98.多分これが一番早いと思います
お待たせしました
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前回までのあらすじ
妹が不穏
私達は再び京都ダンジョン――正確にはその七つある内の一つである天龍寺ダンジョンへと入る。
渡月橋には再びあの迷宮武者が復活していた。
出ていくときには出現しなかったのに……。
ひょっとしたらダンジョンに入ろうとすると自動で復活するのだろうか?
≪肯定します≫
検索さんから返事があった。
どうやら私の予想は正しかったらしい。
迷宮武者は私達に気付くと、槍を高らかに掲げ「いざ尋常に勝負!」とポーズを決めようとして――、
「おりゃーっ!」
上杉さんの拳で粉々に砕け散った。
ワンパンである。
「戦闘の最中なのに随分と悠長だな。馬鹿なのか?」
『…………』
なんだろう……。迷宮武者さんが凄く何かを言いたげな感じに消えていった。
「名乗りの最中や変身中の攻撃は反則だろ!」とかそんな幻聴が聞こえた気がする。
多分、気のせいだと思う。
「……そ、それじゃあダンジョンの核のある天龍寺へと向かいましょう」
気を取り直して、私達は先へ進む。
天龍寺ダンジョンの核は文字通り天龍寺にある。
助けた女子高生たちによれば、このダンジョンは内部が京都の町並みそのままになっているようで、既存の地図が使えるらしい。
「地図だと川沿いか、町中を行くルートが無難ですかね。どっちから向かいましょうか?」
という訳で、検索さん教えてください。
≪真っ直ぐに町中を通り抜け、中門から入る事を推奨します
川沿いは途中から回り道をしなければならず遠回りになります≫
成程、了解です。
私達は天龍寺を目指して町中を進む。
てっきり大量のモンスターが襲い掛かって来るものと思っていたのだが、
「……モンスター、居ないね?」
「ですね」
先輩の言葉に、私も頷く。
もうすぐ中門に着くが、モンスターは一体も出てこなかった。
人もモンスターも居ない京都の町並みは静かで、恐ろしい程に不気味だった。
なんか子供の頃に見た人が消えた町の映画を思い出す。
「……なんか静かすぎて怖い」
先輩はそう言って、私の服の裾をぎゅっと掴む。
可愛い。守ってあげたくなる。
「みゃぁ」
「うわっ、びっくりした。急に肩に乗って……、ひょっとして勇気づけてくれてるの?」
「みゃぅーっ」
その通りだとハルさんは頷く。
流石、ハルさん。かっこいいです。そして先輩が羨ましいです。
一方で、三木さんは全く表情を変えずに興味深く京都の町並みを観察している。
「……ひょっとしたら渡月橋での上杉さんの強さを見て、ダンジョンが警戒してるんじゃないですか?」
「……かもしれません」
三木さんの考えに私も同意する。
ダンジョンは生き物だ。
強い外敵が侵入すれば、警戒もするだろう。
「なぬ!? 私の所為か?」
「別に上杉さんの所為じゃないですよ。それにシェルハウスの中に居るとは言え、ボルさんやベレさん、リバちゃんといった強いモンスターも居るんです。遅かれ早かれ、ダンジョンには警戒されていたでしょう」
「とすれば、今頃は天龍寺周辺にモンスターを集めて防衛準備を進めてるのかもしれませんね。楽しみですね。ダンジョンのモンスターってどんな味がするんでしょうか?」
「気になるところ、そこですか……」
相変わらずブレない三木さんである。
ちなみに倒してゲットしたモンスター肉の殆どは、リバちゃんのご飯になっている。
毎回、美味しそうに食べていますとも。
「……もうすぐ中門に着きます。モンスターはいなくても、トラップが仕掛けられている可能性はあります。周囲の警戒は怠らないようにしましょう」
先輩たちもこくりと頷く。
そして私達の予想は当たっていたらしい。
中門に近づくにつれて、大量のモンスターの気配が伝わってきた。
「これは……かなりの数ですね」
感じる気配は、ゴブリン、オーク、レッサー・ウルフと弱いモンスターが殆どだが、中にはあの鎧武者クラスのモンスターの気配も複数ある。
間違いなく天龍寺ダンジョンのモンスターを全て集めたのだろう。
私達はダンジョンに余程警戒されているらしい。
『……ふむ、雑魚ばかりではないな。一体、明らかに格の違う気配がある。おそらくこれは天龍寺ダンジョンの核だろう』
「うわっ、びっくりしたっ!」
いつの間にかボルさんが後ろに居た。
『……あ、すまん。驚かせるつもりはなかったのだが……』
「あ、いえ。こちらこそすいません……」
ボルさんが申し訳なさそうに謝る。むしろ悪いのは私の方です。
向こうの気配に気を取られて、つい近くの方まで気が回らなかった。
……反省しなきゃ。
「核がモンスターの姿になってるって事ですか?」
『いや、正確には核を守る『殻』だろう。結界で守るよりも、モンスターの殻で武装するとは随分と好戦的なダンジョンのようだ』
「……ダンジョンにも性格があるんですね」
『生物なのだ。当然だろう』
≪補足。京都ダンジョンは全て親のダンジョンである『バージィス』の特性を濃く受け継いでいます。好戦的なのはバージィスの影響でしょう≫
検索さんの補足が入る。
好戦的なダンジョンとか怖すぎるんですけど。
『ともかく向こうが迎え撃つつもりなら好都合だ。こちらも総力を挙げて蹴散らしてしまえばいい』
『だな』
「きゅぃー♪」
ベレさんとリバちゃんもシェルハウスから出てきた。
リバちゃんは体を光らせ、元のリヴァイアサンの姿へと変化する。
「よし、それじゃあ最初のダンジョン攻略と行きましょう!」
「「「おー!」」」
さあ、天龍寺ダンジョン攻略開始だ。
「ギィィイイイイ!」
「ブモォォオオオオオオオオッ!」
「シャアアアアアアアアアア!」
「プギー!」
中門へ辿り着くと、大量のモンスター達が待ち構えていた。
分かっていたとはいえ、凄い数だ。
これが全部ダンジョンによって生み出されたモンスター……。
これだけ近くだと理解出来る。
確かに今までに感じたモンスターとは気配が違う。
そして、その奥――法堂の前に明らかに別格と思われる一体が居た。
それは巨大な六本腕の鎧武者だった。
大きさは渡月橋の迷宮武者の倍ほどはあるだろう。
三面六臂のその姿は、武者と言うよりも仏像のような畏怖さえ感じてしまう。
間違いない。アレが天龍寺ダンジョンの核だ。
「なるほど、確かに強そうだな」
上杉さんが好戦的な笑みを浮かべる。
「間違いない。感じる。感じるぞ……アレだ。アレを倒せば私はレベルが上がる。JPが手に入る……。無職じゃなくなる。よし、アレは私が倒そう。ふふ、ふふふ……」
あれ? なんか怖いんですけど、この人。
「いざ!」
「あ、上杉さん、ちょ、ま――」
私の静止も聞かず、上杉さんは一気に駆け出した。
よーい、どんっ!って感じで。
……おかしいな。上杉さんが走った後に音が鳴った気がする。
先程まで上杉さんの居たところを見れば、コンクリートの地面にしっかりと踏みしめた『足跡』が付いていた。
「ギ……ギィィイイイイ!?」
「ブ、ブモォォオオオオオオオオッ?」
「……シャ、シャアアアアアアアアアア!?」
「プギャアアアアアアアアー!?」
上杉さんがただ通っただけで、その軌道上に居たモンスター達が全て轢かれた。
轟ッ! って感じに大気が爆ぜて、なんかもう凄い事になってた。
余波でモンスター達が待ち構えていた駐車場の木々が倒れ、コンクリートの大地がめくり上がり、モンスター達が紙ふぶきのように吹き飛ぶ。
ただのダッシュがもはや人間ミサイルだ。
『――?』
ダンジョンの核である巨大な六本腕の鎧武者はぽかんとしていた。
多分、何が起こったのか分からなかったのだろう。
――鎧武者の下半身が消失していた。
ギリギリ、上杉さんが拳を振るったところまでは見えた。
力を一点に集約させたその拳は、周囲を破壊しない代わりに、鎧武者の下半身を消し飛ばしたのだ。……どういう理屈でそんな芸当が出来るんだろう?
重力に従い鎧武者の上半身が地面に落ちる。
そこでようやく己の現状に気付いたらしい。
『~~~~~~~~~ッ!?』
じたばたともがくが、もう遅い。
残った上半身も、上杉さんはぐしゃっと踏みつぶした。
鎧武者は塵となって消えた。
上杉さんの足元にはダンジョンの核と思われる魔石が現れていた。
『……圧倒的だな』
ベレさんの言葉は、私たち全員の意見の代弁であろう。
それだけ上杉さんの力は強すぎた。
せっせと防衛準備をしていた天龍寺ダンジョンが哀れに感じてしまう程に。
「よし! 遂にレベルが上がったぞ! これで私も無職じゃなくなる。ふふ、ふはははは、ふはーっはっはっはっはっは!」
まるで魔王のように高笑いする上杉さんに私達はただただ茫然とするしかなかった。
「や、やったね、あやめちゃん! これでダンジョン一つ目攻略だね!」
「そ、そうですね、先輩! ええ、やりましたね!」
「…………もうあの人、一人で残りのダンジョンも攻略出来るんじゃないですかね?」
三木さん、それは言わないで下さい!
私も一瞬、同じ事思ったんですから!
何はともあれ、こうして私達は一つ目のダンジョンを攻略したのだった。
ただ一つだけ、言わせてください。
……ダンジョン攻略ってこういうのだっけ?




