97.事情を聴きます
前回までのあらすじ
あやめ達は剣聖になるためのアイテムを求めて京都へやってきました
京都はダンジョンになってました。
女子高生を助けました
妹もここに来てると言われました ←今ここ
――妹がここに居る。
その情報に、私は心臓が跳ね上がるかと思った。
何とか気持ちを落ち着かせると、私達は彼女達からさらに詳しい話を聞いた。
「京都がこうなって、最初の内はまだなんとか出来たんです……。モンスターの数も多くないし、モンスターは入って来れない場所や、食料が手に入る場所もあったので……」
「……そんな場所があったの?」
「はい。ホテルやいくつかの建物には、何故かモンスターは入って来なかったんです。あと、コンビニとかお土産屋さんとか、いくら食料を持って行っても、次の日にはまた食料が置いてある場所があって……。それでなんとか生き延びる事が出来ました」
そんな場所があるんだ。
検索さん、どういう事ですか?
≪ダンジョンにはいくつか『安全地帯』と呼ばれる、モンスターが入れない場所が存在します。また侵入者に食料を供給する為の『食料庫』も存在します≫
……どうしてわざわざそんな場所があるんですか?
そんなものを作って、ダンジョンに何のメリットがあるんです?
≪侵入者をより長く、ダンジョンに滞在させるためです。ダンジョンは侵入者を殺すことによってエネルギーを得ますが、侵入者をダンジョンに長期間滞在させるだけでも、対象からエネルギーを得ることが出来ます。殺して得られるエネルギーに比べればその量は少ないですが、数が多くなれば、得られるエネルギーも多くなります。なのでダンジョンは『安全地帯』や『食料庫』、『宝箱』を創り、より長く、より大勢の人間やモンスターをダンジョン内に滞在させようとするのです≫
なるほど……ん?
でもその安全地帯や食料とかもダンジョンが創っているのですよね?
消費するエネルギーの方が多いんじゃないんですか?
≪ダンジョンで一番エネルギーを消費するのはダンジョンの規模を広げる『拡張』、次いで『生物創造』――配下となるモンスターの創造です。『宝箱』や『食料』を生成するのに必要なエネルギーはそれに比べればほんの極わずかです。『安全地帯』に至ってはエネルギーを消費する必要すらありません。配下のモンスターに近づかせないように指示するだけでいいのですから≫
燃費も良く、エネルギー回収も効率的に行える、か……。
ひょっとしてダンジョンって生物としてはかなり凄いんじゃないだろうか?
あれ? でも検索さんの情報が正しければ、あくまでダンジョン内の『安全地帯』はダンジョンの気まぐれで成立してるって事になるのでは?
「大変だったんだね」
「はい。……でも昨日の午後くらいから急にモンスター達がホテルにも入ってくるようになって……」
検索さんの情報を肯定するように、彼女達は証言する。
「それで皆で必死にホテルを守っていたんですが、モンスターの数はどんどん増してくばかりで……。葵ちゃんの指示でバラバラになって逃げようって」
「うん。まとまって逃げるより、生き延びれるからって」
「そうそう。そう言ってた」
彼女達はそう言う。
そしてここまで逃げてきたって事か。
「じゃあ、葵ちゃんがどうなったかは?」
「……分かりません」
まあ、そうだよね。
多分、この感じだと私達みたいに連絡を取り合えるスキルも持ってないだろうし。
「ともかく彼女達を一旦、安全なところまで連れて行こう」
「そうですね」
私達は一旦、ダンジョンを出ることにした。
幸いにも戻る際には、渡月橋にあの鎧武者のモンスターはいなかった。
近くの避難所を教えると、彼女達から何度もお礼を言われた。
一緒について行こうかと提案したが、それは断られた。
「本当に大丈夫?」
「はい。あとは自分達でなんとかします。その……お姉さん方はまたダンジョンに行くんですか?」
「うん、行くよ。葵ちゃんやまだ生きてる人を探さないといけないからね」
それにダンジョンには剣聖になるためのアイテムがある。
刃獣との約束を果たすためには、どうしても京都ダンジョンを攻略しなくてはいけない。
すると一人が私の手をぎゅっと握ってきた。
「その……助けて貰って、こんな事言うのも心苦しいんですがお願いします。葵ちゃんを助けて下さい……。私達、絶対にまた会おうねって約束したんです」
「うん……。勿論だよ。絶対に助ける」
だって私の妹だもん。
絶対に助けるよ。
「うーむ、でも九条の妹か。案外、助けるまでもなくばんばんダンジョンを攻略してたりしてな」
「上杉さん、こんな時に冗談は――いや、ありえるかも」
あの子、私よりも全然凄い子だし。
現に彼女達をまとめ上げて、こうして今日まで生き延びてきているんだ。
「ともかく早くダンジョンに戻りましょう。他の生存者も見つけ出さないと」
「そうですね」
三木さんに促され、私達は再びダンジョンへと入る。
葵ちゃん、どうか無事でいて。
一方その頃。
彼女は『ハーディス』のダンジョンでモンスターと戦っていた。
「おりゃああああああッ!」
「ギィィイイイイイイ!?」
彼女が戦っているのは、『アーリマン』と呼ばれる巨大なコウモリのようなモンスターだった。
空中を自在に飛び回り、急降下して牙や爪で攻撃してくる。
その動きは非常に素早く軌道も読みにくい。
だが、彼女はその動きにしっかりと対応していた。
「ここだ!」
彼女は手に持った銃でモンスターの頭を見事に撃ち抜く。
モンスターは一撃で絶命し、魔石を残して消滅した。
≪経験値を獲得しました≫
≪クジョウアオイのLVが22から23に上がりました≫
≪熟練度が一定に達しました≫
≪スキル『射撃』がLV3から4に上がりました≫
≪スキル『攻撃予測』がLV1から2に上がりました≫
「よしっ終わった。もう出てきていいよー」
『うわぁー、すごいすごい! さすが、あおいさんです』
「へっへー、でしょ?」
物陰に隠れていた少女は出てくると、ぱちぱちと葵に拍手を送る。
真っ白な髪に、真っ白な服を着た小学生くらいの少女だった。
にこやかにほほ笑むその瞳は爛々と赤く輝いている。
「えーっと、『アーリマンの魔石(中)』か……。結構、大きいじゃん
ともかくこれでこの辺に居たモンスターは全部倒したかな」
『うん。ませきもいっぱいです』
「だね。さあ早くダンジョンを攻略しないと」
『うん。あおいさんならぜったいできるです』
彼女――九条葵は拾った魔石をボリボリと噛み砕くと、少女と一緒に歩き始めた。




