて……遠くから火の矢を放った。
「んぎゃァぁー!!!」
そして……綺麗な大爆発が。
「……何か。ダンロンのおしおきみたいだな」
「それは思った」
まぁ俺同士だから、考えることも一緒なんだろうな……
「それより……残ったクール系の俺! お前だけが頼りなんだよ! 何か案を出してくれ!」
「あの2人見た後だとプレッシャー半端ないんだが……まぁ。普通に一旦席を外してやればいいんじゃないのか?」
「えっ?」
「だって本体がお姫様抱っこをしている時に、ヒナノさんは起きたんだろう? それに保健室には2人きり。きっと彼女はこの状況に落ち着いていないんだろう。だから1人にさせて、落ち着かせるのがベストなんじゃないかな」
ああ……なんてまともなんだ。何だか感動して、俺は泣きそうだよ。
「さっきの2人よりまともな案が出て良かった! お前の言う通りにするよ!」
「……」
俺はそう言ったが……何故かクール系の俺は、浮かない顔をしていたんだ。
「どうしたんだ?」
「いや……これを言ったら、アイツらみたいになりそうだから言いたくないんだが」
「え? 何もしないから何でも言ってくれよ。俺はお前を1番信用しているんだからさ」
インテリキャラは頼りないとか言ったけど……それはごめん。取り消すよ。
「いや……ヒナノさんが寝たフリを続けている理由なんだが。今になって、他の理由が浮かんできたんだ」
「何だ?」
「……マジで怒るなよ?」
「分かってるって、早く言ってくれよ」
「ああ……ヒナノさんはお前……本体に、イタズラされるのを期待しているんじゃないのかってことだ」
「イタズラ? どういうことだ?」
俺の察しの悪さにうんざりしたのか、クール系俺はビシッと指を差して……こう言った。
「……もう単刀直入に言おう。ヒナノさんはッ……! 『お前にエロいことされる』のを期待しているんじゃないかってことだッ!」
「……」
それを聞いた俺は……ヤツの脳天にドロップキックをお見舞いした。
「痛ァッ!! ……おい!! 怒らないって言ったじゃないか!!」
「あの2人よりマシだろ……はぁ」
まさかコイツまで頭のおかしなことを言うなんてな……やはり俺の脳内には、まともな人格なんて存在しないのだろうか……
「まぁ……今のは聞かなかったことにする。とりあえずお前の言った通り、一旦保健室の外に出て飲み物でも買いに行くよ」
「……」
「じゃあ……会議終了。お疲れな」
「……」
俺に蹴られたのが未だに納得いってないのか、クール系の俺はそれ以降何も喋らなかったんだ。
──
そんな脳内ひとり遊びを終えた俺は、丸椅子から立ち上がって……寝ている(フリをした)ヒナノに向かって声をかけた。
「ヒナノ、ちょっと飲み物買いに行ってくるよ。きっとヒナノが目覚めた時には、喉カラカラになってると思うからさ」
「……」
「行ってくるよ」
そう言って俺は、保健室から出て行った。
そして俺は中庭に設置されてある自動販売機まで歩いていって、アクエリを2本購入した。
……これでよし。
これで俺が戻って来る時には、きっとヒナノも落ち着いていて、目を覚ましてくれているだろう。
そんなことを期待しながら、俺はアクエリを抱えて保健室に戻って来たんだ。
「ただいまヒナノ……」
そう言って、ベッドを囲んでいたカーテンを開いた────瞬間。俺は言葉を失った。
さっきよりも明らかにヒナノの着ている制服のリボンが緩んでいて……シャツとスカートがちょっとめくれていた。
そしてヒナノは変わらず、寝たフリを続けていたんだ。
「…………えっ、えっ?」
頭が真っ白になった俺は……しばらくの間、何も考えることが出来なかったんだ。




